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13話 オバちゃんの儀式

 怒濤の出産騒動から一夜明け、翌日の朝。


 ダンの家では、賑やかな朝食が囲まれていた。



「リコ、卵のスープに入ってるこの白いの何? トロッとしてて美味しい」



「ん? ああ、ノビルだよ。ティーラ、ノビル知らないの?」



 驚くリコに、ティーラは「コクン」と頷く。

 すると、ダンが「オレも知らない」と話に加わる。



「ノビルって言うのかぁ。オレ、ニンニクだと思って食べてたよ」



「うわっ、ダンまで? ……凄い体に良いんだよ。貧血とかお腹の調子を整えるとか。あーもったいない、村の入り口にいっぱい生えてんのにー。私なんかそれ見つけて、ワクワクしちゃったよ」



 リコのサラッと言った言葉に、ケツァルは夢中で口に運んでいたスプーンをはたと止めた。



「村の入り口? ならば――こ、これは、雑草ではないか! オヌシ、いくら体に良くともそんな物をこのワシに――」



「――何かご不満でも?」



 リコはケツァルの文句を遮り、冷ややな視線を送った。

 身の危険を感じたケツァルが、慌てて話題を変える。



「そ、そう言えば、ティーラよ。落ち着く先が見つかってよかったではないか」



 嬉しそうに「ええ!」と微笑むティーラ。

 彼女はこのヨーク村で、しばらく暮らすことになったのである。

 ティーラの村は襲われてしまったし、何よりカランデの大森林には、もう安全な所などないと言うのだ。

 それを聞いたライデルが「この村で匿おう」と村人たちに提案。

 彼らは二つ返事で賛成した。せめてもの罪滅ぼしらしい。



「ティーラよ、しばらくはこの村で大人しくしておるのじゃぞ。ここは何処よりも安全じゃからな。それはそうと――」



 ケツァルは、ティーラからダンに視線を移す。



「――ダン、オヌシに聞きたいことがあるのじゃが」



「何だい? ケツァル」



「女王のペンダントとは一体どんな物なのじゃ? 確かそれで傀儡石を生み出しておるのじゃろう?」



「ああ、そうだよ。女王が片時も離さず、いつも胸にぶら下げているらしい。黒い石のついたペンダントなんだって。それ位しかオレ、知らないや……ごめん」



 すまなそうに頭を掻くダン。

 しかし、ケツァルは前足を「バン」とテーブルに置き、その話に食いついた。



「むむっ! 黒い石だと! 石ならば……もしかしてリコが触れたら、傀儡石のようにそれもただの石コロになるのではないか?」



「ん? そうか! そうだよ、きっとリコさんなら石コロにしちゃうよ! そしたらもう傀儡石なんてなくなる。ケツァルって頭がいいなー」



「おお! そうじゃろう。そうじゃろうとも!」



 ケツァルが前足を組み、偉そうにふんぞり返る。

 異様な盛り上がりをみせるダンとケツァルに、リコが遠慮がちに口を開いた。



「あのー、私が傀儡石を石コロにしちゃう前提で話してるけど……それはあの時、たまたまだったかもしれないよ? それなのにさー、そのペンダントもって言うのは……いくら何でもちょっと強引すぎない?」



「む? なんじゃ、リコらしくない。オヌシなら奇跡を起こせるはずじゃ!」



「オレもそう思う。オレさー、リコさんを無鉄砲だなんて言ったけど……それは間違いだった。だってこの村を一晩で変えちまったんだよ。絶対、何かを秘めてるよ!」



「そうよ、リコは私を救ってくれた英雄なのよ。自信を持って!」



 ケツァルとダンに続きティーラまでもが、心をくすぐるワードでリコを持ち上げる。



(うわっ、何? この人たち。キラッキラッした目で私を見てる……いやーマジか? マジで私、何か秘めてるの? 奇跡起こしちゃうの? ただのオバちゃんなのに?)



 リコが葛藤してる間中、期待を込めた熱い視線がビシバシ送られてくる。



(やめてー、そんな目で見ないでー! このままじゃ私……調子に乗っちゃうよ? 英雄、気取っちゃうよ? うーーーーん、よっしゃー!)



 おだてられると、ついついその気になっちゃうリコ。

 出来る子だと勘違いしちゃうリコ。


 彼女は「この際、形から入ってやろうじゃないの!」と居住まいを正し、偉そうな咳払いをひとつした。



「コホン……これより私は王都へ向かう。そして諸悪の根源である女王に鉄槌を下し、混沌とするこの世界を正しき安寧の地へと――いざ、導かん! さあ、ダンよ。王都までどの位かかるのか答えるがいい!」



 まんまとその気になっちゃたリコ――因みに彼女の中の英雄は、こういうイメージなのである。


 唐突に誕生した英雄リコに、ダンは躊躇するどころかスルッと乗っかる。



「はっ。馬車で大体、5日はかかるかと」



(ほう! ダン! アンタも実はこういうノリ嫌いじゃないね!)



 リコは心の中でほくそ笑み、益々調子に乗る。



「おお。しかし、馬車が必要か……。ダン、すまぬがこのヨーク村で馬車を借りることは可能か?」



「申し訳ありませんが、私にはなんとも……。リコ様。リコ様たちの今後について村長のライデルが、きちんとお話ししたいと申しておりました。その時に尋ねてみてはいかがかと」



「ほう。ならば早速、村長に会おうではないか! くぞ!」



 それまで呆れ顔で見ていたケツァルが口を挟む。



「行くぞ――じゃない! リコ、いきなりなんなのじゃ。戯れも大概にせんか。オヌシ、気でも触れたか?」



(チッ、ケツァルってば付き合い悪いな。よーし、見てろよ!)



 英雄リコは、ゆっくりと首を横に振る。



「戯れでも気が触れたのでもない。これは己を鼓舞する為の大切な儀式なのだよ。分かるかな? 守護神ケツァルよ!」



「しゅ、しゅごっ!」



 ケツァルは目を見開き、長い尻尾もピーンと伸ばし固まった。



「どうした? 守護神ケツァルよ。出発の時ぞ! 早く肩に乗れぃ! この肩は我が守護神ケツァルの為にある」



 英雄リコが畳みかける。


 すると、ケツァルは感動に打ち震え、尻尾をヤタラメッタラ振り回しながら、リコの肩に飛び乗った。



われは守護神ケツァル! 我が友リコを守護する者なり! さあ、我が友よ。共に茨の道を進もうではないか!」



 簡単に落ちたケツァル。なんともチョロいもんである。

 英雄リコは、最後に残るティーラに目を向けた。

 果たして、彼女はリコの儀式に乗ってくれるだろうか。いや、さすがにこのノリは無理であろう。


 ――が、しかし、その予想はアッサリ覆される。なんとティーラは、内心ウズウズしながら仲間に加わるのを待ち望んでいたのだ。



「リコ様。もちろん、わたくしもご一緒致しますわ」



(なんと! このもノリノリやないかい!)



 目を輝かすリコ。



「おお、ティーラよ。美しく聡明な其方そなたが我が友となり、私はなんという幸せ者か!」



「と、友! わたくしを友と呼んで頂けるのですか! ああ、リコ様! 叶うならばこのティーラ、リコ様のお役に立ちたいと思います。リコ様、随意ずいいに……」



 ティーラは胸に手を当て、静かに一礼した。



 ――類は友を呼ぶ。



  結局、全員こういうのが嫌いじゃないのだ。いや、むしろ大好物なのである。


  誰も止めようとしないノリノリのリコたちは、英雄譚よろしく、颯爽と家を飛び出した。


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