下手をしたら主人公よりもチートな存在~雪視点~
「……ん、うるさい。ちゅーらガード」
「ぴゅぴゅぃ!」
多分? ボスの取り巻きと、トラップルームのモンスターがわちゃわちゃとしていて煩い。
だからボクは、ちゅーらに護衛をさせながら、出せる召喚精霊を全てアタッカーとして前に出している。
「……ちゅめら噛みつき。マルはゴースト。はちゅは広範囲に」
言葉が足りない? そんなのは大丈夫。ボクの精霊達ならボクの思ったイメージをしっかりと受け取ってくれる。だから、言葉といっしょにそのイメージを送る感じでオケ。それだけで想像通りの動きをしてくれる。
いまもほら、マルは杵でゴースト系のモンスターを消滅させている。はちゅはボクの指示通りに、モンスターの群れの後方へと広範囲の電撃攻撃。
そして、ちゅめらはというと、取り巻きをがっつりと咥え込んでブンブンと振り回している。
「ノ、ノオオ! コ、コ、コンナンナ、アトアトアトラクシンガガガガ、イ、イ、イ、イヤダァァァァァ!!」
なんかボスの取り巻きが叫んでいるように聞こえるけど。相手はモンスターだから気にしない。うん、どんどんちゅめらはやっちゃって。
多分だけどかなり有利にボクは立ち回っている。ただ、はっきり言って敵の数が多くて凄く面倒くさい。だから、はちゅの電撃だけでは討ち漏らしが出てしまうのも仕方がない。
ただ、そこはちゅーらが接近してきたモンスターに触手のパンチで迎撃をしている。だから今のところ問題は無い。
「……うん。何人たりともボクには近づけない」
「ぴゅぃ!」
「……流石ちゅーら。ほら、あっちに百裂拳」
ぴゅぃぴゅぃぴゅぃ! と可愛い鳴き声を上げながら、ちゅーらは指示をした方向へと触手を連続で伸ばしていく。
ただ、その伸ばされる触手の速度は尋常ではない。ビュンビュン! と風を切る音を何度もさせている。だから、触手伸ばしがミョーンなんて可愛い擬音なんてモノじゃない事だけは確か。
……ある意味、はちゅの電撃でやられたほうがまだマシかも?
ボコボコに殴られたモンスターは足を止めてしまったら最後。伸ばされた触手に捕らわれ、体中をスライムの粘液に覆い尽くされ、たぶんだけど体内にも侵入されている。そして、体内に入った粘液により魔石などがジワジワと溶かされていっているはず。
ちゅーら、実に恐ろしい子! でも、味方だから凄く頼りになる。
「……む。取り巻き? が、なんかやってる」
「ぴゅぅ?」
ちゅめらに噛みつかれて振り回されながらも、どうやら取り巻きは何かを狙っているらしい。
ジタバタジタバタと手足をばたつかせながらも、その視線はしっかりとボクの方へ。……ふむ、ただの駄々っ子じゃないらしい。
だからボクは頭上のちゅーらにも、あの取り巻きが何を狙っているのか注意するようにと言っておいた。
そして、どうやらソレは正しかったみたい。
あの取り巻きは、どうやらダイレクトアタックでボクに仕掛けるタイミングを狙っていたらしい。そしてまた、その攻撃方法がとてもじゃないけど、常軌を逸していた。
「……こんなのプレゼントされても困る」
取り巻きがとった攻撃方法。それは、自らの手足を千切ってボクの方へと投げつけてくるといった方法だった。
勿論だけど、飛んできた手足は全てちゅーらが叩き落としてくれた。しかし、その手足……取り巻きの体から切り離されたと言うのに、自立して動き出してとても気持ちが悪かった。
「……手首から先だけならまだ可愛い。そんな映画が古の時代にあった」
トコトコと指を使って歩き、時にはダンスを踊ってみせるような手。うん、それだけなら可愛い。
でもこの腕や足は、ズルズルと這いずりながらボクの方へと向かってくるからとても気持ちが悪い。腕なんて、手を使って地面から少しだけ腕を持ち上げた後、曲げた手をピンと伸ばして前へ前へと進む。手のところだけがなんだか波を打っているような動き。
そんな動きをこの手は繰り返している。そしてその動きは……どう見ても体の硬いシャクトリムシにしか見えない。
別にボク自身、虫をキモチ悪いなんて思わないけど。
流石に生身の腕で、しかも骨と千切れている肉が見える腕がそれをやられると嫌悪感を覚える。
