私達の方針~女子A(エリカ)視点~
望月君落下事件。
私達はその事を一旦棚の上に上げておくことにした。……正直気にならないと言えばウソになるけど、私達が根掘り葉掘り聞いていい事では無いと思ったから。
ただ、その後に望月君の姿を目撃する事は無かったんだけど、ちょっとびっくりしてしまうような物が私達の目の前へと現れたの!
「うわぁ……綺麗な生地だね」
「……糸と針もある」
「服を作れって事かしら? 私達ってずっと制服を着ているものね……」
「一応水で洗ってはいたけどね。昨日は洗剤も貰ったから更に汚れも落ちたし」
ただ、三週間も制服を着て、しかも自然の中を歩き回るものだから……制服のあちこちに引っ掛けた痕とか、ちょっとした裂け目とかがちらほら。
確かにこれでは女の子としてどうなの? と言う見た目になりつつある気がする。
「あ、手紙が入っているみたいね。えっと「ズボンを作ると良い」って書いてあるわね」
「……自然に生足は危険」
「そう言えば、なんども葉っぱとかで肌を切っていたっけ。今はあんまりそんな傷はつかなくなったけど」
「……野生化?」
「ちょっとやめてよ! 私は女の子であることを捨ててないよ!?」
でも、ズボンかぁ……確かに、何があるか分からない以上、少しでも露出する面は減らした方が良いよね。
今までは他の事に必死過ぎて全く気が付かなかったけど……言われてみて漸く気が付いたよ。
「ただ、私達って裁縫は……」
「……出来る」
「え、雪出来るの? 私は料理なら出来るんだけど、裁縫はちょっとって感じだったから……それに、これって一枚の生地からでしょう? 何をどうしたら良いのか全く分からないんだけど」
「……任せて」
むん! と、胸の前で両手を握ってアピールする雪。……むしょうに頭をなでたくなる可愛さが有るけど、今はそれをやる場面では無いよね。
「えっと、となると役割分担かな? 雪は裁縫って事になるんだろうけど、七海と桔梗はどうする? 私はジョブの性質上誰かについて行くのが一番だよね」
「仕事としては、農地を作る事・鶏小屋を作る事・釣り・狩り・採取かな……ただ、イノシシやらウサギは今のところ問題無いから、今回狩りは排除出来そう」
「そうね……だとすると、釣りも排除しても良いかもしれないわね。だからやるべき事は、農地・小屋・採取かしら」
食糧事情を考えながら、やるべき事の優先順位を皆で決めて行く。そして、その中でも一番重要と言えるのは……。
「農地か鶏小屋かな?」
「ただ、農地ってこの場所だと問題じゃなかった? たしか塩害がって……海も目の前にあるし」
プランターで作れば良いのかな? うーん……農業を手掛けた事も無ければ調べた事も無いから全く分からないんだよね。
「正直、この地の植生は異常な環境だから、もしかしたら海の近くでも問題無いかもしれない。でも、普通にダメかもしれない。だから私は、ちょこっとだけ育ててみると言うのもありだと思うわよ」
「桔梗……それって、少ない種イモを使って試してみるって事?」
「もちろん森側に植えるわよ? 実際に、森の中でこの芋も手に入れたのだから」
そんな会話をしている最中、皆のスマホから「ピロン♪」と着信音が響いた。
今だれもスマホを手にしていないから、連絡を送って来たのは望月君だと言う事はわかる。
……一体何だろう? あの時以来、石鹸や洗剤を貰ってそのお礼の文章をリンクに書いておいたのだけど、望月君からの連絡は一度「ありがとう」と書かれた後は全くなかったんだよね。
ちょっと不安に思いながらも、私達はそれぞれのスマホを手に送られてきた内容を確認した。
「え……これはまた……今まで気が付かなかったけど」
「……魔力不足は危険」
「なんて爆弾を……いや、今の段階で知る事が出来たから、凄くありがたい話だけど……」
「私達って魔法職が多いわよね。少し色々と考える必要がありそうだわ」
これまた少々困惑してしまうような内容。
魔力には限りがあってその上限に達すると、人は体がだるくなったり頭が重くなったりして何もやる気にならないのだとか。
そして、桔梗がぽつりと呟いたように、私達は皆魔法職と言っても良い。
私はヒーラー。七海は魔力で矢を作る魔弓師……一応は通常の矢も使えるそうだけど。桔梗が土術師。雪がサモナーだ。
なので全員が魔力を沢山使うジョブである。寧ろ、通常戦闘が出来そうなのは七海ぐらいしかいない。
「彼からの文章には「魔力管理が重要」と書かれているわね。そして、その為にも「一度は魔力不足を経験しておく事」と追記されているわ」
「……安全地帯でやっておく」
「そうだね。拠点の近くでやれば、皆フォローし合えるしね……今のうちにやっておくのが良いかも」
「私は通常の矢も増やした方が良いかなぁ。でも、望月君に頼りっきりになるのもなんだから、自分でも作成してみようかな」
魔力を大量に使うジョブの弱点が判った事で、皆が自分の出来る事についてを考えていく。
「……と言うか、望月君ってどうやって魔力不足を確認出来たんだろう?」
「まさか、危険な事をしたとか?」
「……生産中に」
「そうね。彼の場合は錬金術を夢中になってやってしまった結果と言うのが一番ありえるかしら」
……ありそう。てか、絶対にそれだ!
