エピローグ
【開闢竜ゲネシア】
【闇の魔女テネブラエ】
【星砕きの巨神ドヴェル=グス】
【聖神トリニタス】
【黙示の悪魔セクタモルス】
【降臨者ラブクロア】
誰かの手によって、駒として形作られたそれらが、広大な卓に広げられた世界図の上に並べられている。
素材は統一されていない。竜骨、黒曜、星鉄、名もなき神木。それぞれが、その存在の本質をわずかに写し取ったかのような歪みを帯びていた。
駒が置かれるたび、世界図に描かれた山脈が軋み、海がわずかに波打つ。
まるで、名を呼ばれただけで、世界がその存在を思い出してしまうかのように。
「……あとどれだけ、この世の命運を握っている存在がいるのだろうか」
低く、擦れた声が落ちる。
病魔公と呼ばれる男だった。黒い包帯に覆われた身体は、すでに人の形を保っているのかすら定かではない。包帯の隙間から覗く皮膚は灰色に沈み、生命の熱を拒絶している。
彼の視線は、神域の図から離れない。
それは地図であり、同時に約束された墓標の配置図でもあった。
「世界は、奴らが薄氷を割らぬように気を遣っているから、まだ滅びていないに過ぎない」
背後からの声は、静かで、冷ややかだった。
その言葉に感情はなく、事実だけが淡々と置かれる。
「【統一神ネクスキレファス・エストオムニア】。我が祖カシウスが殺した神。それと同列の、星覇者と呼ばれる真の脅威。祖以後の我らが打倒せしめたのは、【獣神王レヴェリオス】のみ」
語られた名は、すでにこの世界に存在しない。
それでも、名を持つというだけで、空気が重くなる。神殺しとは、過去の栄光ではなく、未来への呪いであり、世界の保証だった。
「遠征は、人域の守護を疎かにする」
慎重な言葉が、苦渋の響きを持って伝わる。
「しかし、兄上にこれ以上、待つことは出来ますまい」
返答は、覚悟を含んでいた。
それは焦りではない。時間そのものが、もう猶予を与えていないという認識。
獅子心王は、ゆっくりと頷いた。
そして、玉座の背後に掛けられた白亜の槍へと視線を移す。
それは武器であり、象徴であり、かつて星を守るために振るわれた誓約の結晶だった。穂先は天を向き、今も星の脅威を待っている。
「もう一つ、星の傘が必要だ」
第三次遠征からの、騎士団の悲願。復讐の理由を作りすぎた人類には、人域を守るために残す人類の最終兵装が、二の足を踏む今の騎士団には求められている。
「次の遠征で、星覇者を討つ」
世界図の上で、見えない何かが軋む。
駒たちは動かない。だが確実に、それらは次へと進められた。
「備えろ、エルシニア。バベルの騎士を再び束ね、我らは神域に出る」
獅子心王レオンハートは、遙か人域の先を睨む。
その視線の先にあるのは、勝利ではない。救済でもない。
ただ、避けられぬ殺戮の地平。
「――――神殺しの刻だ」
その宣言と同時に、世界図の上で、駒の一つがわずかに震えた。
それが誰の名を刻んだものだったのかを知る者は、まだいない。
だが、騎士団は確かに――――次の終わりへと、歩みを進めていた。
終わり