だから思う。精神攻撃をしてくるなんて、なんて恐ろしい取り巻きだ。でも良かった、この取り巻きと遭遇したのがボクで……と。
もしエリカとかがこの取り巻きと対峙していたらと思うと……きっと泣き叫んで戦いにならなかったかもしれない。
「……だからお誂え向き。これはエリカ達が来る前にボクがやっちゃう」
「ぴゅぃぃ!」
名前も分からない、ヒトの言葉を話すモンスター。
悪いけど、君はボクの友人達にその姿を見せる訳にはいかない。君はエリカ達にとって、最も最悪と言っていい存在だから。
「……だから跡形もなく消す」
トラップルームで湧くモンスター達の勢いが収まった。どうやら最後の召喚ウェーブが終わったみたいだ。
それならここは、はちゅを送還して、違う精霊を最大火力になるようにしながら召喚しよう。
「……ん。ここで新しい切り札。行って、〝大精霊化・ちゅー太〟」
最初に契約したちゅー太を、ボクはあのシステムから貰った能力で召喚。するとそこには……。
「……おぉ……うねうね」
「ぴゅぇぇぇぇ……」
ちゅーらと2人して、ちゅー太の姿に驚愕。
僕たちが驚いたちゅー太の姿。それはまさに龍といった姿。
サイズはそこまで大きいものではない。多分だけど、それは部屋に合わせたサイズ何だと思う。ただ、頭に2本の角、大きな牙、ふさふさな鬣、ちゅるんと伸びた2本の髭、そして体中にびっしりと生えた鱗、更にはガシッと大人でも簡単に掴めそうな爪……が、5本。あれ? 龍の爪って3本じゃなかったけ。
その姿は東洋の龍そのもの。これはどえらいモノに変化した。……ボクが呼んで大丈夫なのだろうか? 暴走とかしたりしない? なんて思いながら、呼び出した龍を眺めていると。
「ちゅ!」
ズコッと体中から力の抜けそうな鳴き声を龍が発した。
あぁ、そうだった。この子のベースは〝ちゅー太〟だ。土属性のネズミの〝ちゅー太〟が龍になったんだった。
ん? という事は、この龍は土属性で、確かちゅー太はモグラの姿にもなれるはずだから、まさに土竜と書いてモグラ?
「ちゅ……ちゅぅぅ……」
何やら気落ちした様子を見せるちゅー太。うんうん、かっこいいモグラだよね。だから、しっかりとその土属性の力で、そのボスモンスターをやっつけちゃって。
「……ちゅぅ……ちゅ。スゥゥゥゥ―GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―」
おぉ! ネズミなちゅー太の鳴き声をしていたかと思ったけど、しっかりと龍らしい咆哮も上げることが出来るんだ。ソレが出来るなら最初からやってくれたら良かったのに。
あ、取り巻きが冷や汗をかきながらちゅー太を見ている。アレはどう見ても「絶望した!」と言った表情だ。
ガシッとその爪で鷲掴みにされる取り巻き。あれ? 腕を胸の前で組んで何やら祈りを捧げるようなポーズ……。
「……ん。龍の存在力に当てられた?」
何やら取り巻きはちゅー太という龍に掴まれただけで、塩の柱ならぬ魔力粒子の柱にでもなったのか、キラキラとその体を光の粒に変化させて自滅した。
「グ、グルァ? …………ちゅぅうぅ?」
どうやらちゅー太にも、何が起きたのかよく分かっていない様子。
恐らくだけど、あの取り巻きは恐怖心に耐え切れなかったんだ。もしこれが、ただのモンスターであれば別だったんだろう。
でもあの取り巻きは人の言葉を発していた。という事は、ボクはその存在が何者か……なんとなくだけど察している。
そしてその察している内容が合っているなら、その恐怖心はきっと〝人〟の部分から来るもので……。
モンスターになっても人の心を一部とはいえ残しているなんて、なんて拷問なのだろう。もう、既に自壊してしまったから、今後はその事で苦しむなんてことはないだろうケド。
人をモンスターにしてしまう存在。システムが言っていたバグ? だかウイルスだかしらないけど、見つけたら綺麗さっぱりと消し去らないと。
あとそんなモノを作った存在もなんとかしないと。
あ、でもソレって異世界にいるんだっけ? だったらボク達には手が出せない。うん、ここはシステムにしっかりと対策と対処をお願いしておかないと駄目だ。
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