奇跡の果実 1/4
ここから数話、区切りが(さらに)雑になっています。
ご容赦ください。
街中で知り合いとばったり出会い……などということもなく、並んでいた露店に2人の視線が奪われること数回、門を超えて街の外までやってきました。それにしてもあの露店、周囲にいない魔物の情報体を売っていて、どう考えても"先"からやって来た先駆者に思えるのですが。
「う~ん……これはもう少し離れた場所まで行くしかなさそうだな」
凛の言葉が示す通り、街を出てすぐ見渡せる範囲内では魔物の姿が見当たりません。出現しても、すぐに倒されてしまうのです。それもそのはず、多くの人達が沸き待ちをしているのですから。
チェスゲームで勝利できた私達は宿の心配をしなくてもいいのですが、そうでなければ今日の宿すら危うい身。森で得た情報体を売ったとしても種類や回収状態によっては一晩の宿代にも届かないでしょう。
「え、危なくないかな?」
「しかし待っていても、いつ魔物と戦えることやら。それにいつかはこの場所を離れるのだから、今から慣れておくのも良いと思うぞ?」
「で、でも」
最初のカマキリ相手に腰を抜かしていたかと思えば、チェスゲーム開始直後は魔物が目の前にいても動揺すらせず行動できていた。しかし今は魔物が多い場所に向かうのに消極的、いえ、強い魔物がいる場所と考えるべきですか。単純に魔物が怖い、とは違いますよね。実力を隠しているという線も違うでしょう。スノーマンズ相手に浸かっていた魔法もカマキリ相手に使っていたものと同じものであり、動きも見違えるように良くなったわけではなかったので。
「まあ悪くてもログアウトするだけだと聞いている。実際に死ぬわけではないのだから、そこまで心配することもないだろう」
「……そうだね、ちょっと心配しすぎだったかも。それでも危険だと思ったら帰ろうね?」
あはは、と何かを隠すように笑顔を浮かべたサリア。ほう。
「なに、君が死ぬとしても私の後にしてみせるさ」
穏やかな笑顔でそう告げた凛。自身があるとか、無責任な言葉だとか、そんなこともない自然体の笑顔。そうであることを自然と考える、とても危険な感じがします。なにかあったのでしょうか、きっとあったのでしょうね。
まあ私の出る幕ではありません。少なくとも、今は。
「ダメよ。皆で帰るんだから、死んだらダメ」
サリアも何か感じ取ったのでしょうか、真剣な表情を浮かべて釘を刺しました。
「……そうだな。どうにもこれから戦うということで感情が昂ぶっているようだ。もう少し冷静にならないとな」
少しの間だけ驚いたような表情を浮かべた凛は納得顔で答えて頷きます。
「まあ比較的、弱い魔物しかいないみたいですし、そこまで気負うことはありませんよ。ところで歩きながら少し質問してもいいですか?」
「ええ」「ああ」
私が歩き出せば2人も揃えて歩き出しました。左側で兎型の魔物、ラビットが出現しましたが、近くにいたプレイヤーが飛びかかり額にナイフを刺すことで消えていきます。
「とりあえず、2人は何歳なのですか?」
「私は今年で14歳だな」
「え……」
サリアが信じられないものをみるように、凛へ視線を注ぎます。
「む、もしかして何かおかしいのだろうか?」
「いえ、ただ……ね?」
凛がやや不安気に問いかければ、サリアが否定と同時に私に同意を求めてきました。まあ比較的安全な世界の安全な国で育った14歳の雰囲気ではありませんよね。強めの魔物が近くに出現する村で育ったと言われても納得できそうですから。
「サリアは何歳なのですか?」
「えっと、ね。うん、15歳」
凛の1つか2つ上、まあ予想通りです。サリアは自分よりも年上に見えていたからか気にしているようですが、この程度は誤差でしょう。身体の成長差はあっても不思議ではありませんし、雰囲気の差は……まあ影響しているかもしれません。そもそもそれを語るには、私は今の凛を知らなすぎる。
「イナバは何歳……召喚直後だと言っていたな。それではユウくんは何歳なのかな?」
「聞いていませんが、おそらく凛と同期でしょう」
「え?」
疑問符を浮かべたような表情が2つ、私に向きました。
「あ、そっか。人族って成長の差が大きいんだね」
「ど、どうだろうか。たしかにいないことはないだろうが……少なくとも私は見たことがないな。10歳でも小さいほうじゃないだろうか」
笑いで誤魔化しているようですが、明らかに不安気な雰囲気を纏った凛。そわそわしている感じ、とでもいえばいいのでしょうか。おそらくユウに確認したいのでしょうね、真実かどうかを。
『ユウ、今年で14歳になる健康体ですよね?』「やっぱりそれくらいだよね?」
『っ!? 驚いた。そうだけど、よくわかったね?』「まあ、珍しいだけでいないこともないだろうが……」
情報アクセサリーを利用してユウへと接続してみれば、本当に驚いたような反応が返ってきました。少し意外です。
もしかして間の悪い時に繋げてしまったのでしょうか。先程までアリサと2人でなにやらしていたようですから。まあ今のアリサはぐっすりと眠っているのですが。
『失礼。間が悪かったですか?』「もしかして成長が遅いとか?」
『ううん、そんな機能があるんだなって。ところでイナバ、録画していないよね?』「可能性は十分にあるが……たしかに10歳の行動とは思えないからな」
ちょっとよくわかりませんね、ええ。
『イナバ?』
『いえ。年齢の話になり、そこであなたの予測年齢を伝えたところ、凛が不安そうにしていまして』
『うん、凛さんはしかたないよ。大丈夫、健康だって伝えておいて』
しかたないとは少し気になりますが、必要なことであれば伝えてくれるでしょう。それよりも予想以上に疲れていたのでしょうか、そちらが気になります。
『伝えておきます。ところで熱はありませんよね? 顔が少し赤いですよ』
『やっぱり見えてるの?』
やはり見えていることは知っていたようですね。まあ私も知られていることを前提に行動していましたが。
『嫌なら思考から外しますが、有効範囲から外すことはしません』
『それは気にしなくていいよ。ところでどこから"見て"たの?』
おそらく意識上で認識していたか、という意味でしょう。私も千里眼で得たすべての情報を常に意識上で処理しているわけではありませんからね。先程も見ていたはずなのですが、外されましたし。
この能力は便利なのですが、精神系統をなにかしらの方法で対処しなければいけないのが面倒です。その点だけを考えれば本物の千里眼のほうが有用なのかもしれません。まあ得られる情報に差がありますから、こちらのほうが万能といえるでしょうけど。
『あなたが部屋に戻って布団にくるまっていたところからです。もしかしてアリサに迫られましたか?』
『まあぼくが迫った方になるのかな。大丈夫、熱はないよ』
『そうですか。まあ無理はしないようにしてくださいね。夕食の準備もアリサが眠っているようなら、私が帰ってからしますので』
そこで接続を切ります。本当はもうちょっと話していたかったのですが、私が反応しないことに2人が心配し始めてしまったので。さすがに心配してくれている相手におなざりな反応はしたくありません。ユウは宿のベットの上ですし、大丈夫でしょう。