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「ねぇあなた、どこの出身なの?」
「随分と遠いですよ。王国の北の果て――グローデスト地方のあたりです」
「あら、そうなるとあなた、地方貴族だったの?」
「はい。……お気に障りましたか?」
「いいえ、わたしは別にどこの貴族かとかは気にしないんだけど、お父様がね、地方貴族が本当に嫌いなみたいで」
「……それは、」
ウィリアムの腕枕を堪能しながら天蓋を見つめていた王妃リオノーラは、大きな溜息を吐いた。
「最近はあんまりうるさいこと言われないんだけど、昔は地方貴族を離宮に入れるだけで大騒ぎしてたの。メイドも執事も、全員王都出身じゃないと駄目だって言うのよ? おかしいと思わない?」
「……奥様のお父様に、何かあったのでしょうか。申し訳ございません、不勉強で」
「あなたが生まれるより前の話でしょうから、知らないのも無理ないわね。……セドリックの婚約者って、昔は地方出身の公爵令嬢だったのよ。お父様、その子にこっぴどくやられちゃったみたいで、死んでからもずっと恨んでたの」
「……それは、災難でしたね」
どちらに向けた言葉かは濁し、ウィリアムは同情の色を見せる。
「実はわたしも、その子には貴族学校で会ってたのよ? 当時は話したことなかったんだけど、噂はよく聞いたわ」
「そうだったのですか?」
「うん、わたしってほら、勉強とか苦手だし、社交界は好きだからよく出てたんだけど、その子はもーっ、真逆。勉強ばっかで社交界には全然出て来なかったの」
意外そうな顔をしたウィリアムだが、意外に思ったのは過去リオノーラに会っていた、という部分である。正直なところ、全く記憶にない。
「可愛らしさの欠片もない子でね。セドリックの婚約者に決まってからは王宮に住んでたみたいなんだけど、そこでも色々やってたみたいで。あ、ほらあなた、『血濡れの吸血姫』って小説知らない?」
「……随分昔に読んだ記憶はありますが、その、何といえば良いのでしょう。モチーフにされた人物が存在することを、最近までは知りませんでした。……あんな方が、居たのですね」
「そうなの。もう大体そんな感じ。女だてらに政治に口挟むし、数字見るのだけは得意でお父様の裏帳簿とかすぐ見つけちゃうしで、もう当時は大騒ぎだったらしいわよ?」
こっそり皮肉を重ねて答えたが、リオノーラはそんなこと気にする様子もなく――というより自分のこととは思っていないであろう――言葉を続ける。
「女はね、可愛ければ良いの。難しいこと考えるのも身体を動かすのも、全部男がやるべきなのよ。あなたもそう思わない?」
「ふふ、そうですね、身も心も全てお任せして頂けると、嬉しいです」
髪を撫で、そう甘い声で囁いた。
リオノーラはしばらくむずがゆそうに身体を捩っていたが、しばらくしたら落ち着いたのか再び話し出す。
「あなたも、ツクヨミみたいに勉強は苦手なタイプ?」
「そう、ですね。昔から身体を動かすことばかりしていたので」
「……ならそんなに上手いのは、地方出身だからかしら?」
頬を赤らめそう問われ、ウィリアムは微笑みながら答える。
「そうですね、娯楽はあまり、ありませんでしたから」
「……そう」
まるで乙女のような目を向けられ、ウィリアムは感情を押し殺し笑顔を返した。
「――ここは、華やかですね。物も、人も、なんでも揃って」
「えぇ、そうなの。私。ずっとここで生きたいわ」
「王宮には戻らないのですか?」
「あっちは息苦しいのよ。みんないっつも難しい顔して。あなたは、どう思った?」
「そうですね……」
ただでさえ広い、一人では掃除するのも大変なノアの居室――の数倍広いリオノーラの寝室に目をやり、わざとらしく小さく溜息を吐いた。
「どれがどのくらい高いものか分からないので、手を触れるのが少し怖いですね」
「ふふふ、私の部屋にあるものは、壊しても怒らないわよ。その代わり――ね?」
「はい。いい夢を、――見せてあげますよ、奥様」
――今日も離宮に、嬌声が響き渡る。




