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異世界ギャル『異世界召喚されたのは勇者じゃなくてギャル五人でした ~魔族に荒らされた世界、でもウチらが来たからもう暗いままじゃ終わらせない~』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第51話 働いてるのに、誰も誇ってない

 翌朝のハイレン村は、昨日と同じように静かに始まった。


 鶏の声。

 遠くで鳴く家畜。

 用水路の流れる音。

 鍬が土へ入る鈍い音。


 耳を澄ませば音はある。

 でも、人の声はやっぱり少ない。


「……朝なのに、元気な感じしないね」

 ももかが小さく言った。


「うん」

 みうが頷く。

「みんなもう動いてるのに」

「動いてるから、かな」

 えれなが言う。

「始まる、じゃなくて、もう今日の作業に入ってる」

「仕事の音だけが先にある」

 ジェシカが短く言った。

「うん」

 るなは畑の方を見る。

「生活が始まる感じじゃなくて、“昨日の続きが再開してる”感じ」


 昨日の夕方から、五人の中では共通認識ができていた。


 ハイレン村は壊れていない。

 でも、摩耗している。


 だから今日の目的は、もっとはっきりしている。

 “頑張っているのに、なぜ誇れないのか”。

 そこを見に行く。


「今日は畑そのものに入る?」

 みうが聞く。

「入る」

 るなが頷く。

「昨日は外から見ただけだったし」

「若い農夫の人たちと、もう少しちゃんと話したい」

 えれなが言う。

「働き方も、終わったあとの空気も見たい」

「うん」

 ももかが腕まくりをする。

「まあ、畑仕事できるかは知らんけど」

「できるかどうかと、見るかどうかは別」

 ジェシカが言った。

「容赦ない」

「事実」


     ◆


 村長ドミニクは、朝から畑の一角で若い者たちと話していた。


 五人に気づくと、少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに歩いてくる。


「おはようございます」

 みうが頭を下げる。

「おはようございます」

 ドミニクも頷いた。

「朝からよく動かれますな」

「村の朝、見ておきたくて」

 るなが答える。

「今日は、畑の仕事も少し見せてもらえますか」

「見るだけでなく?」

「できるなら、手伝いたい」

「……」

 村長は少し考えてから、静かに頷いた。

「なら、若い者たちのところへ」

「ありがとうございます」


 案内された先には、昨日見かけたエルンをはじめ、二十前後から二十代半ばくらいの若い農夫が四人いた。

 土のついた手。日に焼けた首元。必要な筋肉はついている。

 でも、やっぱり顔には妙な若々しさの薄さがある。


「エルン」

 村長が声をかける。

「この方たちに、今日の仕事を少し見せてやってくれ」

「……見せるだけですか」

 エルンが低く聞く。

「手伝えるなら手伝うそうだ」

「……」

 その一瞬の間に、“余計な手間が増えるのでは”という警戒が見えた。


 でもエルンは、結局首を縦に振る。


「じゃあ、選別から」

「選別?」

 ももかが聞く。

「朝に採ったやつを分ける」

 エルンが言う。

「納める分、村で使う分、傷んでる分」

「……」

「なるほど」

 えれなが頷く。

「見た目より頭使うやつ」

「見た目より、って何だ」

 エルンが言う。

「いや、単純作業に見えてた」

「単純にやると後で困る」

「そうだよね」

 みうがやわらかく言う。

「教えてもらっていい?」

「……いい」


     ◆


 選別の作業は、想像していた以上に細かかった。


 大きさ。傷。形。日持ち。納め先。

 野菜ひとつ、穀物ひとつにも基準がある。

 きっちり見ないと、納品にも村の食卓にも響く。


 るなは途中から黙った。


 ももかも、最初は「これとこれ何が違うの」なんて言っていたが、途中から真剣な顔で手元を見ている。

 みうは最初から静かに覚えようとしていた。

 えれなは要領を掴むのが早く、ジェシカは無駄な動きが少ない。


「……これ、意外とむずい」

 ももかが言う。

「意外でもない」

 ジェシカが返す。

「いや、でも見た目以上」

「うん」

 るなも頷く。

「もっと“畑仕事=力仕事”のイメージあった」

「それもある」

 エルンが答える。

「でも、それだけじゃ回らない」

「……」

「細かいね」

 みうが言う。

「細かくしないと無駄が増える」

「無駄が増えると」

 えれなが聞く。

「次がきつくなる」

 エルンは短く答えた。


