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ナンバリング  作者: 桜音 寿
コロニー編
9/17

第4コロニーと強引なペア選び

 トラック型の宇宙船には、仮眠室や男女別のロッカー室、シャワー室も完備されていた。

 アストロ・エクスプレスの財力がふんだんに使われている。

 改めて凄い会社に就職したもんだと、ネッドはそのすべてを見回った。


(ただこのパイロットスーツ。恥ずかしい……)


 パイロットスーツに着替えたネッド。自分の体にピッタリと張りつくようなスーツは、すべすべとして肌触りがいい。

 しかし、宇宙へ飛び出すことへの高揚とした気分は沈んだ。自分の貧弱な体を強調していたからだ。

 ヤスとコウガは言わずもがな逞しい体つき。リーは小柄ながら筋肉がついている。

 3人の体つきを目の当たりにしたネッドは腕をさすり、いそいそとヘルメットを持って運転席へ急いだ。

 操縦室は2列3席、収容人数は6人だが、そこそこ広い。


「ネッド。お前は隣だ」


 今回の運転手はコウガだった。真ん中の運転席の右隣はヤス。ネッドは左に座った。

 後ろの席では、何故かリーがむくれている。


「ネッドだけずるい。私もコウガの隣がいい」


 よくわからない流れ弾がネッドに当たった。

 またリーの癇癪(かんしゃく)みたいなのが始まったと、シートベルトをしながらネッドは思った。


「リー。ネッドは初めてなんだから、学ばなならんだろう。それにネッドはコウガの相棒。コウガの補助をするのは当たり前だ」


 ヤスが呆れ、リーは納得できない様子だった。

 公私混同もいいところだ。

 リーが慕っているコウガは、我関せずで作業を進めている。

 スルースキルの高さがえげつない。ネッドはリーが少し可哀想になってきた。


「ネッド、これがエンジンのボタンだ。足元にブレーキとアクセル。構造は普通のトラックと同じだ。ただ違うのはワープがあることだ。ここのボタン」


 コウガはハンドルの向こう側、タッチパネルになった画面上の緑のボタンを指した。


「今回は俺が運転する。ネッドはそこの座標モニターで目的地の確認と周囲の警戒をしろ。第四コロニーは特殊な場所で、中立国の重要なコロニーだ」


 ネッドの喉がゴクリなる。初のコロニー間の配送先が重要なコロニーへ行くなんて、荷が重く感じる。


「そう緊張しなさんな。回数を重ねれば慣れていく」


 ネッドの緊張を感じ取ったのか、ヤスは懐かしいといった表情だ。


「コウガやリーも最初はそうだった。コウガなんぞ、座標を間違え新世界の領域にワープしたり、初運転の時にはハンドルを折っていたぞ。リーは発進時に加速し過ぎて出入り口のシャッターに激突していた」