だって、昨日は石鹸と洗剤を作って私達のボックスに入れてくれていたし、最初に話していた生地と針と糸に関しては、朝みたらあったのだから……うん、絶対に作業を夢中になってやっていたに違いない。
「あー……だからこそ、望月君からの連絡って無かったんだね」
「昨日の夜は石鹸の効果に感動したから、ハイテンションでお礼の連絡をいれちゃったけど……望月君は既読すらしてなかったもんね」
「……ちょっと反省」
「でもあれは良い物だわ。ほらみて? 今も髪がベストの状態よ」
実際に今も髪はツヤツヤでサラサラだ。指が気持ちよく通って行く。
「ねぇ……作った物。石鹸や洗剤に生地だけだと思う?」
「まさかぁ……それだけなら魔力不足になる事なんて無いと思うよ」
「そうね。間違いなく何か面白い物を作ったに違いないわよ……とは言え、それを言わないと言う事は……もしかしてちょっと危険な物かしら」
「……兵器?」
あ、ありそう。
錬金術と言えば、やっぱり爆弾とか爆弾とかウニとか。ちょっと凶悪なイメージがつきもの。実際は、どちらかと言うとお薬作りのイメージの方が大きいけどね。
あ、でも、リアルな錬金術も水銀とか使っていたって聞くし……本当に問題かも? と言える物が出来上がったのかもしれない。
「エリカさんや……」
「なんですか? 七海さん」
「私ね、とってもとーっても怖い事を思いついちゃったんだけど」
「ほう……ソレは何でしょうか?」
「ほら、私達が採取した植物があるじゃない。その大半だけど、私達って増やして食べれるよと言われていないのだけど?」
「もしかして……毒物?」
錬金術に毒物。あぁ、確かにそれは怖い思いつきしかできないじゃない! 七海さんなんて恐ろしい事を……。
「……やっぱり兵器」
「えぇその可能性もあり得るわね。でも、彼は敵では無いのだから、ある意味心強いのではないかしら? 使うにしても使わないにしても、人が相手なら脅しにもなるわよ」
「……食べても大丈夫な毒。……狩りをする時にも使えるかも」
き、桔梗に雪……こっちもこっちでなんて発想を。
うーん……でも、それが事実なら、戦闘のジョブでは無い望月君の大きな武器になりそうだよね。
そして、私達は彼と敵対はしていない。寧ろ、協力者? 同盟者? そんな感じの立ち位置。うん、必要以上に怖がる必要も無いよね。
……ちょっとだけ、あの時の目が気になりはするけど。そこは私達が適切な距離を保てばと思うし。
「それなら今日は、雪が裁縫で、他は魔力を放出しながら森側に農地でも作ろう!」
「そうだね。土魔法を使えば割と楽?」
「……ズボンは任せて」
「土魔法ね……それは私の出番よね」
気になる事はあるけれど、今は今やるべき事をどんどんやって行かないと。生存する為の行為が今は大切なのだから。
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と言う事で、石鹸や布を受け取った女子達の反応……ですが、それだけでは無かったと。
そして、何気に景の性質が見抜かれている。いや、これまで共同作業をしていたのだから、ある程度は理解されてしまっていてもおかしくはないのですが。むしろ、景が無意識とはいえスルーしすぎだったのですけどね。