07-c
「そんな・・・」
葵は、妖魔が結界から飛び去るのを唯黙って見ていた
本当は止めなければなら無かった筈だ
例え、どんな犠牲を払おうと・・・
だが実際には、葵は妖魔が飛び去るのを唯黙って見ているだけだった
「何で・・・私は・・・」
葵は、混乱する意識の中で誰かに呼ばれた気がした
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「葵!」
「葵ちゃん!」
妖魔が飛び去った後、葵が急に惚けた様になった
俺と茜が呼びかけても反応がない
「クソ!茜、やれ!」
「え、でも・・・」
「時間が無いんだ!」
「・・・ごめんね、葵ちゃん!」
そう言うと、茜は葵の頬を張った
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「あ・・・私・・・」
「気がついたか?」
「大丈夫?」
葵が気が付くと、茜とへべれけが心配そうに顔を覗き込んでいた
「そうだ!妖魔は?」
「結界の外に出て行った」
葵の問いにへべれけが答える
「どうしよう、大変な事になる・・・」
「大変?一体どうなるんだ?」
「死ぬわ、大勢の人が死ぬ」
葵の答えに、へべれけの顔が引き攣る
「どうしよう、私は一体どうしたら・・・」
身体の震えが止まらない、考えが纏まらない
何かをしなければならない、でも何をすれば良いのか解らない
焦燥感が不安と恐怖に変わって心を埋め尽くして行く
私は一体どうしたら・・・そんな思いが頭を埋め尽くそうとした時
「俺と一緒に来い!」
へべれけの声が聞こえた
「え・・・?」
「このまま放っては置けないだろう?だから彼奴を倒す。だけど、俺と茜だけでは多分無理だ。だから葵、お前の力を貸してくれ!」
葵は目の前の小動物をマジマジと見つめた
葵の目に映るその小動物は、最早言葉を喋る唯の愛玩動物では無くなっていた
「どうした?此の期に及んでまだ勝負に拘る気か?」
へべれけの問いかけに、葵は黙って首を振ると、差し出されたその小さな手を握った




