新たな力
俺が指揮するロレアーノ王国侵攻軍の別動隊は順調に進軍している。
ロレアーノ王国は、予想通りあまり強い抵抗はしてこなかった。
中にはもぬけの殻の城や砦なんかもあって、領民に聞いてみると『軍隊は南の方に向かって行った』と教えてもらえた。
しかし全く抵抗がなかったかと言うとそうでもなくて、俺にとっては都合良く散発的な抵抗があった。
俺はその度に違う諸侯を中心にしてロレアーノ王国の軍を潰していったのだった。
毎回中心になる諸侯を替えているのは、手柄を分散させるためだ。
手柄が偏ると不満がたまる。俺はかなり気を遣って手柄を分配している。
最初の内は俺の采配に反発する貴族もいたが、そう言うのを黙らせてくれた存在がいる。
ローゼンベルク侯爵だ。
ローゼンベルク侯爵が俺を擁護してくれるようになってから、諸侯からの反応が明らかに変わった。
『あのローゼンベルク侯爵が認めたなら』そんな空気を感じる。
そんな感じで順調に侵攻が進んでいく中で、俺は一人の気になる兵士を見つけた。
大柄な男で、戦闘中は敵兵をまとめて薙ぎ払っている。
何故か『どんくさい』と指揮官に怒鳴られていたが……。
「お前。名前は何という?」
「オラはベルントって言います」
気になったので話しかけてみた。
名前を聞くと、『ベルント』と返って来た。
「指揮官様がなんの御用で?」
ベルントは貴族である俺を警戒しているようだ。
「いや、すごい力だなあと思ってな」
「は、はあ……。オラは力には自信ありますもんで。それしかねえんですけど」
少し訛りはあるが、善良な男のように感じた。
純朴と言うのが相応しいかも知れない。
「何で指揮官に怒鳴られていたんだ?」
ベルントはやたら怒鳴られていた。
ベルントが何かする度に怒鳴られていて、その度にベルントがぺこぺこと頭を下げていたのが印象的だった。
「オラ、力しかねえもんで。でも飯をたくさん食うもんで……『無駄飯食らい』って怒られるんです」
『無駄飯食らい』か……。俺もそんな事言われたなあ。ちょっと親近感。
しかしこのベルントと言う男。ヴォーベル男爵の領軍に所属しているが……。
もしかしたら……と思う。
俺はこのベルントが『例外』にまで育つんじゃないかと感じている。
一人で戦況をひっくり返すような『例外』。
そんな存在に成長するんじゃないかと思っている。
(――欲しいな)
フランツ殿下の派閥にはまだ俺しかいない。俺の下にはエルザがいるが、それを入れても二人だけだ。今は一人でも多く強力な手駒が欲しい。
ベルントはあまり良い扱いを受けてはいないようだ。
交渉すればこちらに譲ってくれるかもしれない。
俺はヴォーベル男爵と交渉する事にした。
「何か用かねアッシュフェルト男爵」
ヴォーベル男爵の元を訪ねると、ヴォーベル男爵は少し迷惑そうな顔をして迎えてくれた。同じ男爵にもかかわらず、俺が別動隊を指揮する立場に立っているのが気に入らないのだろう。
「実は……ベルントと言う兵士の事なんですが」
爵位は同じだが相手は年上。
しかも俺は叙爵されたばかりの若造だ。ここは下手に出ておく。
「あの無駄飯食らいか。あいつがどうかしたかね?」
「もしよろしければ譲ってほしいのです。私はまだ叙爵されたばかりで部下も少なく……」
本当に困っているような表情を作ってお願いする。
「……ふむ。あんなので良ければ構わん……と言ってやりたい所だが、あれでも私の兵士だからなあ」
男爵は勿体ぶっている。『対価をよこせ』と言うことだ。
「実は……『次の戦場ではヴォーベル男爵を一番槍に』と推す声が挙がっておりまして……」
弱いロレアーノ王国軍相手に帝国は連戦連勝だ。
『当たれば勝つ』状態。
誰もが『うちにやらせてくれ』と希望している状況でこの《《餌》》をぶら下げてやる。
「ほう!なるほど。叙爵されたばかりでは卿も大変であろうな。よろしい。あの『無駄飯食らい』は卿にお譲りしよう」
「ありがとうございます」
よし。交渉は成立だ。
ヴォーベル男爵との交渉を終えてベルントの元へ向かう。
「ベルント。ヴォーベル男爵と交渉した。今からお前は俺の部下だ」
「へ?え?」
ベルントは混乱している。
貴族の都合で振り回す事になって申し訳ないが、俺はお前が欲しい。
「ヴォーベル男爵からお前を譲り受けたんだ。だからお前は俺の部下になったってことだ」
「は、はあ……オラが指揮官様の部下になったってことですかい?」
「そう言うことだ」
俺が言った事をそのまま復唱してやっと理解できたようだ。
混乱するよな。突然でほんとにごめんな。
「わかりました……。オラは飯さえ食えれば一生懸命働きますんで、よろしくお願いします」
腹さえ満たしてやれば戦場で大暴れしてくれる。
これは良い兵士が手に入ったぞ。
「ああ。よろしく頼むぞ。……それで、お前の家族はどうする?お前が望むなら、帝都で暮らせるようにしてやるが」
「オラに家族はいねえです。オラは一人だもんで」
「そうか……」
好きなだけ食って良いからな……!
ベルントには戦場で暴れ回ってもらわなければならない。
指揮官である今の俺の手元に置いておいても宝の持ち腐れだ。
なので、ローゼンベルク侯爵にお願いしてベルントをしばらく預かってもらう事にした。
「ほう。中々面白い男を見つけたな。卿は人を見る目があるようだ。……よろしい。しばらくは私が預かろう」
ローゼンベルク侯爵は快くベルントを預かってくれると言ってくれた。
「大食らいなので、気が済むまで食べさせてやってください。その分の食糧はこちらから出しますので」
ベルントには好きなだけ食べさせて、気持ちよく大暴れしてもらおう。
こうして俺の部下に新しくベルントが加わった。
ローゼンベルク侯爵の領軍に混じって、周囲がドン引きするほど食いまくっているベルントを見る。
(いっぱい食べて、その分暴れてくれよ)
大暴れして、俺の直感は正しかったと証明してほしい。
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