アルバートの初陣
正直な話、俺は実家ではあまり良い扱いを受けていない。
俺ことアルバート・フォン・シュターブは、シュターブ伯爵家の四男だ。
伯爵家。貴族であるからして暮らしは豊かだった。
教育も受けさせてもらえたし、学園にも通わせてもらえた。
何より食わせてもらっている。そこには感謝している。
だが、公然と『無駄飯食らい』呼ばわりするのはやめて欲しかった。
あまり魔法が得意でないからと言って。
今時魔法の素養なんて、貴族にはそこまで重要ではないと言うのに。
魔法が得意な兄達は俺を馬鹿にしているし、妹もそうだ。
俺は家族皆からぞんざいに扱われている。
俺の味方はエルザだけだった。
エルザ・フォン・アイゼン。
騎士である彼女だけは、側役として俺を盛り立ててくれようとしている。
年は近い。しかし剣の腕では敵わない。
なので俺は彼女を姉のように思っている。
ある日父上であるドロン・フォン・シュターブに呼び出された。
父上の書斎に入ると、神妙な顔つきの父上が。
「アルバート。お前もそろそろ戦場を知る時期だ。ちょうど国境にロレアーノ王国が攻めてきている。いつもの小競り合いだろう。初陣を済ませて来い」
国を守るのは貴族の義務だ。
俺はしっかりと承諾の返事をして父上の書斎から退出した。
シュターブ伯爵領はロレアーノ王国に接している。
ロレアーノ王国軍とは国境を巡って度々小競り合いをしてきた間柄だ。
俺はエルザを呼び出した。
「アルバート様!ついに初陣ですね!アルバート様なら、きっと大手柄をあげるでしょう」
エルザは俺を励ましたいのだろう。
過大評価だとわかっていても、心強く感じた。
三日後の朝。
俺はエルザを副官として付け、シュターブの領軍を率いて出発した。
見送りはいなかった。
「なあエルザ。今回ロレアーノ王国は本格的な攻めに入ったと思うか?」
「いいえ。まだ小競り合いの延長でしょう。本格的な攻めになれば、シュターブの領軍だけでは抑えきれません」
俺の問いにエルザは明確に答えた。
「であれば俺の仕事は、被害を抑えて追い払う事か」
「その通りです」
本気で戦う必要はない。
被害を抑え、いつも父上達がしてきたように、ちょっと当たって退くだけで良い。
今回の戦場となる国境が見えて来た。
遠くに敵軍であるロレアーノ王国軍が見える。
ロレアーノ王国の国旗が風にはためいている。
「エルザよ。ちょっと多くないか?」
「……はい。少し、多いですね」
聞いていた話と違う。
目の前には自軍の三倍はいそうな、結構な数をそろえた敵軍が整列している。
「うーむ。エルザよ。この場合どうしたらいいと思う?」
「まともに当たっては勝ち目はありません。かと言って何もせずに退くのは余計に危険です」
だよなぁ……。この数に背中を見せる勇気はない。
うーんうーんと唸っていると、敵軍から矢が放たれた。
幸い当たらずに、俺が乗っている馬の近くに落ちた。
――ヒヒーン!!
馬が驚いて立ち上がり、そしていきなり走り出した。
「うわっ!?」
「アルバート様!単騎突撃など!」
エルザが叫ぶ。
馬は前方へ一直線に走っていく。
っておい。このままじゃ敵軍に突っ込むことに――
「見よ!我らが将アルバート様は我先にと先陣を切って突撃なされた!皆の者、遅れるな!続け!突撃ィィイ!」
後ろからエルザの叫びが聞こえて、続いて自軍の雄たけびが聞こえてきた。
……小競り合いのつもりできたのに、これでは本格的な衝突になってしまう。
やがて敵軍が近づいてきた。
「今時指揮官が先陣を切っての全軍突撃だと!?」
相手の指揮官が動揺している。わかる。俺もめっちゃ動揺している。
「ええい!指揮官を殺せ!矢と魔法を放てェェ!」
敵指揮官が指示を飛ばし、俺の方に矢と魔法が飛んでくる。
「うわっ!?こわっ!?」
俺の顔のすぐ横を火の玉が通り過ぎていく。
あとほんのちょっとずれていたら……。
次々に飛んでくる魔法と矢に俺はびびり、パニックになっていった。
そして俺は何を考えたか得意ではない魔法をめちゃくちゃに乱発した。そして――
その内の一発が、敵指揮官に命中した。
俺の魔法で火だるまになって崩れ落ちる敵指揮官。
指揮官が倒れて敵軍は動揺している。
そこへ、味方の兵士が追いついてきて、正面から敵軍へと突っ込んでいった。
鮮やかな味方の突撃は敵軍を深く貫き、動揺していた敵軍を更に混乱させた。
そこからは乱戦だった。
誰と誰が戦っていて、誰がやられて誰がやったかわからない。
俺は無我夢中で剣を振り魔法を放ち――気付けば敵軍は潰走していた。
「我らが将アルバート様が敵将を討ち取ったぞ!敵は逃げた!我らの勝利だ!アルバート・フォン・シュターブ様ここにあり!」
『アルバート様!勇敢なるアルバート様!』
エルザの勝鬨に合わせて味方の兵士が俺の名前を叫ぶ。
俺はぼけーっとそれを聞いていた。
「勝った……のか?」
「はい!アルバート様の勝利です!見事な単騎突撃でした!」
エルザに褒められるが、実感がない。
「中々やるではないか。思ったよりはマシなようだな」
家に戻った俺に対して、労っているんだかいないんだかわからないようなお言葉を父上から頂戴した。
それから二週間後。
俺宛てに一通の手紙が届いた。
――アルバート・フォン・シュターブ。帝城への出頭を命じる。
手紙には短い文章でこう書かれていた。
あれぇ……?俺、何か処分される感じ?
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