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六百五十二話 タマモの充実した一日

今回は三人称に挑戦してみました。違和感があるかと思いますがよろしくお願いいたします。

 予想以上に退屈だった土の放出を終え、サクラの為の森の拡張は次の段階に移行した。そう、豊かな森にするために様々な植物の種を植える作業だ。土を放出するだけで四日掛かった面積に手作業で種を植える……ま、まあ、みんなでやれば楽しいよね。




「クゥ!」


 日が登ると同時にタマモがパチっと目を覚ます。


 タマモの朝は早い。森の下級精霊であり植物を司る精霊ゆえに日が登る頃になると自然と目が覚めるからだ。


 偶にお寝坊してしまうこともあるが、それはしょうがないことだとタマモは思っている。


 なぜなら裕太からもらった自分達の部屋の大きくてフカフカなベッドで、大好きな仲間と共に一塊になって眠るのはとても幸せなことだからだ。


 裕太と一緒に眠るのも幸せだが、それと同じくらい幸せだとタマモは思っている。


 森で自然と同化して眠るのも木の影で眠るのも好きだが、いまだとそれは少し寂しく感じてしまうだろう。


「クゥ~」


 ふわりと浮き上がり、まだ熟睡している仲間達を見て、今日は一人のようだとタマモはコクリと頷く。


 同じタイミングで目覚めたら一緒に朝の見回りに行くのだが、一人での朝の見回りもタマモは嫌いではない。


 さて出発だと浮き上がりドアを開けて部屋を出る。外に出るだけなら実体を消して壁を素通りすれば簡単なのだが、ちゃんと実体化したまま外に出るのはタマモの秘かなこだわりだ。


 まあ、急いでいる時は気軽に壁抜けをする程度のこだわりなのだが。


「おはようタマモ」


「クゥ!」


 タマモが家を出て森に向かうとドリーと出会い、元気に朝の挨拶をする。ドリーも早起きなので、楽園に居る時は毎朝挨拶している。


 ドリーはタマモが生まれた森を管理していた大精霊で、いつも可愛がってくれていたうえに裕太と出会わせてくれた偉大な精霊なので、タマモはとてもドリーのことを尊敬している。


「ふふ、くすぐったいですよ。では、一緒に森を見て回りましょうか」


「クゥ!」


 思う存分スリスリして親愛を示してから、タマモはドリーと一緒に巡回にでる。


 この楽園の主である裕太の契約精霊として、植物の管理はタマモにとって重要な使命だと思っている。


 だからタマモは真剣に楽園をパトロールする。


「あう!」


「クゥ!」


 タマモとドリーが最初に向かうのは、この楽園の植物の中心である精霊樹だ。


 精霊樹に近づくとサクラがポンと飛び出してきて、挨拶をした後にサクラがタマモに抱き着く。


「うふふ。二人とも相変わらず仲が良いですね。サクラちゃん、おはようございます」


「あう!」


 抱き合った二人を優しく撫でながらドリーも朝の挨拶を交わし、その後、精霊樹や森の木々達の様子を確認する。




「いつも通り問題はないようですね。では奥に行きましょうか」


「クゥ!」


 ドリーの言葉にタマモが気合の入った声で答える。最近普段の日課に加わった大切な任務。現在新たに作成している森の確認だ。


 ドリーやラエティティアが主導するとはいえ、タマモも森の下級精霊としての矜持があり、裕太の期待も感じている。なにより仲間であるサクラの為なのだからとタマモはやる気満々だ。


 ドリーを先導するように、造成中の森に向かう。


「ククゥ」


「ええ、そうですね、ようやく半分と言ったところですね。今回はゆっくり育てるそうですから、タマモもサクラちゃんも無理に生長を促してはいけませんよ。ほんの少しだけ力を分けてあげてください。いいですね?」


