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六百五十一話 森への第一歩

 エルフの国に移動してからの土の採取、それは順調に完了した。精霊樹を復活させたことを恩に感じてくれているので、美男美女からチヤホヤされながらの作業だったから幸せすら感じた。まあ、正直美男は必要ないのだけれど、感謝してお手伝いをしようとしてくれるエルフに、イケメンは要らんという度胸はなかった。あと、サクラが激甘に甘やかされていたので、エルフにあまり甘やかさないように釘を刺した。




「どさどさどさどさ土を出すー。ただひたすらに土を出すー」


 魔法の鞄から採取してきた土をただひたすらに放出する作業。その単純作業に堪えかねて調子っぱずれの歌を歌う。


「ベルとフレアは警戒ー」


「けいかいー」「げきめつだぜ」


 名前が出たベルとフレアは元気に合いの手を入れてくれる。フレアの言葉が物騒な気がしないでもないが、細かい事は気にしない。単純作業が少しでも楽しくなればいい。


「トゥルとタマモが土を調整してレインが水を撒くー」


「キュー」「きれいにならす」「クゥ!」


 一番働いているのはこの組み合わせかな? 土を死の大地の環境でも植物が育てられるようにしているのだから重要なポジションでもある。


「ムーンは癒しー」


「…………」


 ムーンが無言で頬ずりしてくれる。作業の重要度はともかく、一番助かっているのはこれかもしれない。


 暇すぎて泣きそうになるところに、ムーンのぷにぷにでプルンプルンな感触がとてつもなく心を癒す。


 ベル達の頑張る姿に視覚で癒され、ムーンのパーフェクトボディで物理的に癒される。これがなければ折れていたかもしれない。


 まさか大量の土をただ放出する作業がこんなにも暇だとは思わなかった。土を掘り返している時も採取している時も慣れと惰性でやっていたけど、あの作業でもアクションが多かったから少しは暇を潰せていたらしい。


 今までも土を放出したことはあったが、今回は広さが広さだから土の調整をしながらだと退屈な上にひたすら時間がかかる。


 子供の精神に良くない影響を与えそうだと思い、最初は手伝ってもらっていたジーナ達を修行に行かせた俺、グッジョブだ。


 今日中には終わらないだろうなー。明日には終わるかな? 終わってほしいなー。


 あとシルフィ、退屈なのは分かるけど少しは俺と会話してほしい。目をつむっているけど、寝てないよね?




 ***




 結論、二日では終わらず四日掛かりました。サクラの為とは言え、次からはもう少し段階を踏んで開拓面積を決めたいと思います。


 でも、そんな退屈な日々も今日で終わり。これからは契約精霊と弟子達と一緒に楽しく木を植えて森を造る作業です。


「という訳で、どんな森を造るか会議を始めます。ホストはサクラ。アドバイザーとしてラエティティアさんとノモス、ドリーにも参加して頂きます」


 森といっても色々ある。しかも、一から自分達の手で造るのだから可能性は無限大だ。


 今なら森全てを桜の木で埋め尽くすことすら可能。千本桜どころではなく万本桜だ。たぶんものすごく綺麗だと思う。


 まあ、やらないけどね。桜が咲く時期以外が悲惨なことになるし、サクラが常に綺麗な桜を咲かせてくれているので被る。


「はい! おいしいものがたくさんあるもりがいい!」


 開催宣言と同時にマルコが手を上げて食欲をぶちまける。毎日お腹いっぱい食べさせているはずなのだが、なにか不満でもあるのだろうか?


「果樹園があるけど、それじゃあ足りないの?」


 ドリーとタマモが管理してくれているから、美味しい果実が毎日食べきれないほど実っている。楽園食堂でも大人気な逸品だし、マルコも偶に食べているはずだ。


「くだものはおいしい。でも、それいがいも食べたいんだ。ニクとかキノコとか」


 ああ、森の恵み全般が欲しいのか。ローゾフィア王国の森での採取は、地味に楽しいからな。キノコも美味しいしイノシシやウサギなんかの丸焼きも楽しい。


 味的には丸焼きよりもドラゴンなんかの方が圧倒的に上なのだけれど、丸焼きはインパクトも強いし味以外の美味しさがあるのは否定できない。


 あと、野草とか山菜とかに言及しないところがマルコらしいな。


 苦労してきたからなんでも食べるが、狼の獣人だからかマルコは野菜よりも肉が好きだ。


「うーん、キノコはヴィータに頼めば大丈夫だけど、肉はなー」


 光茸の相談の時に覚えた。キノコはヴィータの担当。


「師匠。肉になにか問題があるのか? 開拓した規模の森なら野生動物の繁殖も問題ないよな?」


 俺が戸惑っているとジーナが不思議そうに話しかけてくる。


 たしかに野生動物が生活する環境としては問題ないだろう。サクラが管理してラエティティアさんがサポートする、しかもノモスとドリーのフォロー付きな森がそれくらいのことができないはずがない。


