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へべれけ!  作者: へべれけ
第13話
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13-b2

琰龍の焔が周囲を焼き焦がす

その輻射熱に焼かれながらも茜が琰龍に突貫して行く

その瞳は紅く染まり、愛らしかった顔は悪鬼の如く歪んでいる

今にも歯が砕けそうな程に食い縛った歯の隙間からは、獣の様な唸り声が漏れ出していた

その姿は、当にバーサーカーとも呼ぶべきモノであり、自らの損害を考えない無謀な突撃は狂気すら感じさせる

そんな修羅場を眼下に見ながら、俺と葵は上空へと駆け上がっていた


「あの子・・・一体如何したっていうの?」

青ざめた顔で葵が呟く


「葵!」

「・・・判ってる!」

茜の狂態に葵は一瞬躊躇したが、俺が呼び掛けると直ぐに冷静さを取り戻しさらに高度を上げる

やがて、俺達は茜が戦っている場所の直上数百m程の場所に到達した


「さてと、こっからが本番だ・・・」

俺は小さく独りごちた

怖く無いと言えば嘘になる

いや、違うな

本当は全てを棄てて逃げ出したい程恐ろしい

何せ俺の指示一つに俺だけではなく、茜や葵、翠の運命まで掛かっているのだ

だが、今俺が取り乱せば茜を救う事が出来なくなる

そしてそれは多分、今此処に居る葵や翠もー


「へべれけ、信じてるから。私も、そして翠や茜も」

此方に顔を向ける事もなく、小さな声で、だがハッキリと葵が言い放つその言葉は、俺の中の迷いを吹き飛ばした


「あゝそうだな。そろそろ子供は寝る時間だ。とっとと終わらせて、家に帰るぞ!」

その言葉を合図に、戦いの幕は切って落とされた


━━━━━━━━


風が渦を巻き始めた


琰龍の巻き上げる熱気が強い上昇気流を生み出し、その上昇気流に翠が葵をフォーカスにして冷気を生み出す、ソレを葵が気流を操って無理矢理撹拌させる

琰龍が発する灼熱と魔法による冷気、この世界に存在しない筈の事象が生み出した莫大なエネルギーの落差は周囲の大気を巻き込み、やがて本来であればあり得ない場所に積乱雲を生み出した

大気の摩擦が雷鳴を呼び、熱気と冷気の撹拌が大気中の水蒸気を凝固させてゆく

それはやがて拳大の雹を内包する局地的な豪雨となって地表に降り注いだ


━━━


雨が降っていた


激しい雨がー


雨粒は大きく重く痛い程に身体を打ち付ける


そして・・・













「ーーーあれ?私、一体・・・?」

ズキリと頭が痛んだ

軽く触れるとヌルりとした感触が伝わる

手を見れば其処には、真っ赤な液体が付いていた

鉄の錆た様な匂いが鼻を突く


「ゲホ!ゴホゴホ!」

思わず咳き込む

暑い、とても暑い

まるでサウナの中にいるみたい

茜は、ぼんやりとそんな事を考えた


その時、ズシン!という重い何かが落ちる様な音がして地面が揺れる

音のした方を見ると、其処にはー

巨大な赤黒い岩の塊の様なモノがあった

その所々はひび割れ、裂け目からは赤い焔が吹き出ている

と、その岩の一部が大きくひび割れてゆく

それはまるで巨大な化物の顎の様で、その中には紅蓮の炎が渦巻いていた

茜はその光景を、唯ぼんやりと見詰めている

炎の輻射熱が茜の肌を、髪をチリチリと焦がす程に近ずいて来て

その大きく開かれた顎が茜を飲み込もうとしたその瞬間ー






「茜ー!!」

小さな影が茜の前に飛び出した


━━━


その作戦は上手くいっていた


雨を降らせる

本当にそんな事が出来るのか不安だったが、へべれけを信じて言われた通りにやってみると


果たして、雨は降ったー


始め雨は琰龍の熱気によって蒸発していたが、大量の雨は遂には琰龍の元に届きその炎を打ち消してしまい、近寄る事さえ困難だった原因の炎が消えると巨大な岩の塊の様なモノが其処には有った

