七百四十六話 マジであった
酒蔵で秘密の通路を発見し、なんやかんやとありながらお城の盗賊スキルを持つとおぼしき騎士さんが頑張って安全確認をしてくれた。安全が確認されたら王様登場。王様とお偉いさんと同行しての宝探しが始まった。ようやく見つけたワイン瓶は駄目になっていたが、その下に秘密の空間が……。
「シルフィ。下に空間があるのは分かったけど、罠とか鍵はないの?」
瓦礫を綺麗に排除し、いよいよ本番と思ったところで思い止まり小声でシルフィに質問する。どちらか一つでもあったら、なんの技能も持っていない俺では無理だ。
「ないわね。隠し部屋というよりも貴重な品を保管しておく隠し食糧庫といった感じね。そのお酒は昔でも貴重だったし、念のために隠し食糧庫に保管しておいたのでしょう」
昔でも貴重ってことは今はもっと貴重ってことになるのかな? それを王様に要求するのは大変そうだが、価値が高ければ高いほどマッサージチェアの対価代わりになるから悪くない。
マッサージチェア二台以上に貴重な品で、価値が逆転しなければだけど……まあ、それなら隠し食糧庫ではなく宝物庫に保管されるだろうから大丈夫だろう。
だが、隠し通路の隠し部屋の食糧庫の隠し食糧庫? 隠し過ぎじゃないか?
「それで、どうすればいいの?」
「そこの石畳のつなぎ目に隙間があるでしょ。そこに手をひっかけて石畳を持ち上げるの」
ここにきての力業。石畳の一枚一枚が割と大きいので、一般人では数人がかりか器具の助けが必要に思える。
もしかして魔法的な仕掛けで重さが軽減されている……こともなく、レベルが上がって力が強化されている俺でもギリギリの重さだった。
まあ、俺は精霊術師、肉体派ではなく知性派だから、肉体派の人ならある程度鍛えられていたら大丈夫な重さだと思う。
石畳を持ち上げると階段があり、同時に古く籠った空気の臭いが鼻につく。お酒の匂いなんてしませんけど?
本当にお酒があるのかが疑問だ。それに本当にお酒があったとしたら、それはそれで怖い。
完全密封とまではいかないが、それでも何層にもわたって空気が遮断されていた。
それなのにお酒の存在を感知するって…………。
「……罠がないのは聞いたけど、このまま降りてもいいのかな?」
大精霊のお酒に対する執着は今更なので考えないことにするが、このまま地下に足を踏み入れるかどうかは悩みどころだ。勝手に入ってもいいものなのだろうか?
先に王様に報告とかしておいた方がいい気もする。世間体的に。
「構わないから入っちゃいなさい。報告したら、なんやかんやで時間がかかるのだし、後で報告すればいいのよ」
シルフィはとにかくお酒を確認したいらしい。確認するのは構わないけど、飲むのは駄目だからね。
あ、駄目だ。何の気なしに食糧庫の入口を見ると、愕然とした様子の騎士さんと目が合った。
そりゃあそうだ、通してくれたとしても警備が仕事なんだから監視はする。小声で話していたから会話は聞こえていないだろうが、石畳を持ち上げていたら気が付かない訳がない。
「階段がありました。罠は無いようなのでちょっと降りてみますね」
このままボーっとしていたら間違いなく制止される。そうなるとシルフィがソワソワし続けることになるので勢いで押し通す。
「ちょっとま―――」
背後で何か聞こえたような気がするが、たぶん気のせいだろう。
光球を浮かべて階段を降りると、シルフィの言うとおり小部屋というか物置程度の空間があった。
やはり棚は崩れていて、木製の破片が散らばっているのは上の食糧庫と同じだ。
ただ、今までと違う点がある。
金属の容器がいくつも転がっているのだ。おそらく棚に収められていたものが、棚の崩壊と同時に崩れ落ちたのだろう。
「ミスリルの容器はあのお酒の保存に欠かせない物。間違いないわね。匂いが漂っていたのは、崩落した際にゆがみが生じたいくつかの容器から匂いが漏れ出したからでしょう。そちらもまだアルコールの匂いはするけど、本命は匂いが漏れていない容器ね」
シルフィが珍しくテンション高く声を張り上げる。
ミスリルって言った? お酒にミスリル容器? この世界には大精霊達のようにお酒にミスリルの容器を使うことが当然と思う人が居るってこと?
知り合いになりたくないタイプだな。そのタイプは大精霊達だけで十分だ。
「下段の容器は全部問題ないようね。転がっている容器の内、半分以上は無事、落ちた時の衝撃が少なかったのでしょう。これだけあれば、ある程度のお酒を確保できそうね。少なかったらどうやって手に入れようか悩んでいたから、助かったわ」
……お酒が少なかった時のことを考えて俺を急いで突入させたのなら、割と不謹慎なことを考えていたのでは?
