狂気
ロレアーノ王国軍は王都ルオーレの中に退いて行った。
恐らく街を丸ごと利用しての防衛線を挑むつもりだろう。
殿下の指示によって帝国軍は進行を止め、街を包囲するように展開したのだった。
「なぜ止めたのですか!あのまま攻めていれば、今頃王都は陥落していたはず!」
「明らかに引き込もうとしてたからねえ。誘いに乗る必要はないだろう?」
「弱気過ぎます!弱兵相手に小細工など不要!攻めて攻めて攻めまくるのです!」
「……」
軍議は荒れた。
あのまま戦えば勝てたと諸侯は口を揃えて主張している。
殿下は呆れて黙ってしまった。
「ルオーレを包囲しましたが、これからどうするおつもりか。まさか兵糧攻めなどと仰るつもりですかな?」
「……」
「相手が反撃してこないのは、我らを恐れているからです!ちょうど良い。今我々は街を包囲しています。四方の入り口から同時に攻めかかれば良いでしょう!」
諸侯は強気な姿勢を崩さない。
「良いだろう。じゃあ、明日の朝から始めよう。四方の入り口から同時に攻め入る」
殿下は諸侯の案を受け入れてしまった。何か考えがあるんだろうか……?
そして翌朝。
帝国軍は四か所ある街の入り口から同時に攻め入った。
最初はさすがに慎重に街に入った諸侯達だったが、街に侵入すると『何もないではないか』と勢いを取り戻して進軍して行った。
そして帝国軍が街の中心付近まで到達するのを見計らったように、遂にロレアーノ王国軍の反撃が始まった。
街のあらゆる場所から攻撃が開始されたのだ。
建物の屋根の上から魔法と矢が降り注ぎ、路地裏から死兵が突っ込んでくる。
たちまちの内に乱戦となって、帝国軍は大混乱に陥ってしまった。
退こうにも後ろは味方が詰まっている。逃げようにも道幅が狭く、路地裏にはロレアーノ王国の死兵が潜んでいる。
ルオーレの住民は避難させてあるようで、建物の中からも敵兵が飛び出してきた。
「これはまずいですね……」
「そうだねえ。大きな被害で出るだろうねえ」
殿下は全く気にした様子はない。……おかしい。
「殿下。退いた方が良いのでは?」
「いや。まだ退かないよ。退くのはもうちょっと後だ」
「……。何をお考えですか?」
「ちょうど良いから間引こうと思ってね」
間引く……?
(まさか)
「利用するつもりですか。この状況を」
「こういう機会は中々ないからね。敵は減らしておかないと」
「そう言う事ですか……」
周りに聞こえないように小さな声で話していて良かった……。
殿下は敢えて力押しを継続している。
わざと苦戦している。
排除するためだ。自分の《《敵》》を。
「あまり好きなやり方ではないですね……」
「僕だって好きなわけじゃない。でも、皇帝になるためには、やらなきゃいけない」
「……大公では、だめなんですか?」
「全ての手を尽くして、その結果が大公なら受け入れるけどね。まだやれる事はあるだろう?」
恐ろしい人だなあ……。
「僕の元から離れるかい?」
答えなんか決まっている。
「私の主はフランツ殿下だけです」
「ふふ。……しばらくしたら兵を退く。アルバートはその後の事を考えておいてくれ」
「……わかりました」
結局その後もしばらく殿下の間引きは続けられた。
帝国軍の兵はもちろん、諸侯にも多くの被害が出た。
「それじゃあアルバート。どうすればいいか教えてくれ」
殿下が満足した辺りで兵を退き、これから軍議が開かれるまでの間に殿下に献策する。
「まず、敵は路地裏や建物の中にもいます。どこにでもいると思った方がいいでしょう」
これはここまで散々見せつけられた事だ。
「ならば、こちらは数の優位を使って外から内へ掃討していきます」
「相手は逃げ場なんかないからね。段々狭めて行けば、いずれ街はきれいになるってことか」
「はい。裏路地も、建物も。街の外側から徹底的に潰していきましょう」
「よし。それで行こう。配置は僕が決めるからいいよ」
まだ間引くつもりなのか……。
「あまりやりすぎませんよう……」
「わかってるさ」
そう言って殿下は軍議が開かれる陣幕に向かって行った。
翌朝。
改めてルオーレへと侵攻した帝国軍は、まず街の外周を徹底的に潰して回った。
外周を潰し終えた帝国軍は、その網を少しずつ狭め、徐々に街の中心部へと進んで行った。
「そこの建物!中に兵士がいたぞ!潰せ!」
「屋根の上!矢を射かけろ!」
ロレアーノ王国軍も決死の抵抗を見せたが、徐々に王国軍側の領域も狭まっていき、残すは中央広場に陣取った部隊だけとなった。
「残すはこいつらだけだ!数は少ない!勢いで押しつぶせ!」
中央広場に残された部隊は一瞬で呑みこまれた。
ルオーレの街を制圧するのに、実に三日もの時間がかけられたのだった。
「良い感じに減ったねえ」
「……まだ王城が残っています。あそこに残っているのは死兵です。慢心は控えてください」
「わかってるさ。ちゃんと使える諸侯は残してある」
うちの主は過激すぎやしないだろうか……。暗殺とかには気を付けてほしい。
残すは王城のみ。
ロレアーノ王国への侵攻は、いよいよ最後の仕上げを残すのみとなった。
フランツ殿下の間引きを生き延びた諸侯が、最後の軍議に集まった。
「街の制圧も終わって後は王城を残すのみ。おそらく死兵しか残っていないだろう。誰か一番槍に志願したい者はいるかい?」
「……」
諸侯は誰も手を上げない。
ルオーレで大きな被害を受け、皆消極的になっている。
「困ったねえ。誰もいないのか。……仕方ない。アルバート。君がローゼンベルク侯爵の軍を率いて潰してきてくれ」
「わかりました」
子飼いの俺に手柄をたてさせようって事か。
ローゼンベルク侯爵の軍を使うのは、俺との関係を深めさせて、今後侯爵を味方に付けようと考えてるからか。
王城に残っているのは死兵だけ。
油断して殺されないように気を付けないと。
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