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「……あぁ、ようやく分かった。父上にとってデュークが扇動した奴らは自らの命を脅かす逆賊だから殺すしかなかったが、俺にとっては第二王子の味方でしかない」
「えぇ。そういうことです」
そう、これは案外単純な話なのだ。
デュークにとってノアは、おまけで殺しておく王族でしかない。生きていたら王国再興の礎となる可能性があるから、念のため殺さないといけない相手だ。
しかしノアにとってのデュークは、ただの王位継承権を争う相手である。――ならば宣言してしまえばいい。「俺が勝ったから王国はこのままだ」、と。
反発もあるだろう。つい先程まで殺し合っていた相手と、また仲良くしろと上から言われて、素直に手を取れるだろうか。
だが、それを言ってしまえば、今殺し合っている相手も、昨日までは同じ釜の飯を食う同僚だったはずだ。たった一夜殺し合っただけで、それまでの関係が失われるはずがない。
「私の勘ですが、帝国を再興したいなんて本当に考える騎士も貴族も官僚も、きっとそこまで多くないんですよね。彼らは大義がそちらにあると思ったから、デュークの呼びかけに応じただけです。300年前の恨みなんて、100年も生きられない私たちが持ってるはずありませんからね」
「元も子もないことを……」
「というかデュークも本気なのか? 言っちゃ悪いが……リオノーラの子だぞ?」
セドリックの疑問に、ずっと黙っていたマイルズを含めて、三人の苦笑が漏れる。
確かにリオノーラの子に、帝国への愛着とか全くなさそうだ。馬鹿に育たなかっただけ偉いのに、そんな大望を抱えるだろうか? どこかに変なブレーンが居そうだな。
「まぁ、確かにただの口実かもしれませんね」
「ただの口実であそこまでの口上を考えて大勢を扇動するとはな……」
「ノア様にはないタイプの才能でしょうね」
「お前それ暗に俺のこと才能ないって馬鹿にしてないか?」
「え、ノア様才能あるじゃないですか」
「あぁ、あるな」
「え?」
セドリックも同意してくれた。やっぱ分かるよね。元とはいえ私の婚約者だし。
「俺は彼女に最後まで好かれることはなかったし、正直今でもだいぶ苦手だが――お前は好かれてるじゃないか。それが才能じゃなくて何なんだ。ちょっと前まで昔の俺に似てると思ってたが、やっぱり全然違うんだよなぁ、何が違ったんだ? 環境か? 顔か? ……顔のレベルは同じくらいだよな?」
「知りません。私に同意求めないで下さい。周りに変な女が居なかったからじゃないですか」
「それかぁー……」
セドリックは苦笑気味に頭を抱えた。セドリックの周りに居た変な女を指す相手は二人ほど居るが――まぁ、どちらのことかは置いておこう。
「…………待て、本当か?」
「私が嫌でここまで来たと思います?」
この人本当に鈍感ですね。私が言うのも何ですけど、私がここまで個人に執着したことってこれまでないんですよね。
「あ、いや、お前は復讐するのが目的だと思ってたんだが」
「前言いませんでしたっけ? 殺すだけなら、こっそり殺せば終わりなんです。そうじゃなくて、出来るだけ不幸になって貰いたいんですよ」
「だが、その、何だ。拷問とかするのか? 死にたいって言わせるとか、そういうことか?」
「違います。――『あなたの大嫌いなアシュリーは、生き返って幸福を掴みましたよ』なんてあの女に言ったら、どんな反応するでしょうねぇ?」
困惑するノアの代わりに、セドリックが耐えきれず吹き出した。マイルズも口元を抑えて震えている。流石にここまで話せば、マイルズにも私の正体が分かったことだろう。
「リオノーラ、めっっっっちゃ悔しがるだろうなぁー……」
「あとは男一人も居ないとこに閉じ込めておいて生涯そこで質素に暮らして欲しいですね。たぶん死ぬまで私のこと恨み続けてくれるでしょうし、それを想像しただけで割とすっきりします。直接的な暴力は一時のストレス発散にしかなりませんが、私から何もしなくとも勝手に苦しんでくれるんです。最高じゃあないですか」
「…………メイベルお前、性格悪いな」
「何を言いますか。リオノーラ様の方が悪いでしょう」
「そ、そうかぁ……?」
「どっちもどっちだと思うがなぁ……」
「セドリック様もそう思ってたんですか?」
「いや俺はどっちかというとリオノーラよりアシュリーのが怖いと思ってたが……今でも割と……」
「えっ酷っ」
「だってリオノーラ、顔見れば何考えてるのか分かるんだよ。欲しいものがあったら言うし、不満がある時も顔見りゃ分かるし、良くも悪くも全部口に出すんだ。でもアシュリー、違っただろ。いっつも怒ってるし何考えてんのか全然分からないし、何したいのか言わないし、誕生日何欲しいのって聞いても何でも良いですよとか答えるし」
「別に怒ってませんでしたが」
失望くらいはしてたかもしれないけど。
セドリックの言葉に、うんうんとノアが同意する。ちょっとこの親子私に厳しくない? あと私の誕生日って王国の独立記念日に近いから、変なもの用意させるのは難しいかなって何でも良いって答えただけなんですけど。
