特殊なプレイか拷問か
そのまま白猫堂に戻って小紅がサボりから戻ってくるのを1人で待っているのが俺にとってはベストな選択だった。
なのに、なぜかソフィアがノリノリでもう少し遊んであげた方がいいとか言って街の隅にある小さな公園に連れていかれる。
「ほら、ルカ君、あんよが上手、あんよが上手」
アリベルに地面に下ろされて、少し離れたところで手を伸ばしているソフィアによろよろと近付く。
姿を変えられた直後はもう少しちゃんと歩けた気がするのに、ずっとソフィアに抱っこされていたからか、それとも本格的に赤子に近付いているのか。
ソフィアの元に着いた時にはバランスを崩して転びそうになっていて、ソフィアの足にどうにか抱き着いた。
「わーすごいですねぇ!ルカ君、ぱちぱちぱち」
「ソフィア……雇い主にこんなこと言いたくないけど、後で覚えてろよ」
「いいじゃないですか。私、小さい子の世話をするのは初めてなんです。勉強になりますね」
「ソフィアはずっと面倒を見られる側だったものね」
俺の後ろに来ていたアリベルがソフィアに応える。
俺はソフィアの膝に隠れて屈辱に歪んだ顔を見えないようにする。
「ええ、こんな風にいろんなことができるようになったのも、アリベルのおかげです」
「ソフィアは頑固過ぎるのよ」
何か変な会話だと思いつつ、俺は1歳児らしく黙って2人に挟まれていた。
アリベルの手が伸びてきて、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「随分大人しい子ね。疲れたのかしら」
「もしかして、お腹が空いたんじゃないでしょうか?」
「そう?あっちの店に赤ちゃん用のお菓子が売ってたわよね。買ってくるわ」
アリベルは俺を抱き上げてソフィアの膝の上に乗せると、そのまま駆けていった。
いつも以上に働き者だ。年下で世話が必要なソフィアと付き合っているだけあって、元々の性格がすごく面倒見が良いのかもしれない。
「ルカ君、せっかくだから、今の可愛い姿を記録しておきましょう」
そして、面白がってばかりのソフィアはカード型のカメラを取り出して俺に向けている。
最新の術式が刻まれた高画質で動画も記録できるカメラだ。
「何がせっかくなんだよ」
「アリベルは孤児ですから、小さい時の記録が何も残っていないんです。それってもったいなくないですか?」
「そうか……確かにそうだな。俺も、この頃の自分を見たことないし」
「でしょう?では、1歳児らしく無邪気にその辺りを走り回ってください」
「まぁ、それくらいなら」
ソフィアの膝から地面に降りて走ろうとしたが、2、3歩歩いてすぐに転んだ。
頭が重いから手を着く間もなく顔から倒れて、本当の赤子だったら大泣きしていただろう。しかし、ソフィアは嬉しそうにカメラを回している。
「ソフィア……ちょっと無理かもしれない……」
「そんなことないです。ルカ君、泣いてる姿もちゃんと残しておきますから」
「スパルタ過ぎる……」
「それで、昆虫を食べようとするところを私が止めますので、涙を堪えて子供らしく一言」
「いきなり大喜利みたいになってきたな」
「だって可愛いじゃないですか。はぁ、小さい……」
ソフィアが俺の頬を両手で包んで、むぎゅむぎゅと動かした。
このサイズだとソフィアの方がずっと力が強くて、普通の1歳児だったら泣き出している。
ソフィアが子供の世話に慣れていないというのは本当のようだ。
「そ、ソフィア….…痛い……」
「ちゃんと目があって、鼻があって……歯も小さいんですね。これから大きくなるんですか?」
「ま、まて、そふぃあ……あがが……」
ソフィアは、まさかみむねと同じタイプか。
このままだと、そこの滑り台から落として潰れるか試してみようとか言い出すかもしれない。
「ちょっと、ソフィア!そんなに弄り回したら可哀想でしょ!」
命の危険を感じていると、ちょうど戻ってきたアリベルがソフィアの膝から俺を取り上げた。
「でも、アリベル。こんなに小さいのにちゃんと人間みたいなんですよ」
「だから、人間なんだってば!もーソフィアには任せられないわ……ごめんね、大丈夫だった?」
アリベルがそう言って、俺の顔を正面からじっと見る。
そんなに顔を見られたらさすがに気付くんじゃないかと思ったけど、アリベルはソフィアに揉まれた俺の頬をそっと撫でた。
「痛くない?それでね、これなら食べられると思うんだけど、どうかな?はい、あーん」
アリベルに言われるままに口を開けると、アレルギーに配慮した気配がする薄味の体に良さそうなお菓子を放り込まれる。
いつもだったら味が薄くてそんなに美味しく感じないのに、今の味覚だとちょうどいい。
「おいしい?もうちょっとだから、我慢しててね」
アリベルが俺を抱き上げて背中を叩いて、そのリズムで眠くなってきた。
アリベルはメイドとしてはポンコツなのに子供の世話は上手い。
この姿にならないと絶対気付けなかったことだと思いながら、眠気に耐えてアリベルの腕にしがみ付いていた。
アリベルの背中を叩くリズムが、少しゆっくりになった。
子守唄でも歌ってくれるんじゃないかと思ったけど、アリベルは何も言わなかった。
ただ、当たり前のように俺を抱えて、背中を叩き続けていた。アリベルにとっては赤子だって十分重い荷物のはずなのに。
そして、そんな俺の姿をソフィアが熱心に録画している。
これは、後で脅される時の材料に使われそうだ。




