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七百八十八話 厳しい説教をお願いします

 妖精門の解放を決断し、懸念していたとおり細かな問題が頻発したが、それでも細かい範囲に落ち着いたので、もう少し様子を見て迷宮都市へ……なんて考えていたらシルフィから妖精の凍死未遂案件を告げられた。なぜそうなる?




「もう一度あの雪の島に行きたいんだけど?」


 ヴィータに治療されシルフィの風の繭に拘束され連れてこられた妖精が、俺に心底不思議そうに疑問を投げかける。


 自分の迂闊な行動で死にかけたのに、その表情には一点の曇りもなく、やましいことは何もないという顔をしている。


 おそらく若いであろう妖精の男。見た目で考えるに二十歳そこそこに見える。


 そして、あまり見たことがない顔なので問題児確定だ。俺が顔を覚える前に姿を消していた妖精達の中の一人だろう。


「君は今からジューン姫にお説教してもらうので駄目です」


 そしてジューン姫に話を通した後は、雪島は封鎖予定だから当分雪を観察する機会は訪れないだろう。


 まあ、その前にあの面倒な雪の大精霊の説得というミッションが加わるので確定と言えないけどね。


 あの雪の大精霊、雪島の外に出ているのを見たことがない。というか、俺が雪島に足を運んでも姿を見かけることがほとんどない。


「えー」


 不満たらたらの妖精。そっか、小さいって不便そうに思えるが、こういう時には得なんだな。


 二十歳そこそこの男かバカなことをして人の庭で死にかけて、治療までしたのにこんな態度をとられたら、温厚な俺でも手が出てしまっていたかもしれない。


 それが、こいつどうしてやろうかと思うだけで済んでいるのだから、かなり得だろう。


「ヴィータ、ありがとう。もう大丈夫なんだよね?」


「しっかり治療したから大丈夫だよ。多少体力が削れているけど、普通の行動なら問題ない」 


 普通の行動にお説教が含まれているのかは微妙だが、運動する訳でもなく話を聞かされるだけなので大丈夫だろう。


 ジューン姫には是非ともこの目の前でふてくされ気味な妖精が、疲労困憊でもう一度ヴィータの治療が必要なくらいにしっかりとしたお説教をお願いしたい。


 ジューン姫は甘味に弱く、部下の賄賂にあっさりと転がされる心配なお姫様だが、賄賂が用意されていなければ王族の威厳たっぷりにお説教してくれるので助かっている。


 目の前の妖精は確実に賄賂なんて用意できるタイプには見えないからな。お説教は確定だ。


「シルフィ、ジューン姫はいつもの場所?」


「ええ、今は食後の休憩でまったりしているようよ」


「ありがとう」


 シルフィにお礼を言って楽園食堂に向かう。



 ドアを開けて楽園食堂に入ると、賑やかな喧噪が出迎えてくれる。妖精にも大人気な楽園食堂だけど、精霊にも大人気だから休日以外は大抵賑やかだ。


 といってもそれほど不快な騒がしさではなく、チビッ子&小動物が賑やかにしているだけなのでホッコリする騒がしさだ。


 まあ、幼稚園とかそういう感じが苦手な人には辛そうな環境ではある。といっても、精霊は基本的に泣いたり喧嘩したりしないので、幼稚園とかよりも格段に安心できるかもしれない。飛ぶけど……。


 楽しそうに何を食べるか相談している精霊達を眺めつつ、食堂の奥に進む。


 目的地は妖精専用テーブル。


 天樹のマンションも用意してあるのだが、ジューン姫は妖精専用テーブルの一角を拠点にし、楽園滞在中は基本的にいつもこの場所にいる。


 仕事が終わるとここに落ち着き、甘味を味わいまったりしている。偶に腹ごなしを兼ねて楽園を飛び回り、妖精達が問題を起こしていないか監督もしてくれるので、地味に助かってもいる。