シルフィがお酒を盗ませて俺を犯罪者にすることはないと断言できるが、先に発見させて場を掌握、発見の功績を以ってお酒を要求的なことくらいは考えていてもおかしくない。というか絶対に考えていただろう。
それなりの数のお酒が無事で、俺もかなり助かったんだな。
「これは……」
声がして振り向くと盗賊騎士さんが居た。見張りの騎士が報告して慌ててやってきたのだろう。
「やはりお酒がありました。このお酒は貴重な物なので慎重に取り扱ってください」
「お酒……本当にあったんですね」
盗賊騎士が俺をなんとも言えない目で見ている。言いたいことは分かるが、こればっかりは俺にはどうしようもないことなんだと訴えたい。
「とりあえず外に出ましょう」
盗賊騎士の言葉にチラッとシルフィを見ると、問題ないと頷かれた。お酒の確保が難しくないと判断して、心の余裕ができたのだろう。
盗賊騎士に続いて小部屋を出ると、代わりに裏っぽい人達が突入していった。色々と調べるのだろう。
「裕太、注意して」
え? 注意? なにか危険が……いや、違うな。
「迂闊に蓋を開けたりしないように言うのよ。台無しになったら許せないわ」
やはりな。
「すみません。中のお酒は貴重な物なので慎重な取り扱いをお願いします。迂闊に蓋を開けたりしないようにお願いします」
声を掛けられると思っていなかったのか、ちょっと挙動不審になる裏っぽい人だが、頷いてくれたのでたぶん大丈夫だろう。
あと、盗賊騎士さん、そんな目で見ないでください。俺は指示通りに動いているだけなんです。
冷たい視線に耐えながら階段を上がると、王様達が勢ぞろいしていた。財宝に魅入られていたマリーさんとソニアさんも居る。
「まさか本当に酒を発見するとは……」
盗賊騎士さんの報告を受けた騎士団長が驚きの声を上げる。その声を聴いた王様を筆頭としたお偉いさんの集団の視線が呆れを含んだ物に変わる。
「王様、下で発見したお酒はそれなりに量があるのでマッサージチェアの対価に含まれるようにお願いします」
「う、うむ、要望は理解した。して、その酒はどのような酒なのだ?」
え? そんなことを聞かれても、俺にどうしろと?
「あの容器に入っているのは妖精の花蜜酒よ」
妖精って存在していたんだ。なんか凄そうだけど、花の蜜ということはハチミツ酒みたいなものかな?
「裕太は分かっていないわね。妖精の花蜜は妖精の庭か妖精の花園で妖精が育てた花からしか採れないの。しかもその花蜜は薫り高く糖度も抜群なうえ、多大な魔力を含んでいるの」
俺のリアクションが弱かったからか、若干荒ぶるシルフィ。別に感心していない訳じゃないんだよ? ただ、人目があることを思い出してほしい。
「それをミスリルの容器で発酵させることで、高い魔力を保ったままの蜜酒にすることが可能なの。しかも、妖精の花蜜は香りと糖度が抜群に高いから、酒精と香りも他のお酒とは比べ物にならないほど強く甘く華やかなの!」
つまり、香りが凄くてアルコール度数も高くて、魔力と甘さを兼ね備えているということらしい。
なんだ、シルフィの反応から、神話とかゲームに出てくるソーマみたいなとんでも効果なお酒かと思った。
「その上、昔は貴重ながらも妖精と交流があって妖精の花蜜酒も手に入ったのに、人間が馬鹿をやり続けたから妖精は自分の世界に引きこもっちゃったの。つまり、妖精が外に出るつもりにならないかぎり、二度と手に入らないお酒なのよ」
いかん、シルフィのテンションについていけない。
とりあえず、シルフィの言葉を要約して王様達に説明する。
「妖精の花蜜酒、そのような酒が存在していたのだな」
王様が感心した様子で頷く。王様も知らなかったようだ。シルフィが昔って言葉を使っていたから、相当昔のことで人の記録から失われているのかもしれない。
「陛下! その妖精の花蜜酒のことは古代の文献で見たことがあります! 文献の説明によると、天に昇るほど美味で、飲むだけで魔力が回復するそうです。ですが、その酒の真骨頂はそこではなく錬金や薬の素材となり、その効果を飛躍的に高めることなのです!」
感心する王様をよそに、今度は魔法使いっぽいお爺さんが荒ぶり始める。古代の文献とやらには妖精の花蜜酒の記録が残っていたようだ。
しかも、なんか凄い効果があるようなことを言っている。
天に昇ると聞いて、一瞬アルコール中毒で天に召されるのかと疑ってすみません。
でも薬の効果を飛躍的に高めるって凄いな。
美味しいお酒を狙って引き籠らせるほど妖精に迷惑を掛け続けたのかと思ったが、そういう効果があるのなら人間は貪欲に狙い続けるだろう。
精霊樹の果実とか神力草とか若返り草とかと妖精の花蜜酒を組み合わせたら、とんでもないことになるかもな。
まあ、シルフィは効果に興味はないようで、味のことしか語っていなかったけど……。
いかん、胃が痛くなってきた。そんな貴重なお酒だとしても大精霊達は躊躇わずに呑む。
絶対に呑む。
呑みつくす。
それを俺は傍で見守らないといけないのか。想像しただけで恐怖でしかないのだが?
「……裕太殿、取り分については真剣に協議しよう」
魔法使いっぽいお爺さんの話を聞いて王様の目の色が変わった。王様だけではなく、その場に居る全員の目の色が変わっている。無論、マリーさんとソニアさんもだ。
……タフな交渉になりそうだぜ。
読んでいただきありがとうございます。