「クゥ!」


「あい!」


 ドリーの指示通り、タマモとサクラはほんの少しだけ力を込めて、植えられている種に力を届ける。


 タマモとしては早く豊かな森が見たいのだが、それが植物に無理をさせるということも理解しているので、未来の森を想像しながら楽しみに待つつもりだ。


 力を届けた後はサクラと一緒にふわふわ飛びながら見回りをする。まだ予定の半分程度で芽も出ていないが、破壊され尽くした土地が森に変わると思うだけでタマモは楽しくなる。


 今日のお仕事も頑張ろうとタマモは決意する。


「こちらも問題ないですね。そろそろみんな起きてくる時間ですし、タマモとサクラちゃんはお家にお帰りなさい」


「クゥ?」


「ええ、私は朝食は大丈夫です」


 ドリーの返答をタマモは少し残念に思う。裕太のごはんはとても美味しいのに、大精霊達はあまりごはんを食べない。でも、お酒を飲む時は必ず参加する。不思議だ。


「クゥ!」


「あう!」


「はい、ではまた後で」


 ドリーが居ないのは残念ではあるが、もうすぐ楽しい朝ごはんなのでドリーに別れを告げてサクラと一緒に家に帰る。


「たまも、さくら、おかえり」


 家に戻るとトゥルがタマモ達を出迎えてくれた。トゥルはいつもみんなに優しいからタマモは大好きだ。


「あー、たまもー、さくらー、おはよー」「キュキュー」「おはようだぜ!」「……」


 トゥルとタマモ達に気がついたベル達が集まってきた、みんなで朝の挨拶をする。そのあとは裕太が起きてくるまで遊ぶ。タマモにとってとても楽しい時間だ。



「みんなー、おはよー」


 しばらく遊んでいるとジーナ達がリビングに降りてくる。タマモ達はジーナ達とフクちゃん達に朝の挨拶をし、増えた遊び相手と遊びながら裕太を待つ。


 普段はジーナ達と同じくらいに裕太も降りてくるのだが、どうやら今日は少し寝坊をしているようだ。


 みんなで起こしに行くか相談するが、トゥルがもう少し休ませてあげようと言うので少し待つことにする。


「ごめんねみんな、少し寝坊しちゃった」


 待っていると裕太が起きてきたので、タマモ達は朝の挨拶をしながら裕太にしがみつく。今日のタマモは裕太の胸元をゲットでき、沢山撫でられたのでご機嫌な様子だ。


「さて、朝食は何にしようか?」


「にく!」


「ぷりんー」


 裕太の質問にマルコが肉を、ベルがプリンをリクエストする。毎朝のことなので裕太は苦笑いしながらマルコにどんな肉料理が食べたいのかを聞き、ベルに甘い物はご飯の後だと言い聞かせる。


 タマモは裕太の料理ならなんでも好きなのでいつもリクエストは控えめだ。なぜなら、リクエストをしてもタマモの言葉が裕太になかなか伝わらず地味に大変だからだ。


 優しく一生懸命に言葉を理解してくれようとする裕太が好きだが、時間をかけてメニューを選択するよりもタマモは早くご飯が食べたいとも思っている。

 

「よし、じゃあ今日の朝食は俺のとっておきをだそう。実はこれを用意するために頑張り過ぎちゃって今日は寝坊しちゃったんだよねー」


 裕太が弟子や精霊達の話を聞き、最終的に自分が食べさせたい物を朝食にすることに決めた。


 ハンバーガーだ。タマモはテリヤキバーガーが大好きなので、見た目が似ているそれを見て大喜びする。


 裕太が楽しそうに説明しているが、その内容をタマモは上手く理解できていない。


 某有名チェーン店の朝の定番で、ホットケーキもあるよ! と言われても理解できるわけもないので仕方がないだろう。


 内容が理解できていなくても、目の前の朝食が美味しいことは確信できるのでタマモはそれで構わないと考えている。


 あと、裕太の放った、あ、朝繋がりで牛丼屋さんの朝定食も食べたくなってきたという言葉に、また美味しい物が増えると期待もしている。




 予想通り裕太の用意してくれた朝食は美味しかったとタマモは大満足で尻尾を振る。


 ハンバーガーとなんとかマフィンの違いはあまり分からなかったが、その後に出てきたホットケーキもとても美味しかったのでタマモは気にしない。

 