 ヤスにはおもしろかったのか、目には涙が浮かせながら笑っている。


『やっさん、それは言わないお約束だろ(でしょ)!!』


 ヤスの前ではコウガすら子供同然で、ネッドは小さな笑いがでてしまった。

 ヤスの話でネッドの緊張もほぐれてきた。


「行くぞ」


 頬をほのかに赤くしたコウガは、管制室と通信し始めた。


「アストロ・エクスプレス。発進準備に入る」

『了解』


 管制官の声と同時に、コウガはタッチパネルの横にあるエンジンボタンを押す。

 宇宙船は何かに捕まれるような振動と共に、ネッドの足元から低い振動音が聞こえ、船内の空気を揺らした。

 フロントガラス左下部に3つの小窓表示が現れ、そこには後方と上部、左側の様子が映し出される。

 宇宙船がクレーンで掴まれ移動させられている様子が、上部カメラから送られてきていた。

 ネッドの前にある半球体の座標モニターも赤く光り始める。

 半球体に縦横の十字線。現在地は線が交わる中心にあった。

 補佐とは確認事項が多いようだ。ネッドは気を引き締める。

 少しの揺れとガコンと音がすると、船が停止した。

 後方カメラではシャッターが降り、並んでいる船が見えなくなっていくのが映し出されている。


「ネッド。そこに第4コロニーの座標を入れろ。間違うなよ」


 コウガは昔の失敗で苦い思いをしたのだろう。もし間違えたら……とんでもない事になるぞと、言っているような目だ。

 そんなコウガに横目で見られ、ネッドは足元から震えが上がってきた。

 ネッドはタブレットに表示されている座標をタッチパネルの座標モニターに入力した。


「えっと、4325.33。入れました」


 震える指で入力された座標。半球体の中心から上部に小さな点と第4コロニーが表示される。

 縮小されコロニー間の距離は、そんなに離れているように見えないが、数字上では第4コロニーの位置はかなり離れた所にある。

 航路にはワープ座標もあった。初めてのワープにネッドの胸が高まる。


『無重力状態に移行』

「ネッド。無重力ボタン」


 コウガの指示で、座標モニターの横にある2つある四角いボタンの内、無重力と書かれたを押す。

 ふわっと、椅子から体が少し浮き上がり、ネッドはとんでもない所へ流れていくヘルメットを急いで回収し被った。

 シートベルトで体はその場にとどまっているが、足がふわりと浮いてちょっと面白い。

 水の中にいるような感じだ。


「ネッド。重力ボタンを押せ」


 今度は重力と書かれたボタンを押すと、グンと体が下に押される感覚がした。

 他の3人は慣れているようで、ヘルメットを被り平然としている。


「そのボタンで車内の重力の操作する。覚えておけ。無重力の方は降車時に使うからな」

「はい」


 ネッドが頷いたのを確認したコウガは、管制官に通信する。


「発信する」

『了解』


 コウガの号令で目の前のシャッターが上へと開き始めた。

 どんどんと上がっていくシャツターの向こうには、真っ暗な空間。遠くで輝く星がちらちらと見え始める。

 シャッターが完全に上がり、コウガがハンドルの前のタッチパネルでドライブモードに切り替え、アクセルを踏む。

 後方のカメラの映像にはエンジンが点火した青い光。

 緩やかに前進する船、少ししか感じない発進時の衝撃がコウガの丁寧な運転技術を物語っている。


 第三コロニーから出発し、加速した船はそのままどんどん進んで行った。

 後方モニターには円柱型の巨大な第3コロニーが、小さくなっていく。

 発進してまもなく後ろではリーがスナック菓子を食べ始め、ヤスものんびりと煙草を吸っている。

 二人ともバイザーを上げ、器用にこなしていた。

 バリバリとスナック菓子の音、スッキリとしたメンソールがほのかに漂う空間、自由だなとネッドは思ったがコロニー内の配達時より穏やかである。


「ネッド。ワープ座標までモニターをこまめにチェックしていろ。巡回している警備船が近くに居たら、ワープに巻き込んでしまう」

「は、はい」


 座標モニターにはワープ座標と目的地の他に、警備船であろう黒い点と小さく登録番号が表示されている。

 ワープとは便利な反面、危険も伴う機能だと、ネットは脳に叩き込んだ。


 暗闇と常に輝いている星の海を進むと、巡回している警備船が近づきた。

 警備船は何かを確認したのか、しばし停止してから去っていった。

 何だったのだろうと首を傾げたネッドに「船の所属確認だ」とコウガに説明され、なるほどと納得した。

 アストロ・エクスプレスのオレンジは目立つ。

 巡回している中立国軍の船に自分たちの存在を主張するためだろう。

 しばらくするとワープ座標の近くになってきた。

 だいたい5キロぐらいだろうか、ここまで無事に来たとネッドは胸を撫でおろした。

 隣では後ろを振り向いたコウガが、リーを見て眉を潜める。

 その視線につられるようにネッドも目を向けると――リーは完全にリラックスしていた。

 その姿はワープ前なのに緊張感がなく、足を伸ばし、自分の部屋でくつろいでいるようだ。


「リー、ワープの準備をしろ。バイザーを下しておけ」

「あいよー」

「ネッド。ワープに入る間際、Gがかかる。気をつけろ」


 ネッドは勢いよく何度も頷く。


「ワープに入る」


 コウガはタッチパネルのワープボタンを押す。

 徐々に加速し、もともと速い船の速度がどんどん速くなる。

 一瞬、グッと重い力がかかった。

 ネッドの体が背もたれにぐっと押さえつけられ、遠くで輝く星が尾を引いたように見えた。

 瞬く間にワープが終わり、ネッドの目に入ってきたのは球体のコロニーを中心にして、そこから伸びた管で繋がっている3つの円柱型コロニーで構成された巨大なコロニーだった。




 宇宙船は第四コロニーの球体部分である、中央コロニー搬入口の前に着いた。

 入口に設置された多数のカメラがせわしなく動いている。


『登録ナンバーをお願いします』


 管制官の声だ。


「1586」


 そうコウガが答えると、前方のシャッターが上がる。

 そのままゆっくり中に入ると、四角い土台の上に停止した船がワイプに映っている。

 土台についていた爪のような装置が船を固定し、ゆっくりと反転していった。


『コンテナを外します。そのまま待機で』

「了解」


 コウガの返事をした後、ふわふわと浮いたドローンたちと別のクレーンが現れ、コンテナを掴んだ。

 コンテナと船を固定しているボルトをドローン達が外していく。

 大きな船の部品だ。固定しているボルトも大きい。ドローン達が両手で持つほどだ。

 人類統一国、中立国ではドローンと共存していると言っても過言ではないなと、ネッドはドローン達に愛着が湧いてきた。

 小さな揺れと共に、コンテナが外された。

 むき出しの土台が見えたと思ったら、今度は突起が付いた移動用のレールが船に隣接してきた。


「ネッド。無重力にしろ」


 コウガの指示で今度は無重力のボタンを押す。

 ふわりと浮く感覚と同時にコウガとヤスは、シートベルトを外し始めた。

 ネッドもシートベルトを外すと、体が反転し、天井まで浮き上がってしまう。

 慣れない無重力に慌てたネッドは、タブレットを手放してしまった。


「あわわわ。助けてください」


 手足をバタバタと動かしたが、体が回るだけで無意味だった。

 背中が天井に張り付けられ、罪人のように恰好になり、なすすべがない。

 タブレットを回収したコウガ、ヤスとリーは周りの物に捕まり、その場で浮いている。

 皆、ネッドを物珍し気に仰いでいた。


「アハハ。だっさ」


 よほど不格好に見えたのだろう。リーが大笑いしている。


(恥ずかしい。でも無重力なんて慣れていないんだから、しょうがないじゃないか)


