決闘
どうやって山を越えた? しかも、いくつか馬も持っているだと?
あの山には凶悪な魔獣や魔物がひしめき、吹雪が舞う死の山と言われてきた。
いや、今は理由などはどうでもいい。
わかっているのは、奴らを通すわけにはいかないということだ。
「オルトス! よく知らせてくれた!」
「ブルッ!」
「褒美は後でな! 五人はセレナ様の護衛に! 残りの者は——我に続けぇぇぇ!」
「「「ォォォォォ!!!」」」
オルトスが俺の意に応え、指示を出すことなくトップスピードに入る。
俺は背中にある大剣に手を添え……後方にいる兵士を一刀両断した。
その時、俺の中に僅かにあった不安は霧散した。
人を殺すことにおいて、前世の記憶は邪魔しなかったことを。
「ぎゃぁぁぁ!?」
「な、なんだ?」
「ば、馬鹿な!? どうしてここにバーサーカーが!?」
後方がやられたことで、敵軍達が異変に気付く。
俺は挑発するように剣を肩に担いて睨みつける。
「どうやって来たのか知らんが、生きて帰れると思うなよ?」
「くっ……予定変更だ! 何としてもここで食い止めろ! 残りは先に行け!」
「行かせるか!」
「がっ……!?」
目の前の敵を斬り伏せ、敵陣に突っ込む。
その後ろから遅れて来た兵士が続く。
それらが俺が広げた穴を、更に広げていく。
「何をやってる! 敵は少数だぞ!」
「しかし! 相手はバーサーカーです!」
「こっちの方が数は多い! 休ませるな!」
反転した敵兵達が次々とやってくる。
俺は平気だが、後ろにいる兵士達が怪我を負っていく。
しかし、ここには彼女がいる。
「傷ついた者は手初通りセレナの元に行け! 護衛と交代だ!」
「「「はっ!」」」
数名が下がり、入れ替わりで護衛についた者達が戦線に加わる。
その間に彼らは治療を受けて、また戦う準備をする仕組みだ。
これならセレナ様の安全を確保しつつ、彼女の願いを叶えられるわけだ。
更には兵士達の消耗を防ぐことができる。
そのおかげもあり、少ない数で敵軍を減らしていく。
「まずい! 数を減らされている!」
「くそっ、このままだと計画そのものが……」
「ほう、詳しく聞かせてもらいたいものだな」
「なっ、もうここまで……!」
敵の下士官らしき者を見つけたので、それをターゲットに見定める。
走り出そうとしたその時——何かを大剣で弾く。
視線を下ろすと、それは小さい斧だった。
「この威力……全員下がれ!」
「「「はっ!」」」
命令を出した次の瞬間、目の前には斧を持った巨体が迫っていた。
その大男の斧と、アスカロンを打ち合わせる。
途轍もない衝撃が身体を突き抜けるが、どうにか鍔迫り合いにもっていく。
「……やるな。腕が痺れたのは、父上以来だ」
「くく、お主こそ。噂には聞いていたが、まさかこんな小僧だとはな」
「小僧ではない」
「ならば証明して見せよ——ふんっ!」
力任せに鍔迫り合いを弾かれる。
そして……相手の斧による連撃が始まった。
「オラオラオラオラァァァァ!」
「っ……!?」
この威力、速さ共に並みの武将ではない。
まだ十六年しか生きていないが、今までで一番の強敵かもしれん。
「フハハッ! バーサーカーとはこんなものか!」
「……なめるなよ——はっ!」
「ぐぅ……!?」
振り下ろされる斧に上手く剣を合わせてパリィする。
激しい衝撃音と共に、どちらの馬も引き下がった。
「どうだ」
「やりおる……バーサーカーよ、名は何という?」
「俺の名はアイク、お主の名は?」
「ガルシアという。予定外だが、俺が相手をしよう」
ガルシア……聞いたことないな。
身長や体格も俺を優に超えているし、この強さなら有名になりそうだが。
こいつが国境に来たら、俺とて苦戦するはず。
「いけません! 貴方がいなければ計画が!」
「計画もクソもあるか! ここでこいつを止めねば、全滅するぞ!」
「それは……」
「良いからいけっ!」
「わ、わかりました!」
その檄によって敵兵達が反転して進み出す。
俺は追いかけようとするが、目の前の男がそうさせてはくれない。
味方を先に行かせようとするが、それだとこちらの数が少ないので意味がない。
「さて、これで心置きなく戦える。そもそも、こんな作戦は好きではなかったのだ」
「ほう? どんな作戦か聞きたいところだな」
「なに、単純な話よ。山々を突破した後に合図を送り、表から攻めてもらう。その間に、こちら側から領主の館に攻め入るというだけだ」
「なるほど……」
理由はともかく山を越え、こいつらは合図が来るまで隠れる。
国境に大軍が来れば俺は向かい、手薄になった領主の館を攻める手筈だったか。
こいつほどの手練れが来たら、俺以外では太刀打ちできないだろう。
……どちらにしても、早く行かないとまずいことに。
「というわけで、付き合ってもらうぞ。こっちは前から戦いたくてウズウズしていたのだ」
「これは長引かせると面倒だ……悪いが、すぐに終わらせる」
「なに——うおっ!?」
全身全霊の力をこめアスカロンを振るい斧に合わせ、相手を吹き飛ばして無理矢理下馬させる。
あちらの馬も衝撃によりこけて、立ち上がれなくなった。
こちらにも同じ衝撃は来たが、何せ相棒が違う。
俺の全力にも応えられる馬、それが相棒のオルトスだ。
「オルトス、よく耐えたな」
「ブルルッ」
「……馬まで規格外とは。これで、後を追うのは難しくなったか」
「その前に追うことはない……ここで片付ける」
俺も馬を降り、両手で剣を構える。
あちらにオルトスの足を狙われたらたまらんしな。
相手も斧を両手で構え……再び撃ち合いに入る。
「ハァァァ——!」
「ウォォォ——!」
上から下から横からとぶつかり、絶え間ない衝撃音が鳴り響く。
耳は聞こえなくなるし、次第に手足が痺れてくる。
それでも俺の頭はこうして考えられるくらいに冷静だった。
なんというか、自分自身を俯瞰して見られるというか。
……もしかしたら前世の記憶のおかげで脳が二つあるような感覚なのかもしれん。
「な、なんだ、その冷静な感じは……小僧とは思えん」
「これでも人生経験が豊富でな」
「訳の分からんことを!」
そこで一度弾かれ、互いに距離を取る。
冷静ではあるが身体のあちこちが軋む。
これほどの武将が何故、知られていないのか。
「別に良いか……さて、次で終わりにする」
「良いだろう、こちらも腕が限界のようだ」
俺は全神経を研ぎ澄ませ、アスカロンを上段に構える。
すると、相手も同じように構え……静寂が訪れた。
「「…………」」
次第に何もかもが聞こえなくなる。
そして気が付いた時……俺は剣を振り下ろしていた。
振り返ると、そこには地に伏せた敵将の姿があるのだった。




