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エピローグ

 冬の冷たさは和らぎ、自分の仕事をやっと思い出したかのように、太陽は強い光を差し始めていた。


 その日は特に案件も少なく、みんな穏やかに事務作業をしていた。ただ一人麗だけがバタバタしていたが、珍しいことではない。


 麗はさっき切ったばかりの携帯電話がまた鳴り始めるのを見ると、ため息をついた。

 

「戸塚さん、ごめん。この件涼矢とペアでお願いしていい?」


麗はいつものスマートさで紙を差し込んでくる。

 

「かしこまりました。」

 

 隣で聞いていたのか、和也が隣から椅子を滑らせてきた。

 

「そういえば涼矢と最近大丈夫か?」

 

「ん…?なんか知ってるんですか?」

 

 和也は少し躊躇う。

 

「いや、この前相談受けたから。」

 

「え?涼矢から!?」

 

 沙優が驚くと和也は苦笑した。

 

 「驚くよな、俺もビックリした。でも、それぐらい心配してたんだろ。」

 

 沙優は目を細める。

 

 「そっか……。じゃあ一応大丈夫になったこと、私から報告しておきます。」

 

 「うぉ、そっかー。良かったわ。にしても涼矢、沙優と付き合うようになってから大分柔らかくなったってみんな言ってるぞ。」

 

 和也が少しにやにやしながら続ける。

 

 「そうなんですね、私は柔らかい涼矢しか知らないからなー。」

 

 沙優が涼しい顔で言う。

 

 「うわ、やられた。惚気るな惚気るな。」

 

 和也は顔をしかめてそう言うとハッと笑った。


 沙優もふっと吹き出す。


「日野さん。」

 

「なんだ?」

 

「涼矢が困ってたら、また相談乗ってあげてくださいね。」

 

 和也は優しい笑顔を一瞬浮かべるが、すぐにニヤッと笑った。

 

「おぅ、愛しの涼ちゃんの悩み事は俺に任せとけ。」

 

 そう和也がふざけていると、涼矢が後ろから来た。

 

「沙優、準備できた?」

 

「うん。」

 

「お!愛しの涼ちゃん登場〜」

 

 和也は気に入ったのかそう言いながら沙優から離れる。

 

 沙優は口を開きかけたが、涼矢が目を細めて

 「誰ですかそれ」と短く突っ込むので思わず笑った。

 

 涼矢は沙優が荷物を持って立ち上がるのを見守ると、和也に伝える。

 

「じゃ、留守番お願いします、かずちゃん。」

 

 涼矢はニコリともせずにそう言うとサッサと出ていった。

 

「おい、誰がかずちゃんだよ。」

 

 和也のツッコむ声は残った沙優にしか届かない。沙優は笑いながら部屋を出た。




「なんか、嬉しそうだね。日野さん。」

 

 沙優はそう言うと、涼矢もやっとふっと笑う。

 

「あの人も優しいよな。俺に構ってくれんだから。」

 

「日野さん、心配してくれてたよ。」

 

 涼矢は少し驚いた顔をする。

 

「なんだ、内緒にしてって言ったのに。」

 

 でも怒ってはいない。むしろ優しい声だった。

 

「何を相談したかまでは聞いてないから。」

 

 涼矢は急にふっと笑う。

 

「それは沙優が聞かなかったからでしょ。あの人は多分、内緒にしてって言っても必要だって感じたら言うと思う。」

 

 沙優も笑った。

 

「確かに、それが日野さんの優しさだね。」

 

 涼矢は微笑んで頷く。

 

「だから相談したくなったのかも。」

 

 沙優も微笑む。

 

「なんか……でも……そこまで考えさせちゃってごめんね?」

 

 涼矢は急に立ち止まる。

 

「え?」

 

「沙優、それはもう謝らない約束でしょ。」

 

「あ、そっか。確かに。」

 

「でもいい機会だから言うけど。俺……あんなこと言っちゃったけど、珠樹と話したいことあれば話していいからな?」

 

「ううん。珠樹と私は、本当にもう関わらない方がいいと思ってたから。絵里も私も珠樹も、みんな涼矢が救った。」

 

 涼矢がまた納得していなそうな、いつもの顔をする。

 

「絵里も珠樹ももっと涼矢に感謝するべきだよ。一生尽くしてもいいぐらい。」

 

 沙優が笑うと、涼矢もやっと笑う。

 

「あの二人に尽くされても困るから、沙優にその分尽くしてもらうわ。」

 

 涼矢はそう悪戯っぽく笑うと、沙優の頭をぽんと叩いてスッと歩き出した。

 

「あ、ちょっ……」

 

 走る沙優が隣に並ぶのを、涼矢は優しい笑顔で見る。沙優もふわっと笑顔になる。

 

「あーあ、いい天気だな〜遊びに行きたい。」

 

 沙優は切り替えるように大声を出す。

 

「仕事終わったら散歩でもするか?」

 

「する!!よし!早く終わらせよー!」

 

 沙優がそう言うと、涼矢が愛しそうに微笑んだ。

 

「好きだよ、涼矢。」

 

「俺も。」

 

 涼矢と確かめ合うように見つめ合うと、肩を並べて一緒に歩く。涼矢の歩調も自然と合う。


「仕事中なのにね。」


 沙優はなんとなく恥ずかしくなって笑う。

 

「それだけ好きなんじゃないかな。」

 

 涼矢がそう言って目を細める。

 

 沙優は幸せを噛み締めながら頷く。


 春の風が2人の髪を優しく揺らした。

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