軍議
ガルドフェルト帝国によるロレアーノ王国とルバリエ両国への侵攻が開始された。
フランツ殿下を大将とした帝国軍ロレアーノ王国侵攻組はロッカで合流した。
「今回の侵攻は軍を二つに分けて東西から攻めて行こうと思う。アルバートには別動隊の指揮を任せる。頼んだよ」
フランツ殿下は東側から、俺は西側からロレアーノを南下して行くように侵攻していく事になった。
男爵にすぎない俺が別動隊の指揮を任された理由はただ一つ。
殿下の子飼いの貴族が俺しかいないからだ。
こういうのは派閥から選ばれるからね。
ロレアーノ王国侵攻組は、そのほとんどが諸侯の領軍で構成されている。
当然俺が別動隊の指揮官を任せられた事に不満を持つ貴族は多かった。
……いや、ほとんど全員が不満を持っていた。
今も軍議の最中だと言うのに、俺の話を聞いている者はほとんどいない。
これは良くない。
うまく懐柔して、せめてこちらの言う事を聞いてもらえるようにしなければ。
「皆さん」
俺が大きく声を出すと、諸侯が一斉に俺を睨みつけた。
(おーこわ。びびるな。言いくるめろ)
俺は一度深呼吸してから話し始めた。
「ぽっと出の男爵などが別動隊の指揮官を任せられて、皆さんご不満でしょう」
『わかってるなら辞退しろ』と言いたげな視線が俺に突き刺さる。
「これまでに数多くの武功を挙げられた諸侯の皆さんに比べれば、私など若輩も良いところ。若造などに指揮を任せられぬというご意見はごもっとも。しかしご安心を。皆さんが歴戦の猛者であることを私はよく理解しています」
一旦諸侯を見渡してみる。
『とりあえず話くらいは聞いてやろう』と言う雰囲気が出てきた。
ここからが勝負だ。
「私はフランツ殿下の腰巾着。皆さんの功をかすめとろうなどと恐れ多いことは考えてはおりません。皆さんの功は全て記録させていただき、皇帝陛下に全て奏上させていただく事をお約束いたします」
『あなたたちの功績を自分の物にしようなんて考えてませんよ。功績は全部あなた達の物ですよ』とアピールする。
元より俺があげるべき功績はただ一つ。『ロレアーノ王国を攻め滅ぼす事』だけだ。個別の功績は必要ない。
『話を聞いてやろう』と言う雰囲気が強くなってきた。ここまでは順調だ。
もう一押し。
「今回の敵はロレアーノ王国。歴戦の猛者である皆さんはよくご存じでしょう。弱兵で有名なロレアーノ王国です。相手が弱いからこそ私のような若造に任せられたのです。皆さんの武功を余すところなく記録するために」
『あくまで俺は皆さんの功績を見届けるだけですよ』と強調する。
「かつてロレアーノ王国の支配地域であったロッカには、現在総督府が置かれています。ヴィルヘルム殿下の采配です。国外の領地の統治として、非常に合理的な判断であったと思います」
諸侯のほとんどはヴィルヘルム殿下支持だ。ヴィルヘルム殿下を持ち上げて『こいつわかってるじゃないか』と思わせる。
俺に、共感させる。
「そして今回ロレアーノ王国を攻め滅ぼせば、恐らくその総督府の元で統治されるでしょう。ロレアーノ王国は大きな国ではありませんが、新たな領地が増えます。それも、小さいとはいえ一国が丸々手に入るのです」
餌をちらつかせていく。
「さて、ロレアーノ王国を攻め滅ぼした時に、歴戦の猛者である皆さんの武功はいかほどにまでなっているでしょうか。持参してきた羊皮紙が足りるのか。私の心配はそこだけです」
諸侯の目の色が変わった。
ぎらついた目をしている。頭の中は褒美の事でいっぱいだろう。
『新しい領地がもらえるかも知れない』『役職が与えられるかもしれない』
そんな皮算用をしている目だ。
「私が皆さんにお願いしたいことはただ一つ。私が『こっちへ攻めよう』と言った時に、それに同意していただきたい。それだけです」
今回の相手は弱兵で有名なロレアーノ王国だ。
数もこちらが勝っている。普通に当たれば勝てる。
懸念点は諸侯が俺に従わない可能性がある事だけだ。
今は最低限『今回の遠征の間くらいは言う事を聞いてやろう』くらいには思ってくれているだろう。
それでいい。
「卿は中々やり手だな。諸侯を手玉にとっていた。皆目をぎらつかせておるわ」
軍議の後で声をかけてきたのはローゼンベルク侯爵だった。
クラウス・フォン・ローゼンベルク侯爵。
ローゼンベルク侯爵領は俺の実家であるシュターブ伯爵領の隣にある。
今回ローゼンベルク侯爵率いる領軍は、地理的な理由でロレアーノ王国攻めに編成されている。
俺の実家とも交流があり、俺も何度か侯爵には会ったことがある。
この別動隊の中で唯一最初から俺に好意的だった人だ。
縁があってよかった。
「言った事は全て本当の事です。ロレアーノが弱兵であることも、帝国軍が戦場慣れしていて強いことも。そして恐らく皆さんが武功まみれになることも」
「はっはっは。確かにそうだな。……ふむ。君はフランツ殿下についているのだったな。思えば初陣でロッカを手に入れたのもフランツ殿下。これは私も一考せねばならんかもしれんな」
そう言ってローゼンベルク侯爵は自分の領軍へと戻って行った。
ローゼンベルク侯爵がフランツ殿下についてくれると流れが変わるんだけど……。
「アルバート様!」
エルザが俺の元に駆け寄って来た。
今回もエルザは俺の副官と言う立場だ。
諸侯へ指示する権限はないので、意見を聞くくらいしかできないのがもどかしい。
「エルザ。このまま西側を南下していく。ロレアーノ王国の抵抗はどの程度になると思う?」
「あまり強い抵抗はないと思います。数でも質でも劣るロレアーノ王国は、ある程度領地を明け渡し、重要な拠点に兵を集めて決戦を挑んでくる可能性が高いと思います」
「だよなあ。なら、そこまではこちらの消耗を抑えながら進むのが大事か」
「そうですね」
エルザも同意してくれた。
さて、何とか諸侯を動かして消耗を抑えながら決戦まで持って行こう。
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