 タマモが食休みにベル達やフクちゃん達、サクラと戯れていると、コーヒーを飲んでいた裕太が立ち上がった。タマモはそれを見ていよいよだと気合を入れる。


「さて、じゃあ今日も一日頑張ろうか。ベル、悪いけどドリーとノモス、あとラエティティアさんが来ていたらいつもの場所に来るようにお願いしてきて」


「わかったー」


 裕太がベルを伝令に出し、あとは全員で開拓地に向かう。


「タマモ、お願いね」


「クゥ!」


 沢山の木の種が置かれたテーブルの前で、裕太に仕事のお願いをされて気合を入れて返事をする。


 目の前の種をどこにどれだけ植えるのかはタマモの一存に任されている。責任重大だが、森の下級精霊であるタマモにとってとてもやりがいがある仕事だ。


「クゥ!」


 タマモは種を手に持ちふわふわ飛び、ここだというところに種を置く。そうするとベル達がやってきて置いた種を地中に埋めてくれる。


 あとはこれを繰り返すだけ。単純な作業だが、タマモの脳裏には木々が成長し豊かな森になった情景が描かれているのでまったく苦痛には感じていない。


 裕太の為、仲間達の為、豊かな森の為にタマモは今日も一日頑張るのだ。




 ***




「森を造りだしてからタマモの気合が違うよね。なんか頑張り過ぎてない? 大丈夫かな?」


 いつも可愛らしくてモフモフなタマモだけど、最近なんか雰囲気が違う時がある。


 開拓地での作業中の時が多いが、なんと表現すればいいのか……そう、ホノボノな牧場運営ゲームなはずなのに、突如ハードボイルドな劇画風な姿を垣間見せるというかなんというか……可愛らしいタマモが遠くに行ってしまいそうで怖い。


「タマモは森の精霊なんだから、張り切るのは当然でしょ。タマモの心配よりも自分の心配をしたら? ヴィータも体は頑丈なはずなのに、なんで腰が痛くなるのか分からないって首を捻っていたわよ?」


 シルフィの言うとおり、俺はヴィータに心配をかけてしまっている。


 レベルも高いし体も頑丈になっている。運動もしているし農作業的なことも割としている。だから数日農作業をしたくらいで体を痛めるはずはないのだけど、なんか毎日腰が痛くなる。


 おそらく農作業、しかも種を植えるという作業が腰に来るものだと脳に刻み込まれているから、変に腰に力が入って具合が悪くなっているのだと思う。


 分かってはいる。今の俺の腰はビックリするくらい頑丈なんだ。それはサキュバスのお姉さん達相手に証明している。


 だから思い込みをなんとかすれば平気なはずなんだけど、その思い込みをなんとかするのが難しい。


 ……ここ数日毎日作業を頑張っているけど、まだ半分程度しか作業は終わっていない。


 しばらくこの作業を繰り返すのだと思うと、まだ開始して間もないのに腰が痛い気がしてくる。タマモ、あまり急いでないから、できるだけ劇画調にならず可愛いままで居てください。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普段ゆうた視点の感情しかない精霊の気持ちがわかること [気になる点] ドリーは下級精霊に対しても丁寧語使うと思うから『おはようタマモ』は違和感があった。ゆうた混ざってない? 一番最後の『…
[良い点] タマモはセリフがないから、心情とか理解できる回は有り難いですね モフモフが張り切ってる姿を思うと可愛いなぁ
[一言] やべぇタマモ可愛いなw、 何か頭の中で「森精霊の朝は早い」みたいなナレーションが流れたはw、
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