 その“次がきつくなる”という言い方が、この村の空気をすごくよく表していた。


 今をやる。

 無駄を減らす。

 次に響かないようにする。

 でも、“次をもっとよくする”ではない。


「……」

 るなは手元の野菜を見る。

 ちゃんと作られている。

 でも、そこに“これよくできたな”という会話は乗らない。


 作業は進む。

 でも達成感がない。


「ねえ」

 るながエルンへ聞く。

「これ、出来がいいとか悪いとか、そういう話あんまりしないの?」

「……する時もある」

「時もある?」

「忙しくなければ」

「……」

「でも、だいたいは分けて終わり」

「終わり」

「うん」

「今年のこれはよかった、とか」

「……」

「去年よりましだな、とか」

「……」

 エルンは一瞬だけ黙ってから言った。

「そういうの、昔はもう少し聞いた」

「……」

「今は、分けるので手いっぱい」

「……」


 みうが、少しだけつらそうに目を伏せる。


     ◆


 昼前になると、畑の別の区画で収穫作業も見せてもらった。


 ここではさらに身体がきつい。


 中腰。運ぶ。掘る。土を払う。積む。

 単純に見えて、ずっと体力が削られる。


「……っ、きつ」

 ももかが思わず声を漏らす。

「まだ午前」

 ジェシカが言う。

「知ってるけど」

「これ毎日?」

 るなが息を整えながら聞く。

「毎日じゃない日もある」

 若い農夫の一人が言う。

「でも、別の仕事が入るだけだ」

「……」

「きつ」

 今度は、るなも本気で言った。


 汗が首を伝う。

 土が手に入り込む。

 腰がじわじわ痛い。

 日差しはまだ真夏ではないのに、身体から余計な力を抜いていく。


 ももかが、しばらく黙ってから言う。


「……これ毎日やって、テンション保てる人いる?」

「……」

 誰もすぐには答えない。


 その沈黙が答えだった。


 やがて、エルンの隣にいた青年がぽつりと口を開く。


「保てる時期もあった」

「時期」

 みうが聞く。

「うん」

「若かった頃?」

 ももかが聞いてから、はっとする。

「ごめん、別に今が若くないって意味じゃ」

「わかる」

 青年は苦く笑った。

「子どもの頃とか、最初のうちとか」

「……」

「働けば、その分だけちゃんと何かある気がしてた」

「今は?」

 るなが聞く。

「……」

 青年は手を止めずに言った。

「畑は生きてる」

「……」

「でも、俺らは生きてる感じがしない」


 その一言で、空気が止まった。


 土の匂い。

 風の音。

 遠くで鳴く鳥。


 そういう自然の中で、その言葉だけがやけに鋭く落ちた。


「……」

 みうが息を呑む。

 ももかも、何も言えなくなる。

 るなは、胸の奥がぎゅっとするのを感じた。


「畑は生きてる」

 ジェシカが低く繰り返す。

「うん」

「でも、自分は生きてる感じがしない」

「……」

「それ、かなり」

 えれなが言いかけて止まる。

「……重い」


 青年は、自分が何か特別なことを言ったつもりもない顔だった。

 むしろ、たまたま口から出ただけみたいな顔。


 つまりそれは、この村の若い者の中で、かなり当たり前に近い感覚なのだ。


     ◆


 昼休みに入ると、村人たちは日陰に座って簡素な食事を取った。


 パン。茹でた豆。塩気のある漬け野菜。

 ちゃんと食べられる。足りないわけではない。

 でも、その食事に“楽しさ”はほとんど乗っていない。


「……おいしい?」

 るなが隣の青年に聞く。

「普通」

「普通」

「食える」

「……」

「それで十分」

「……」


 ももかが小さく言う。


「この村、“十分”のラインが低くなりすぎてる」

「うん」

 えれなが頷く。

「生きるための最低ラインに全部寄ってる」

「それ以上を考える余力がない」

 ジェシカが言った。

「……」

「ねえ」

 みうが村の人たちを見ながら言う。

「これ、“頑張れ”って言うだけじゃ無理だよね」

「うん」

 るなが即答する。

「絶対無理」

「“元気出して”も違う」

「違う」

「だって身体がもうきついもん」

「……」

「労働が重すぎて、心を立て直す余力がない」

 えれなが静かに言った。

「……」

「それ」

 るなが頷く。

「かなり本質」

「ルクレツィアはまだ、“やってみたい”が埋もれてた」

「うん」

「でもここは、“やってみたい”に行く前に、“今日をこなす”でほぼ全部削られる」

「……」

「だから、違う入り方が要る」

 ジェシカが言った。


 その言葉に、るなは深く息を吐く。


 そうだ。


