もう一つのエピローグ
――ガチャ。
私は逸る気持ちを抑えて、家の扉を開いた。
すると、幾つもの見知らぬ靴が玄関に並べられている。
リビングからは、ガヤガヤと賑やかな声。
(へっ? お客さん? こんなこと滅多にないのに……しかも、何で今日?)
私は首を傾げながら、リビングに向かった。
恐る恐る扉を開く私。
「ただいま……」
すると、あり得ない光景が目に飛び込んできて、私は息を呑む。
「⁉」
(コ、コスプレパーティー? そんな物がなぜ……我が家で開催されてるのよ!)
頭に大きな疑問符を浮かべていると、緑色の髪の超絶イケメンが声を上げる。
「おっ! 里子の娘か?」
緑イケメンに続いて、白王子という表現がピッタリのこれまたイケメンがニッコリ笑う。
「おや! これは随分と可愛らしい娘さんですね! お帰りなさい!」
そして今度は、ゴスロリ美少女とフワフワした美少年が口を開く。
「お邪魔しています」
「こんばんは! お姉さん!」
この異常な自体に、私はあんぐりと口を開けたまま固まった。
(な、何だ! このキラッキラッした人たちは!)
そこに母さんの叱咤が飛んで来る。
「ちょっと! 何、固まってるの! 母さんの大切な仲間にちゃんと挨拶してよ!」
「えっ? あ、ああ。ど、どうも……娘です」
私はしどろもどろになりながら、一応お辞儀をする。
(仲間……だと? 母さんってば……一体いつ、こんなコスプレイヤーと知り合ったんだよ! アンタ、いつも家でゴロゴロしてるじゃん! 外出なんてスーパーくらいじゃん!)
心の中で母さんに悪態を吐きつつ、私が頭を上げると、目の前に緑イケメンが立っていた。
(うおっ! ま、眩しい! 緑が目にしみるっ!)
その緑イケメンは、ニカッと白い歯を見せて笑い、自慢げに言い放つ。
「里子の娘よ! 里子の癌はワシが癒やしたぞ。だから安心するといい」
「へっ?」
突拍子もない話の展開に、私は目を丸くした。
(癌……? 癒やすって何?)
「ちょっと! ウザゴン! アンタはいきなり過ぎるのよ! ほら! また固まっちゃったじゃない!」
「そうですよ! 貴方は順序よく説明することが出来ないのですか? まったく、娘さんが不憫です」
ゴスロリ美少女と白王子が、一斉に緑イケメンを責め立てた。
「はいはい。皆さん、落ち着いて!」
そこに母さんが仲裁に入り皆を鎮めると、私に向き直る。
「あのね。今日の検査結果で……初期の癌が見つかったのよ。だけどね。あーら不思議! ドラゴンの魔力で治して貰っちゃった!」
「…………」
私は何も答えず、母さんの続きを待つ。
――が、ずーっとドヤ顔の母さん。
彼女は、一向に喋る様子を見せない。
「母さん。もしかして説明……それだけで終わり?」
「うん」
母さんは、元気よく頷いた。
私は「はぁー」と大きな溜息を吐く。
(訳が分からん)
大体この人は少し雑で、親の癖に子供みたいな所があるのだ。
私は時々「この人の保護者です。すみません」という気持ちになる時がある。
しかし、母さんは「反面教師だよ! 現にアンタ、しっかり者の良い娘に育ったじゃん! 周りからメッチャ褒められてるじゃん!」と笑う。
(この大雑把人間め!)
それにしても……今回は非常に始末が悪い。
私はさっきの電話の様子からして、検査結果がきっと悪かったのだと予想した。
それで気を利かせて手土産片手に、急いで帰ってきたのだ。
(で? 予想通り、やっぱり悪い結果――癌だったと。だがしかし……癌はもう治ったと。その理由が……言うに事欠いて、ドラゴンの魔力で治っちゃっただと? 一体、何じゃそりゃ!)
心配して帰ってきた娘に対して、意味不明で言葉足らずにもほどがある。
(この母は私にケンカを売っているのか!)
私が怒りで拳を握り締めていると、美少年がその手をそっと握った。
「ごめんね、お姉さん。ビックリしてるよね?」
私の顔を、心配そうに覗き込む美少年。
その仕草は、乙女ゲームから飛び出した可愛い弟系キャラだ。
(な、何だ? この生き物は? 同じ人間か?)
キラッキラッし過ぎで、直視出来ない。美少年に握られた手がジットリ汗で濡れてくる。
こんな時なのに悶絶しそうだ。
(いけない。いけない。母さんのことに集中しないと!)
私が一生懸命、心の軌道修正していると――白王子がそこに加わる。こっちは私の頭を、優しく撫でやがった。
(私を悶死させる気か?)
白王子は、響きのいい甘い声で「ごめんなさいね。実は……」と親切、丁寧に事の経緯を説明してくれた。
――してくれたのだが……。
母さんが緑イケメンの所為で異世界に行って、そこで大活躍をして英雄になっただの……緑イケメンと白王子の本当の正体はドラゴンだの……ゴスロリ美少女と乙ゲー美少年が未来の人間だの……。
オマケに、ドラゴンの魔力で癌が治ったから、これから未来に行くだの……。
正直、あり得ないことばかりで、最後はもうどうでもよくなった。
とりあえず……結論。
何であれ、母さんの病気が治ったならばそれでいい。
大金を請求された訳でもないし、変な宗教でもなさそうだし……何と言っても、綺麗どころばかりで目の保養になる。
なんなら、私もお仲間に入りたいものだ。
(ん? そうだ! 私も未来にお供しよう! 私……有給休暇残ってたよな?)
私は心を躍らせた。
癪に障るが、こういう臨機応変な私の性格は、母親譲りなのである。
いや、父さんも同じようなものだ。
きっと奴は、このキラッキラッたちを見たら、年甲斐もなく大はしゃぎをする。そりゃもう、ウザイほど……。
そして奴は「いいさ。いいさ。未来に行って、出無精を治して来るがいいさ。そんで視野を存分に広げなさいよ。俺は……俺はさ! 仕事、休めないからさっ! 畜生!」と、母さんを泣く泣く送り出すことだろう。かなりいじけながら。
正直、かなりのかまってちゃんで面倒臭い男である。
(ああ、ウチの家族は揃いも揃ってということ……だな)
そう判断を下した私は、早速キラッキラッたちに向かってニッコリ笑う。
「母をよろしくお願いします……よろしければ……ついでに私もね!」
ちゃっかり自分をアピールしながら、私は「ケーキ……奮発して、ホールで買ってきてよかった」と、密かに胸を撫で下ろしたのであった。
最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
読み終えた後、皆様の心に少しでも何かが残れば嬉しいです。
また新しい作品でお付き合い願えれば幸いです。
本当にありがとうございました。




