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社畜係長のダンジョンヒャッハー  作者: ジェロニモR


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氾濫

検証と激闘から一夜明けた、月曜日の朝。


いつも通りスーツに身を包み、出社のために市役所近くの交差点を渡ろうとした佐藤は、尋常ではない異変に足を止めた。


「……なんだ、これ?」


【侵略型・ゴブリンダンジョン】が位置するエリア一帯に、黄色の立ち入り禁止テープが張り巡らされ、警察のパトカーと自衛隊の大型トラックがいくつも横付けされている。緊迫した表情の警察官たちが、一般市民を厳重に遠ざけていた。


(ダンジョン近くに入れない……? 一体何が起きてるんだ……)


胸騒ぎを覚えながらも工場へ出社すると、すぐさま全社員を集めた【緊急朝礼】が召集された。


朝礼台に立った工場長は、顔を青ざめさせながらマイクを握る。


「えー、緊急の連絡だ。本日未明、市役所のゴブリンダンジョンにて**【スタンピード(大暴走)】**が発生した。現在、現場の駐屯自衛隊が応戦しているが、ダンジョン内部から溢れ出す魔物の勢いを抑えきれていない状況だ!」


ざわめく社内。佐藤の隣にいた鈴木と田中も顔を見合わせ、怯えた表情を浮かべている。


「すでに自治体から避難指示が発令された。自衛隊本隊へ増援要請を出しているそうだが、到着は早くても午前中いっぱい、最悪夕方までかかる見込みだそうだ。したがって、当工場はただちに全ラインの稼働を停止する。全員、荷物をまとめて速やかに指定の避難所へ帰宅・避難しなさい!」


指示を聞くや否や、社員たちが一斉にざわつきながら避難準備へと動き出す。


「佐藤さん! 早く帰りましょう! ダンジョンからゴブリンが溢れてくるなんてヤバすぎますよ!」


怯える鈴木に、佐藤は力強く首を振った。


「鈴木、田中。お前たちは先に避難所へ行け。俺は……ちょっと確かめたいことがある」


「えっ!? 佐藤さん、何言ってるんですか!?」


二人の制止を振り切り、佐藤は会社を飛び出した。

胸元のポッケをそっと撫でる。


(自衛隊の本隊が来るまで午前中いっぱいかかる……。もし防衛線が突破されたら、この街も、俺たちが丹精込めて作った商品を売ってるスーパーも全部壊滅する)


レベリング中毒? 結構じゃないか。

身体能力24の肉体と覚えたてのスキル、そして進化を遂げた相棒ポッケがいる。

佐藤はロッカーから買ったばかりのメイスを取り出すと、単身、緊迫する現場へと駆け出した。






時を遡り——ダンジョン最深部。


『ククク……無能な姫め。たかだか人間一匹に先鋒部隊を全滅させられたそうだな?』


おどろおどろしい玉座で、巨体を揺らして嘲笑うのは**【ゴブリンキング】**。

その前で地ひれ伏していた**【ゴブリンプリンセス】**は、悔しさに唇を噛み締めながら、前屈みになって直訴した。


『王よ、今一度……今一度チャンスを! あの人間は異常な身体能力を持っています。私に、さらに強力な上位種をお預けください! 必ずや地上を蹂躙し、人間の血でダンジョンを染めてみせます!』


キングはニヤリと醜い口元を歪めると、傍らに控えていた巨漢の魔物を指し示した。


『良いだろう。**【ゴブリンジェネラル】**を授ける。ジェネラル率いる部隊を貴様の先遣隊とし、直ちに全軍で出撃せよ』


『感謝いたします、王よ!』


プリンセスは歓喜し、ジェネラルと共に膨大なゴブリンの群れを率いて地上へと向かった。



——だが、プリンセスは知らなかった。


キングの真の意図を。


(フハハハ……精々、地上で暴れまわるが良い。プリンセスの部隊で人間の防衛戦力を限界まで削り、疲弊しきったところを我が本隊で一気に踏みつぶす。前線で死ぬのは雑兵だけで良い……)


数の暴力を最大の武器とするゴブリンにとって、味方を捨て駒にするなど当然の戦術。

冷酷なキングの計画のもと、悪夢のような大進軍が始まった。





「撃てぇッ! 撃てぇーーーーっ!!」


ダンジョン出口前に構築された土のうの陣地。

自衛隊の小隊長が叫び、小銃が一斉に火を噴く。


タタタタタタタッ!! ガガガガガッ!!


銃弾の雨がダンジョン入口を集中掃射する。

近代兵器の威力はダンジョン内でも有効であり、飛び出してきた通常のゴブリンたちは次々と肉塊に変えられていった。


しかし——。


『ガアアアアッッ!!』


入口から現れたのは、粗末な木製盾を構えた**【ゴブリンウォーリア】を盾陣形にした大集団。さらに、その後方には強靭な肉体を持つ【ホブゴブリン】**の群れが隙間なく押し寄せてくる。


「くそっ、盾で弾丸の威力が殺される! 弾幕を絶やすな!」


さらに、隊列の最前線に立っていたのは、美しい衣装に身を包んだ**【ゴブリンプリンセス】**だった。

『力をっ……!』


プリンセスが杖を掲げると、怪しい光が群れ全体を包み込む。

**【全体身体強化バフ】および【士気向上】**の補助魔法だ。

速度と威力を増したゴブリンアーチャーの矢が放たれ、メイジの火球が自衛隊の陣地に着弾して爆風を巻き起こす。


「うあああッ!?」

「負傷者多数! 衛生兵、急げ!」


自衛隊も果敢に応戦し、確実にダメージを与えていく。しかし——


『キイイイッ!』


後方に控える**【ゴブリンプリースト】**とプリンセス自身が即座に広域回復魔法を行使。削られたゴブリンたちの傷が素早く塞がっていく。


「回復魔法だと!? 攻撃が追いつかない! 一体ずつ頭部を撃ち抜いて確実に殺せ!」


絶え間ない波状攻撃により、自衛隊の防衛ラインはジリジリと後退を余儀なくされた。

そして、致命的な瞬間が訪れる。

前線で指揮を執っていた自衛隊隊長が、突撃してくるゴブリンの群れに集中していたその時。



ズドオンッ!!!


空間を切り裂くような破砕音と共に、圧倒的な巨躯——**【ゴブリンジェネラル】**が【身体強化】スキルを発動。弾丸すら弾く皮膚と超絶的なスピードで土のうを崩し、陣地の渦中へと不意打ちで飛び込んできたのだ!


「なっ……!?」


巨大な大剣の一振りが土のうごと防衛線を破壊。

統制を失った自衛隊の陣形は瞬く間に崩壊し、兵士たちは包囲網の中に閉じ込められてしまった。


『ガハハハハ! 人間どもを逃すな! 喰らい尽くせ!』


包囲された自衛隊兵士たちを尻目に、余った数百体のゴブリンの大群——

プリンセスの先遣隊と、その後ろから着実に押し寄せるキングの本隊が、防衛線を通り抜けて無防備な地上街へと進軍を開始する。

絶望が街を覆おうとしたまさにその時。


重厚なメイスを肩に担ぎ、胸に青いスライムを光らせた一人の男が、溢れ出るゴブリンの群れの前に立ち塞がった。

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