決してプレゼントを要らないと思ってたわけじゃなくて、今準備出来る限りのものを考えて渡してくれればそれだけで喜ぶつもりだったんですよ。
――あぁ、私のこういうところが嫌いだったんでしょうね、セドリックもリオノーラも。今になってようやく分かりますよ、自分の嫌なところがね。
「……そういえば前言われたな」
ノアは溜息を吐きながら、遠い目をして言った。
「そうでしたっけ? ……あれ、でもそれ、ウィリアムのお墓に供える物の話じゃなかったですか? そんなの何だって良いですよ。私だって面識ありませんし、死産なんだから好きなものとかあるわけないですし」
「いやそれでも……情緒ってもんがあるだろ……」
「情緒じゃお腹は膨れませんよ」
「「「…………」」」
なんで三人とも黙っちゃうの。私だけが変みたいじゃない。私もお父様も、適当にパンとかお肉添えてたくらいよ。それも翌日には食べるし。
「近寄りがたい雰囲気は、ありましたね」
マイルズまで……。っていうか皆頷かないで……。
「……でもメイベルとしての仕事中はコロコロ表情変わってたよな。あれは素なのか? 俺と二人の時はいつも無表情だよな」
「えっ、いえ。素はどっちかと言うと騎士してる時のです。つまり今みたいな感じです。女社会って仏頂面で黙々と仕事してる人、仕事出来ても出来なくても嫌われるんで、それなりに愛嬌ある演技しないとやってけないんですよ。王太子様の寵愛受けてるなんて根も葉もない噂もありましたし」
「「「根も葉もない……?」」」
「いやなんですかその反応。なんかしてると思ってたんですか」
「……だってマイルズ、なぁ?」
「えぇ。王位継承者が子爵家の令嬢を正妻としたことが過去一度もなく、頭を抱えたりしましたな……」
「一番下で侯爵家だもんなぁ……周りをどうやって説得させんのかとか話したよなぁ」
「話しましたなぁ……」
「……あのー?」
なんか思ったより真面目に考えられてたみたい。
いやそりゃあ王太子がいっつも部屋に連れ込んでるメイドが下級とはいえ貴族令嬢だったらそこまで考えられてもおかしくないけど、普通は側室でしょうに。なんで正妻にする前提なんですか。頭ノア様なんですかこの二人。
「そこはほら、メイベルのお父上は元近衛騎士団長だから、王都に呼び戻して公爵あたりに陞爵させれば通ると思ってたんだが」
「陞爵は理由がないと厳しくないか? 国民の理解が得られる理由付けがないと、気に入った身内の爵位だけ上げる暴君と思われても仕方ないぞ」
クーデターで王殺した暴君がそれ言いますか。
「今回の反乱を鎮圧した、――のような功績があっても、上げられて伯爵でしょうか。……一応聞いておきますが、参加されてますか?」
「いえ、今頃は実家で麦作ってると思いますよ。丁度収穫時期なんで人手が足りないんですよね。王都から遠すぎて、デュークから声もかかってないはずです」
「「…………」」「元近衛騎士団長が農業って……」
「いや誰のせいでそうなったと思ってんですか」
「それは本当に悪かった……」
セドリックが素で頭を下げると、流されかけていたマイルズが慌てて背中を叩いて姿勢を正させる。王がこんなところで臣下に頭を下げてはいけないのだ。いや今更な気がするけどね。
「それにノア様の言っていた騎士団長に戻すって計画、父は受けないと思いますよ。流石に今の父じゃ団長は荷が重いですし、一騎士に戻るくらいでも――まぁ断りそうですね」
「えっ」
「収穫の時期でもトレーニングは欠かさないですし、元近衛の臣下といつも手合わせしてますが、流石に現役騎士ほどは動けません。指導員としてなら今のままで十分でしょうけど、近衛は流石に荷が重いかと」
「……じゃあどうするんだ。メイベルお前、代わりに騎士団長やるか?」
「嫌です」
「…………」
「だから正妻を他に見つけてくださいって前から言ってるじゃないですか。私、子供とか心底興味ないですし」
古傷を抉ってしまったか、セドリックが頭を抱えて「あー…………」とぼやいた。
そういえば昔は初夜すら断ったのよね、その時も同じようなことを言って断った記憶がある。そりゃあ嫁入りしたら子供くらい作らないといけないのは分かってたけど、あの頃は王妃じゃなくてまだ婚約者だったし。
「頭空っぽな――そうですね、リオノーラ様みたいな令嬢を見繕って正妻にして頂ければ、私がそれサポートしますんで、万事解決ですね。なんなら別に、メイドのまま妾でも良いですよ。側室である必要性も特に感じませんので」
「待てアシュリー! お前今の王宮の二の舞にするつもりか!?」
がたんと立ち上がったセドリックが、目の色を変える。
「えっ、なりませんって。バイロン居ないじゃないですか」
「バイロンのポジションにお前が就くことになるんだよ……ッ!」
「あー…………確かに言われてみると対外的にはそう見えるか……」
「「「…………」」」
三人が顔を見合わせ、溜息を吐いた。




