フランツ・フォン・ガルドフェルト皇帝陛下
「父上は討たれたか。ふうん」
帝都ヴィントールの城に帰還してすぐに報告が入った。
フランツ殿下は特に気にした様子もなく、いつも通り爽やかな笑みを浮かべている。
ハインツ皇帝陛下はザカルシュが攻め入ってきた際に防衛の指揮を執った。
最後まで戦ったらしいが、あえなく討たれてしまったとの事だった。
「カール兄さんは捕縛されて牢屋に入れられていたのか。生き残ったんだねえ」
カール殿下は寝室に閉じこもっていたところを捕縛されたらしい。
今は解放されてザカルシュを皆殺しにしろと当たり散らしていると聞かされた。
「さて。誰が後継者に選ばれるかな」
フランツ殿下は余裕の表情だ。
自分が選ばれることを全く疑っていないようだ。
本当に選ばれるんだろうけど。
一週間後。
新しい皇帝を選ぶにあたって、皇子達が主催して会議が開かれた。
参加しているのは皇子三人と叔父である大公。それに有力貴族達。
そして俺である。
「ウィルヘルム殿下が後を継がれるのが当然では?」
ウィルヘルム殿下の派閥の有力貴族が声をあげる。
「ロレアーノ王国にザカルシュを攻め落とし、帝国領土を奪還したのはフランツ殿下ですぞ?フランツ殿下こそ皇帝に相応しい」
フランツ殿下に鞍替えした貴族が反論する。
「皇帝に相応しいのは僕だろう。帝都を最後まで守っていたんだぞ!」
カール殿下の主張には誰も耳を貸さなかった。
「私はフランツ殿下を支持しよう」
ザカルシュから急ぎ帰還して会議に参加しているローゼンベルク侯爵が、フランツ殿下支持を表明した。
「なんと……ローゼンベルク侯爵はフランツ殿下支持か……」
「そうなると話は変わってきますぞ」
「功績は充分。対してウィルヘルム殿下はルバリエで敗北している」
「領土を奪還したのもフランツ殿下だ」
「ならば私もフランツ殿下を支持しましょう」
場の空気がフランツ殿下支持に染まりつつあった。
「おかしいだろ!フランツなんかを皇帝にするなんて、許されるわけがない!」
カール殿下はなにやら喚いているが、誰も聞いていない。
「俺は……フランツが帝位を継ぐべきだと思う」
ウィルヘルム殿下のこの一言が決め手となって、会議はフランツ殿下が帝位を継ぐことでまとまった。
「ふふっ。ここまでうまくいきすぎると、ちょっと怖いね」
会議が終わり、今はフランツ殿下の私室でお茶を飲みながら話している。
「皇帝になったら、まずはアルバートを伯爵に昇爵するからね」
「ありがとうございます」
俺としては男爵のままでも良かったんだが、ここからはある程度の力を持っていないと潰される恐れがある。主に謀略とか。なので素直に昇爵は受ける。
「それと、アルバートもそろそろ結婚した方がいいね。相手は僕は見つけておくから、楽しみにしておいてね」
「結婚、ですか」
「誰か心に決めた相手でもいるのかい?」
「いえ。そういうわけでは……」
「僕達の結びつきの強さをアピールするためにも、僕が見繕った子と結婚してくれ」
「わかりました」
拒否権なんてないのだ。
元より俺が誰と結婚するかは、俺が決められる事じゃない。
父上が決めるかフランツ殿下決めるかの違いでしかない。
「それから……」
殿下は何やら考え込んでいるようだ。
「それから……それから、何をしようか?」
エルザが言っていたように、考えていなかったらしい。
「指針だけでも決めましょう。領土拡大を目指すのか、今のまま維持するのか」
「うーん……維持はつまらないなあ」
「では、拡大を目指しますか?」
「……そうだね。そうしよう」
殿下はあっさりと拡大路線の方針を決めた。
「ウィルヘルム殿下とカール殿下はどうされますか?」
「大公にするとして、どうするのがいいと思う?」
「ザカルシュに総督府を置き、ヴィルヘルム殿下を総督とするのがよろしいかと」
「ロレアーノの王族はどうするんだい?」
「彼らはいまだに敵対心を隠そうともしていません。総督は任せられません」
「そうか。じゃあそうしよう」
俺の意見を聞き、そのまま採用していく殿下。
これではまるで俺の傀儡のようだ。
「カールは……適当にどこか空いてる領地にでも放り込んでおけばいいか」
「そうですね」
カール殿下には下手に役職を与えるのは良くないだろう。
会議での振る舞いを見る限り、反抗的で権力を濫用するタイプっぽい。
「とりあえず今決めることはこれくらいかな?」
「喪に服す意味も込めて、動き出すのは1か月ほど待った方が良いでしょう」
「そうだね」
戴冠式当日。
式はシンプルなものだった。
長ったらしい儀式をめんどくさがったフランツ殿下が、正式な工程を省略したのだ。
玉座の前に立ち、王冠を手にとって自分の頭に載せるフランツ《《皇帝陛下》》。
玉座に座った陛下の前には多くの貴族が跪いて頭を垂れている。
その最前列の中央には俺。
「我ら一同、フランツ・フォン・ガルドフェルト皇帝陛下に忠誠を誓います」
代表して俺が陛下に忠誠を誓う。
フランツ様が殿下だったころの派閥には貴族家当主は俺一人だった。
自動的に派閥の長は俺ということになっていた。
そのため陛下が皇帝となった瞬間、俺は陛下の右腕に納まったのだ。
「フランツ・フォン・ガルフォフェルト皇帝陛下、万歳!」
『皇帝陛下、万歳!』
参列した一同が万歳の声をあげる。
これにて正式に、フランツ・フォン・ガルドフェルト皇帝陛下の治世が始まったのであった。
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