 むしろ大繁殖が心配なくらいだ。問題は……。


「ほら、森で野生動物を狩って食べたりしたら、玉兎達が死ぬほど警戒する気がするんだよね」


 無論、わざわざ玉兎にその行為を見せつけるつもりはないが、草食系の野生動物の察知能力を甘く見てはいけない。


 訳が分からない理屈で感知して、俺の姿を見ると文字通り脱兎のごとく逃げ出すようになるんだ。


 せっかくある程度コミュニケーションが取れるようになってきたのに、それが無に帰すのは悲し過ぎる。


 あと、魔物を虐殺しまくっている自分が言うのもなんだけど、他に食べられるお肉が沢山あるのに動物を狩ろうとは思わないし解体もしたくない。


 まあ、解体はルビーに任せたらなんとかしてくれると思うが、それでも狩りがしたいとは思わないよね。


「あー、そういえばそうだな。あいつら、すぐに警戒するもんな」


「キッカ、うさぎさんたちにきらわれるのはいや!」


 俺の説明に納得を示すジーナと、キッカの強い否定が返ってきた。


 実は玉兎と問題なくコミュニケーションが取れるのって、精霊達を除けばサラとキッカだけなんだ。


 俺もライト様の仲介のおかげである程度接触できるようになったが、それでもいまだに警戒されている。


 子供なら大丈夫なのかと思っていたが、マルコも玉兎達とは相性が悪い。狼の獣人うんぬん以前に、マルコは動物を食べ物として認識するタイプだ。


 ジーナも表情には出さないが似たタイプなので動物達の警戒が解けない。


 反面、サラとキッカは純粋に動物達と仲良くしようとするので、動物側の警戒も薄い。何度か二人が動物達と遊んでいる姿を見たことがあるが、童話の世界に迷い込んだかと錯覚するくらいホッコリした。


 俺としてもその光景が見られなくなるのは悲しい。とはいえ大きな森に動物が居ないのも悲しいから、モフモフキングダムとは別枠で動物の誘致は考えることにしよう。肉食獣が居る方の森は普通に合流だな。


 サクラの意見も聞きつつ、ラエティティアさんとドリーとノモスにアドバイスをもらいながら方針をまとめる。


 結論として、木の種類ごとにまとめて配置するタイプの森ではなく、様々な種類の木々が混在するタイプの森に決定した。


 様々な場所に様々な木や植物を植える予定だから、冒険が楽しい森になりそうだ。


 と言っても適当に混在させるのではなく、肉食獣が生活しやすい植生、草食獣が生活しやすい植生、水辺の植生、キノコが繁殖しやすい植生などなど、場所ごとにある程度の特徴を持たせるように考えている。


 あとはこれに加えてラエティティアさんご要望の天樹の森を精霊樹の近くに配置、モフモフキングダムと果樹園もプライベートスペースから行きやすい場所に配置することに決定した。


 今回は森だから専門家の意見を聞けば簡単にまとまったが、楽園をリフォームする時は大変だろうな。主に醸造所のスペースで揉める予感がする。


 まあ、後のことは未来の自分に任せて、今は森を造ることに集中するか。土をただ放出するよりかは楽しい作業だけど、広さが広さだから気合を入れて頑張ろう。



 方針が決まったのでプライベートスペースから見て精霊樹の裏側に向かう。今後はこの背後が広大な森になるのか。森付きの裏庭、そう考えるとちょっと楽しそうだ。


「じゃあまずは天樹の種からだね。まだ聖域の範囲内だからドリーやノモス、タマモやトゥルの指示に従って作業してくれ」


 俺の言葉にベル達、ジーナ達、フクちゃん達、サクラが元気に返事をしてくれる。


 みんなには精霊の姿が見える間に、ある程度作業のコツを覚えてもらいたい。


「裕太さん、これをどうぞ」


 ドリーが種を俺に手渡してくれる。ふむ、精霊樹の種ほど大きくはないが、エルフの国で見た巨大な木に成長するだけあってかなりの大きさだ。ゴルフボールくらいか?


「場所は?」


「そうですね、精霊樹もまだまだ大きくなりますし、天樹もかなり大きくなります。あのあたりが丁度いいでしょう」


 ドリーが指した場所は、精霊樹からかなり離れている。現在聖域として認識されている場所だと、何本も植えられそうにないな。俺の家の裏庭は凄いことになりそうだ。


「ここにあなをあける。これくらい?」


「クゥ!」


 指示された場所に向かうと、既にトゥルとタマモが準備万端整えていた。背後にレインが控えているのは、種を埋めた後に水を掛けるつもりなのだろう。


 お礼を言って契約精霊と弟子達に見守られながら種を埋めて土をかぶせる。


 これが広大な森の為の最初の一本だと思うと少しだけ感慨深い。


「そういえば森の木達は一気に成長させるの?」


 レインが水を掛けているのも見守りながら、気になったことを質問する。


「いえ、森の植物の生長を管理するのも精霊樹の役割の一つです。精霊の力に頼るのではなく、精霊と協力して少しずつ育てていく方が良いでしょう」


 俺の疑問にラエティティアさんが答えてくれる。なるほど、開拓初期の頃のように毎日少しずつ育てていく感じか。あれはあれで植物の生長が実感できて楽しかったな。 


 時間がかかると言っても楽園の森や果樹園を造る時も、地球の常識で考えると早送りのような成長速度だったから、楽しんで待っていればすぐに形になった森が見られるだろう。


「おっと」


 森の完成を想像していると、サクラが胸に飛び込んできた。かなり上機嫌なようで、キャウキャウ騒ぎながら俺にしがみついてくる。


 ラエティティアさん推薦の天樹が自分の管理する土地に来たのが相当嬉しいようだ。


 この様子なら、エルフの国に負けない立派な森が完成しそうだな。


 そのためには沢山種を植えないとな。桜万本とか想像していたけど先は長そうだ。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖域って裕太が開拓すれば、割と簡単に拡張できるんじゃなかったっけ(また精霊王の茶番待ち?)?
[一言] 家畜とかはもう追加しないのかね? 特に牛とかミルク要員とか
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