 心の中で悪態をついていると、リーが近づいてきた。


「しゃーない。私が助けてあげよう」


 リーはネッドの腰に腕を回し、天井を蹴って降ろしてくれた。

 そのまま背もたれを掴み、上手くバランスをとっている。


「ありがとうございます」

「私を敬えたまえ」


 透明なバイザー越しに見えるリーは得意げな表情だ。

 当分、リーには頭が上がらないだろう。


「リー。そのままネッドを誘導しろ」

「しゃーない。コウガの頼みならやってあげるよ」

「ネッド。リーの言うこと聞いて、移動しろ」


 コウガはドアを開けてレールの突起に掴まると、そのまま流れるように移動していった。


「無重力にもそのうち慣れるだろう。また後でな」


 ヤスもコウガと同じように、ネッドの視界から消えていく。


「ネッド。行くよー。しっかり捕まっていて」


 リーもネッドを抱えたまま、反対側のドアを開け、外へ飛び出した。


「ネッド。そこのハンドルバーに掴まって」


 突起に見えていたのは掴まる為のものだった。

 等間隔に付いているハンドルバーは、レールの中にある細いキャタピラと連結している。

 ネッドはリーに言われるがまま、ハンドルを握りしめた。


「そのまま掴んでいて」


 ネッドを支えているリーがハンドルバーを掴んだ瞬間、キャタピラが動き始めた。

 振り落とされるまでもいかないが、そこそこ速い。

 生身で感じる速度にネッドは、幼いころに父と乗った子供用のジェットコースターを思い出させた。

 背中からリーの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


 船着き場の開け放たれた自動扉を過ぎ、1人分程の狭い廊下を進む。

 レールの終着地点は、所々薄汚れたネズミ色の壁に囲まれたホールだった。

 ホールは待合室になっているようで、手すりが壁伝いに設置されていた。

 その手すりを掴んで浮いているコウガとヤスが居る。

 ネッドとリーが待合室に到着すると、通過してきた廊下と待合室の自動扉が閉まった。

 リーはネッドを支えながら、コウガ達と同じように手すり掴む。


「ネッド。気を付けて。重力と空気が部屋に効き始める」


 リーはそう言いながら、視線を自動ドアの上にある赤のランプに向けた。

 ランプが赤からが緑に変わった同時に、重力でゆっくりと床に足がつく。

 ネッドはほっとした。地球で育ったネッドには、無重力は慣れない感覚であった。

 重力は偉大であるとネッドは思いながら、待っている2人に近づいて行く。

 リーはヤスに走り寄って行った。彼女の表情は、親に甘えるように見えた。


「おっ、無事に着いたな。リー、お疲れ」


 手を軽く上げたヤスに、リーはハイタッチ。

 2人の姿はまるで親子のようだ。

 その様子を見たコウガはバイザーを上げ、タブレットをスワイプし始めた。


「ここからは二手に別れるぞ。今回は配達エリアが広い。支店の手伝いも兼ねているからな」

「おう。いつも通りのペアでいいのか?」

「私、コウガと組みたい!!」


 タブレットを見ながら相談をしていたコウガとヤスは、リーの発言に目を丸くした。


「なに言ってんだ? ペアは非能力者とナンバリングが決まりだろう。ナンバリング同士は無理だろうが、規則違反だ」


 ヤスは呆れたようにリーを見るが、彼女は頬を膨らませている。


「このコロニーは安全だし。別にいいじゃん」


 拗ねたリー。

 ネッドは彼女のコウガ大好き病が始まったと思った。

 リーがコウガを好きなのは分かるが、今回も無理ではないかと、ネッドは3人を見ているだけにとどめた。

「触らぬ神に祟りなし」という古い言葉がある。

 もうリーの流れ弾に当たりたくない。

 そう思ったネッドは口を噤むことを選択したのだ。

 やいやいと騒がしいリーに、コウガが大きなため息をついた。


「わかった。やっさん、すまないがネッドと組んでくれ」

「しょうがないな。リー、わがままは今回だけだからな」


 コウガのあきらめた様子に、ヤスは心配そうにしている。

 反対にリーは目を輝かせ、「やった」と小さくガッツポーズをしている。

 地団駄を踏んでいたリーに、コウガは根負けしたのだろう。

 こうしてネッドとヤス、コウガとリーのペアが強引にできた。


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