そしてその前に茜がいたのである

茜は惚けた様に岩塊の前に佇んでいた


「茜!」

そんな茜にへべれけが呼びかける

しかし、茜は唯ぼんやりとその場に立ち尽くし微動だにしない


「葵、茜の側に寄ってくれ」

「判かったわ」

へべれけの指示で葵が茜に向かって飛翔する

そして、今正に茜に触れようとした瞬間ー

其れまで微動だにしなかった岩塊が動いた

突如として岩塊の一部が割れて獄炎の顎が茜を呑み込もうと動き出す

葵は突然の事態に一瞬動きを止めてしまうがその刹那、へべれけが飛び出した

葵の肩口を蹴り茜の前に躍り出る

それはまるで、自らを生贄とする様な行動だった

そして、二人の見ている前で紅蓮の顎がへべれけと茜を呑み込んだ



━━━



白い世界

白く輝く世界

唯、白い

唯、白いだけの世界


ぼんやりとした視界の片隅で茜は"ソレ"を見た

其処には、小さな光がゆっくりと動いていた

眩いばかりの白い世界でも"ソレ"はその光に消え入る事なく輝いていた


「あゝ、そうか・・・」

茜はぼんやり呟くと、その光に手を伸ばす

今にも消えてしまいそうな、とても脆弱で儚く瞬く光へと手を伸ばす


そして、その光を慈しむ様に、愛しむ様にそっと抱き寄せる


"トクン"


小さな鼓動が聴こえた

ゆっくりと、今にも途切れそうな程弱々しい鼓動

だけど、確かに"ソレ"は生きている


「あゝそうか・・・」

茜は、耳元で囁く誰かの声を聴いた気がした

遠い昔の記憶が蘇る様な、奇妙なむず痒い感覚


茜は左手で"ソレ"を抱えたまま右手を伸ばす

この白い世界を形作るモノへと手を伸ばす


灼熱の世界

原子さへ還元する程の力が渦巻くこの世界の中心

白く輝く"指輪"の下へとー




そして、その指がそっと触れ・・・






"世界"が、弾けた




━━━




「茜!へべれけ!!」

「茜ちゃん!へべちゃん!!」

葵と翠が同時に叫んだ


しかし、その声は届く事無く焔が吹き出す巨大な顎が二人を飲み込む


「そんな・・・」

葵が力無く呟き、翠は声も無くその場に崩折れる


"考えろ!考えろ、私!!"