 セレストでは、声を戻した。

 ルクレツィアでは、前向きな競争を戻した。

 でもハイレン村では、まず“ちょっとでも楽になる”“ちょっとでも報われる”がないと始まらない。


「……」

 その時、少し離れたところで、村娘たちが作業用の籠を持って移動しているのが見えた。


 てきぱきしている。

 でも、そこにもやっぱり余白がない。


 るなは、その背中を見ながら思う。


 この村は、全員ちゃんと役に立ってる。

 なのに、自分の役割を誇れていない。


     ◆


 昼休みのあと、五人は少しだけ村長ドミニクと話す時間をもらった。


 集会小屋の前、木陰になっているところで、村長は腰を下ろす。

 その顔には、疲れだけじゃなく、諦めに慣れてしまった人間の静けさがあった。


「どうでしたか」

 ドミニクが聞く。

「……重かった」

 るなが正直に答える。

「でしょうな」

「思ってた以上に」

「でしょうな」

「村長さん」

 みうが静かに言う。

「皆さん、ちゃんと働いてます」

「はい」

「手も止まってないし、技術もある」

「はい」

「でも、“やった”って顔がほとんどない」

「……」

 村長は目を伏せた。

「昔は、ありました」

「……」

「畑の出来を見て、今年はよいと言い合うことも」

「……」

「若い者が、来年はもっとこうしたいと言うことも」

「……」

「今は?」

 えれなが聞く。

「今は、失敗しないことの方が大事です」

「……」

「豊かになるかではなく、減らさないこと」

「……」

「だから、前へ出る言葉が減る」

「……」

「この村に必要なのって」

 るながぽつりと言う。

「なにかを増やすことじゃなくて」

「……」

「まず、働いた先に何か残る感じなのかも」

「……」

「残る」

「うん」

「“今日やった意味”が、ちゃんと見える感じ」

「……」

 ドミニクはしばらく考えるように黙ったあと、言った。

「それが、もし戻るなら」

「……」

「若い者は、少し違う顔をするかもしれません」


 その言葉は、小さかった。

 でも、確かに希望の形をしていた。


     ◆


 夕方、作業を終えた五人はまた土手に座った。


 今日の空は昨日より少しだけ赤い。

 畑は広く、風はやわらかい。

 その景色の中に、村の静けさだけがやっぱり重い。


「……筋肉痛くる」

 ももかが言う。

「まだ来ないで」

「でも来る」

「来るね」

 るなも苦笑する。

「普通にきつかった」

「うん」

 みうが頷く。

「想像以上だった」

「畑って、見てるのと入るのじゃ全然違う」

 えれなが言う。

「身体を削る」

「そして、その削れた身体でまた明日やる」

 ジェシカが言った。

「……」

「そりゃ、元気だけではどうにもならない」

「うん」

 るなは膝を抱える。

「今日わかった」

「なに」

「この村、“もっと働け”じゃ絶対救えない」

「うん」

「むしろ逆」

 みうが言う。

「“ちゃんとやってるのに報われない”方が先にある」

「そう」

 えれなが頷く。

「だからまず、“頑張る意味”の手触りが要る」

「意味の手触り」

 ももかが繰り返す。

「うん」

「言葉いいね」

「ありがとう」


 るなは、畑を見たまま言う。


「……この村、たぶんまだ良いものあるよね」

「うん」

 みうもすぐ頷く。

「絶対ある」

「食べ物も、手仕事も、たぶん全部“生きるため”に閉じてるだけ」

「それを、誰かが“いい”って言うだけでも違うかも」

 ももかが言う。

「うん」

 るなは頷いた。

「明日そこ見たい」

「保存食とか、手織りとか」

 みうが言う。

「そういう“成果”側」

「労働だけじゃなくて、できたもの」

 えれなが整理する。

「そこにまだ光るものがあるかもしれない」

「たぶん、ある」

 ジェシカが言った。


 風が畑を抜ける。

 葉が揺れ、土の匂いが少し濃くなる。


 働いているのに、誰も誇ってない。

 その現実は重かった。

 でも、その重さを身体で知れたことは、次へ進むために必要だった気がした。


「……よし」

 るなが小さく言う。

「うん」

「次は、“作ったもの”を見に行こう」

「うん」

 みうが頷く。

「この村の人が、自分の手で残してるもの」

「そこに何か残ってるかも」

 ももかが言う。

「残ってる」

 るなは答えた。

「たぶん、ある」


 その“ある”は、今までより少し慎重だった。

 でも、慎重でも前を向けるようになってきたのが、今の五人なのかもしれない。

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