14 綿畑に潜む闇
その声にトリスタンとサリムが気づき、二人がかりで男を押さえつけた。暴れる腕をねじ伏せ、あっという間に縄でぐるぐる巻きにする。
すぐ隣にいたダリルが、オフェリーの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か。……少し顔色が悪いぞ」
そう言って、そっと肩に手を添える。
トリスタンも駆け寄り、わずかに口元を緩めた。
「よくやった。オフェリーが気づかなければ、間違いなく血が流れていた。誇りに思うよ」
その言葉に、オフェリーは思わず頬を熱くする。照れと、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……まさか、俺を殺そうとするなんてな。助かった。恩に着る」
サリムが目を見開き、わずかに眉をひそめた。
それから視線をオフェリーに向け、頭を下げた。
男たち五人は手足を縛られ、地面に転がされたまま身動きが取れない。
トリスタンが静かに口を開く。
「さて、オフェリー。この者たちをどうする?」
「……罰するのは当然です。でも、これを命じた人間がいます。総括領地管理官、ピーター。その人と話をする必要があります」
オフェリーは男たちをまっすぐ見据えた。
その瞬間、縛られた男の一人が吐き捨てるように呟いた。
「はっ……なんだ、この生意気なガキは。ピーターさんの名前を軽々しく出すなよ」
オフェリーは一歩も引かず、静かに言った。
「権限はあります。私が、ヴィダル伯爵ですから」
男たちが間の抜けた声を上げたが、トリスタンが一歩前に出た。
「私の娘を生意気なガキだと? その口、二度と利けないようにしてやろうか?」
低く押し殺した声に、空気が一瞬で張り詰めた。
オフェリーがイバラで凶行を食い止めた男は、震える声で呟く。
「ば、化け物……」
その言葉に、ダリルが静かに反応した。
「……今、何て言った?」
ゆっくりと歩み寄り、縄で拘束された男の腕に触れる。
「うっ……ぐ、ぐわっ……く、苦しい……!」
外からは分からない。ダリルの力は、触れたものを内側から凍らせる。体の奥からじわじわと侵食していく、逃げ場のない冷気。
「ダリル様、だめです。それ以上は……この人、死んでしまいます」
オフェリーは咄嗟に止めた。
自分のために怒ってくれるのは嬉しい。けれど、ここで殺すわけにはいかない。
ダリルは一瞬だけオフェリーを見て手を離した。
「オフェリーを化け物呼ばわりするなんて許せない……それに簡単に人殺しをしようとするようなやつだ」
低く吐き捨てるように言う。
「分かっています。でもここで殺しても、何も残りません。どうせなら、使い道がある方がいいでしょう」
オフェリーは淡々とそう言った。
その言葉に、ダリルは呆れたように苦笑する。
「そうだな。悪人でも、使い道はある。それでこそ私の娘だ」
トリスタンはちらりとオフェリーを見て、愉快そうに笑った。
オフェリーたちは男たちを案内役にし、統括領地管理官ピーターのもとへ向かうことにした。
「二度とサリムさんが襲われないようにします。……安心してください」
そう告げると、サリムは深く頭を下げた。エルザも不安げな表情で見送る中、オフェリーたちは南へと向かった。
馬車に揺られ、途中で宿を取りながら進んでいく。
やがて数日後、視界が開けた。
一面に広がる白。
遠目には、まるで雪でも積もっているかのような光景だった。
だが近づくにつれ、それが綿花であることに気づく。
そしてその中に、点々と人影があった。
一面に広がる白い綿畑の中で、人々が同じ姿勢のまま手を動かし続けていた。
誰一人として顔を上げない。
やがて、馬車が進むにつれて、風に乗って怒鳴り声が届いてくる。
「手を止めるな! 日が落ちるまでに終わらせろ! サボりやがったら鞭が飛ぶぞ!」
さらに距離が縮まると、監視役の男の姿がはっきりと見えてきた。
鞭を手に、畑を睨みつけている。
その足元で、ひとりがよろめいた。
次の瞬間、容赦なく鞭が振り下ろされたのだった。
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※本作は今後、更新ペースと1話あたりの文字数を調整しながら進めていきます。
そのため、更新は不定期となりますが、引き続きお楽しみいただければ嬉しいです。