葵は眼前の状況に対応しようと必死に自分を叱責するが、少しも考えが纏まらない

自分の力ではどうする事も出来無い状況に、祈る様な気持ちで翠の方を見るが、翠は力無くその場にへたり込んでいる

そんな翠の姿が歪み霞むのを見て、葵は始めて自分が泣いているのを自覚した


葵はゆっくりと視線を戻す

其処には再び全身から焔を吹上始めた琰龍の姿が有った

琰龍はゆっくりとその顎を広げ、そしてー


葵が全てを諦め様としたその瞬間、琰龍の胸に光が宿った

それと同時に琰龍が身動ぎする

それは次第に輝きを増し、其れに呼応して琰龍が苦しむ様にのたうち回る

やがてその光は空間全てを満たす程の光の奔流となって溢れ出し唐突に消えた


「あ、茜・・・ちゃん?」

そんな言葉を聞いて、葵はゆっくりと眼を開ける

のたうつ琰龍の前、空中に浮かぶ様に

其処にはまるで焔で出来ているかの様に揺らめく光のドレスに身を包んだ茜の姿が有った



━━━



眩しい光が消えると其処には茜ちゃんがいた

その姿は、まるで燃え盛る焔のドレスを纏ったお姫様の様で、その姿を見ていると今迄感じていた不安とかそういったモノが心の中から消えてゆく様な感じがする


私がその姿を見ていると、茜ちゃんが私の方にゆっくりと降りて来た

その手の中にはへべちゃんが抱き抱えられている


「翠ちゃん、へべくんをお願い」

そう言って、茜ちゃんがへべちゃんを私に手渡した

私の手の中で、まるで赤ちゃんの様に丸まって眠るへべちゃん


そう、へべちゃんは眠っていた


呼吸の度に鼻がピクピクと動き、手の中に感じる温もりには、しっかりとした生命の鼓動が感じられる

唯、その身体はとても熱い

まるで、炎の塊の様に

でも、不思議とへべちゃんを抱いているのは苦痛じゃなかったし、私が火傷したりする事も無かった

私は顔を上げて茜ちゃんを見た


すると、茜ちゃんはにっこりと笑って・・・

あの、怖ろしい怪物の方へと走り出して行った



━━━



「葵ちゃん、へべくんと翠ちゃんをお願い!」

そう言って茜が駆けて行く

焔の様に揺らめく純白のドレスを靡かせて


私はその後ろ姿を見詰めていた

ただ黙って見詰めていた


"何も言いたい事が無かったんじゃ無い、

何も言えなかったんだ・・・"


そんな事を思いながら、私はその後ろ姿をただ黙って見詰めていたー



━━━



雨は既に止んでいた


琰龍の発する熱気が周囲の水分を完全に蒸発させ、其れでも未だ足り無いとでも言う様に大気を焦がす

吹き上げる上昇気流が突風を呼び、大気が渦を巻く

その中を一筋の光が駆け抜ける

その光は琰龍にさえ負け無い程の熱量を纏い、一直線に琰龍へと突き刺さった



━━━


ズドォォーーーン!!!!!


衝撃波から少し遅れて辺り一面に轟音が広がり、琰龍の巨大な体躯がまるで放り投げられたボールの様に宙を舞い地面に落下した


"ギシャアァァァァァ!!!!!"


琰龍は身悶えながら絶叫する

そんな琰龍の姿を見て、茜はポツリと呟いた


「ごめんね、貴方が悪い訳じゃ無い。だけど私は知ってしまった。もう戻れない、進むしか無い!だから・・・私は貴方をこの手で倒す!!!」


小さな手に有りっ丈の想いを込めて握り込む

その手にロッドは無い

だが、その腕には灼熱に輝く一対のガントレットが装着されていた

漸く態勢を立て直した琰龍は絶叫とも咆哮ともつかない叫びをあげる

そしてそれが、決戦の合図となった



━━━



ポツリと何かが頬に触れた


"暖ったかいな・・・"

そんな事を思う


ポツリと又何かが頬に触れる

ポツリ、ポツリ・・・

それは少しづつ増えてゆく


誰かの声が聞こえた

遠くの方で誰かを呼んでいる


その声を私は知っていた

だけど、思い出せない


なんだかとても眠い

ああ、そうか

私は疲れているんだ

そうだよね、あんなに大変だったんだもの


・・・あれ?何が大変だったんだっけ?

・・・・・・ま、いいか

今は眠ろう・・・

そう、今はただ、静かなこの時を・・・



バシッ!


!?

いきなり誰かに叩かれた!?


バシッ!バシッ!!


!!?

え?何!

ちょっと、止めて!

私は!

私は!!














目の前に葵ちゃんがいた

葵ちゃんは泣いていた

葵ちゃんの涙が降って来る

暖かな涙が私の頬を濡らす


"あゝ、そうか。あれは、葵ちゃんの涙だったんだ・・・"


横に視線を投げると翠ちゃんが泣いていた

その腕にはへべくんが抱き抱えられている


ふと、視界の中に緑色の光が見えたので目を凝らすと翠ちゃんの後ろに学校の校舎が有るのが判った

あの緑の光は多分、非常口の明かりだ


"あれ?だとするとココは学校?だったら・・・"


「茜!?気がついたの?茜!」

私の考えは葵ちゃんの声で中断された


「え?う、うん。葵ちゃん、へべくんは?そして、あの妖・・・」

「よ、よがった・・・、わ、わだじ、あがねが・・・あがねが・・・」

「え?あ、葵ちゃ・・・ん?」

「ぶゎぁぁぁぁぁん!!!」

「ゲフッ!?」

翠ちゃんがいきなり私の胸にダイブした

結構な勢いで一瞬呼吸が詰まる


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

それと同時に葵ちゃんも泣きだす


"あははははは・・・さて、どうしようこの状況・・・"

収集がつかない事態に困り果てて私は視線を前へと向ける

すると、泣き噦る葵ちゃんの向こうに綺麗な星空が見えた

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