「あら、裕太、どうかした?」


 そんなジューン姫が直ぐに俺に気が付いてくれる。


 シルフィの言うとおり休憩中なようだ。甘味に夢中な時は気づいてもらえない時があるからな。あれって意外と心にくる。


「貴様、また妖精を……ああ、そいつか。すまんな、何か迷惑をかけたか?」


 カシュー君が妖精が捕らえられた風の繭を発見し、問い詰めようとして中に入っている妖精をみて態度を翻した。


 カシュー君はジューン姫だけではなく普通の妖精も気に掛けているのだが、しっかり線引きはできているようだ。


 おそらくカシュー君の中で守るべき対象は、甘味に引かれた普通に近い妖精と、変わり者に巻き込まれて頑張っているマルメロのような健気な妖精に限定されていると思う。


 変わり者の妖精でも理不尽に処罰されていたら守ろうとするだろうが、基本的にはこちらよりの判断をしてくれる。


 まあ、細かな問題を起こしまくるので、かばうのを諦めたとも言えるけどね。


「うん、それでジューン姫に相談に来たんだ」


「相談が必要なほどなのか?」


「必要なほどだよ」


 俺の断言にカシュー君が頭を抱える。妖精を招致して胃に痛みを感じることが増えた俺としては、とても共感できる姿だ。


 俺とカシュー君の視線が捕獲された妖精に向く……なんか騒いでいる様子なのだが何も聞こえない。どうやらシルフィが音を遮断してくれているようだ。


 そういえば移動中に、なにやら外に出せとか、雪島を見せろとか色々と騒いでいたが、途中から静かになっていたな。妖精が諦めたのかと思ったが、シルフィが対処してくれていたようだ。とても助かる。


 カシュー君がため息をついて道を開けてくれたので、ジューン姫の元に向かう。


 ジューン姫が拠点にしている妖精専用テーブルの一角は、ジューン姫のリクエストで彼女が使いやすいように改良が施されている。


 椅子はフカフカな頭が平たいキノコ。正面に机はなく、横にピンクの花のテーブルが配置されている。


 なぜ正面にテーブルが配置されていないのか、それはジューン姫が精霊サイズの甘味が好きだからだ。


 大きなサイズのお菓子を思う存分味わうのがジューン姫の好みらしい。


 俺は色々な味を沢山楽しめる方が好きなので、実はジューン姫と性格が合わないのかもしれない。


「それで、そこのバカは何をやらかしたの?」


 名前すら呼ばれない妖精。そういえばこの妖精と自己紹介していないから名前は知らないな。俺もバカと呼ぶことになるのだろうか?


 ストレートな罵倒なので、さすがにそれは気まずいのだが?


 まあ、呼ばなければ済む話か。


「実は―――」


「「はぁ…………」」


 俺の説明を聞いたジューン姫とカシュー君が重いため息をついた。気持ちはとてもよく分かる。


 でも、理由があってもそんな変わり者な妖精を連れてきたのはジューン姫なので、一緒に苦労してほしい。


「……裕太の言いたいことは理解したわ。雪島の封鎖と、妖精側の無茶が原因の事故……事故なのかしら? ……妖精の馬鹿な行いの結果を楽園側に負わせないと約束するわ」


 雪島の封鎖を聞いて風の繭の中で全力で駄々をこねている妖精を見ながら、ジューン姫が約束してくれる。


 というかシルフィ、向こうの声が聞こえないようにできるなら、こちらの声が妖精に聞こえないようにしてくれても……あ、妖精にお説教してもらう予定だったな。声が聞こえなければお説教もできないし、仕方がないか。


「ありがとうございます」 


 正直、文章にして証拠を残しておきたいところなのだが、妖精に文章というのがピンとこないし、王族の言葉に更に補償を求めるのも微妙な気がしたので止めておく。


 この判断はビジネスマンとしては落第なんだろうな。


 でも、ジューン姫の言葉は俺だけじゃなくシルフィも聞いているし、カシュー君も聞いている。


 カシュー君はくそ真面目なタイプなので証人……証妖精としては悪くないはず。


 そしてこちらには大精霊が待機しているのだから、妖精としても無茶なことは言わないはずだ。


 ……実は大精霊でさえ相手にならないほど妖精が強かった場合は洒落にならないが、そうだったら証拠の紙なんて無意味だしね。


「……では、お説教をお願いします。本気で死ぬところだったので、骨身に染みるくらい厳しい奴をお願いします」 


 話に一段落がついたので、シルフィに合図をして風の繭をジューン姫の前に差し出す。


 この妖精のせいで雪の大精霊のところに交渉に向かわなければいけなくなったので、トラウマになるくらいのお説教をしてあげてほしい。


 あの雪の大精霊、交渉するのがひたすらに面倒なんだよね。


「ええ、ここで泣くほどしかりつけた後に、城に連行して宰相にも説教させるわ。その後はリードを付けて当面外さないことにするわ」


 おお、連続のお説教に加えて、迷子紐の長期装着が義務付けられるのか。それなら別に雪の大精霊のところに行かなくても……駄目だな。


 ここで油断したら別の妖精が似たようなことをするか、もっと酷いことをしでかすに決まっている。あいつらはそういう奴だ。


「くれぐれもよろしくお願いします」


 もう一度お願いして、シルフィと共に楽園食堂を出る。食堂では働き始めた妖精達が、結構楽しそうにしていたので問題ないだろう。


 若干黄昏ていると、遠くでベル達が楽しそうにはしゃいでいるのが見えた。あのあたりにも妖精が居るのだろう。


 ベル達にはお仕事として、楽園の見回りに加えて妖精達の監視もお願いしてある。


 結構大変なお仕事だと思うのだが、ベル達はゲーム感覚で楽しんでいる様子なので頑張ってくれるはずだ。


 ジーナ達にも妖精を見かけたら危険なことをしていないか確認するように言ってあるので、シルフィや他の大精霊の監視を加えれば鉄壁に近い布陣になっているはずだ。


 まあ、そんな鉄壁な布陣なのに、妖精が一人死にかけているんだけどね。


「シルフィ、雪島までお願い」 


「分かったわ」


 シルフィにお願いして雪島に飛ぶ。自力でも行けるのだが精神的に疲れたし、この後も疲れるのが確定しているので体力を温存させてもらう。

 

「ありがとう、シルフィ」


 雪島に到着すると今日は吹雪な気分なのか結構天気が荒れている。こんな状況であの妖精は自身の守りを捨て去ったのか。バカだな。知っていたけど。


 まあ、こんな天気でも精霊が遊んでいる姿がちらほら見えるけど、精霊は実体化を解いているから問題ないはずだ。解いているよね?


 若干不安を感じるが、危険ならシルフィが注意するはずだから大丈夫だろう。


「裕太、そっちじゃないわ」


「え? あのカマクラに居るんじゃないの?」


 目の前にあるカマクラに向かおうとしたらシルフィに制止される。シルフィなら無駄なく雪の大精霊の近くに降ろしてくれると思っていたのだけど、違った?


「そっちは前の巣よ。小さい子達が遊びに来るから移動したの。今いるのはあそこよ」


 そう言ってシルフィが軽く手を振ると、風で雪が吹き飛ばされ、ギリギリ人が通れる程度の穴が現れた。


 なるほど、ものぐさな雪の大精霊らしく、遊びに来るチビッ子達の相手が面倒になって隠れたのか。


 それにしても、元の巣から十メートルも離れていないのだが? 隠れるならせめてもう少し距離をとればいいだろうに本当にものぐさだな。


 いや、灯台下暗しを狙ってあえての選択……無いな。間違いなくものぐさが理由だろう。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
問題児は故郷でも問題児だったのかな。久々の雪の大精霊楽しみ。
>ここで油断したら別の妖精が似たようなことをするか、もっと酷いことをしでかすに決まっている。 マイナス方面の信頼が厚すぎぃ!! そして雪の大精霊かー これ幸いといろいろと権利を主張してくるんだろうなぁ…
問題児っぷりが人間に勝るとも劣らないとは・・まあ精霊達が実力的にも民度的にも高すぎなだけかもだけど 花蜜酒の割に合わないと言いたいとこだが精霊が欲しがるというだけで実質プラスなのよな
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