04-b2
猫に近づいていくと、毛を逆立てて威嚇してくる
俺は、刺激しないようにゆっくりと風上側にまりこんだ、風に乗って俺の匂いが流れてゆく
そして、俺の匂いを嗅いだ猫が警戒を解いた
「餌付けの成果はあった様だな」
そう言って、俺はゆっくりと猫に近づいていった
猫は怪我をして、少し気が立っていた様だ
俺は近くの茂みに猫を誘導すると、怪我の程度を確認する
幸いかすり傷程度で大したことはなさそうだ
俺はポーチの中からビスケットを1枚取り出して猫の側に置く
「さてと・・・」
猫がビスケットに齧り付くのを見ながら俺は考えを巡らせた
この猫がここに来た理由は、餌を求めてという可能性が一番高いだろう
あの空き地からここまでは、そんなに距離は離れていない
野良猫は警戒心が強いが、"かわいい"という理由で無責任に野良猫にエサを与える人間は多い
まして、今この遊歩道では花見が行われている
野良猫にとっては絶好の餌場だろう
だが、気になるのはこの猫が怪我をしていたという事だ
酔っ払いに絡まれたというわけでもなさそうだし・・・
「喧嘩でもしたかな?とりあえず見てくるか」
俺は空き地に向かって歩き出した
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「ア"ーーー」
真っ黒な鳥さんが威嚇するように鳴いた
「カラスだよ、これ、カラスだ」
俺の目の前には数羽のカラスが屯していた
俺が以前、秘密基地製作用の廃材を調達していたゴミ置き場
そこは、何も廃材専用のゴミ集積場というわけではなかった
曜日によって収集するゴミの種類が変わる
だが、今は少し違っていた
花見に来た人たちが、そこにゴミを捨てていくのだ
もちろん遊歩道の側にも専用のゴミ捨て場はある
しかし、そういった所は結構すぐに一杯になってしまう
そして、近場にあったこのゴミ集積場にゴミが捨てられる
そこに捨てられる生ゴミを求めて、カラスが集まって来たのだ
「カラスは野良猫と違って、人の側に近づくとほぼ確実に追い払われるからなぁ」
結果として、適度に人間達から離れたこの場所を餌場にしたという事だろう
そして、空き地をテリトリーとしていた野良猫たちと、カラスのテリトリーがスタックして、抗争が勃発したという事らしい
「さてと、どうするかな?」
まぁ、敵わなけりゃ逃げればいいだけの話だし、 基本野生の奴らはそうするだろう
問題は、この前生まれたばかりの子猫のような逃げられない奴の事なんだよなぁ
とりあえず俺は、秘密基地へと向かった
衣装ケースの中を覗くと、母猫に唸り声で威嚇された
ポーチからビスケットを何枚か取り出して、中に放り投げる
母猫がビスケットを齧っている間に、衣装ケースの中に入って子猫を確認する
今のところ特に問題は無いようだ
しかし、今後も問題がないとは限らない
俺は衣装ケースから出ると、空き地から少し離れたゴミ集積場に屯しているカラスを見つめる
ふと、 誰かがこちらに近づいてくるのが見えた
「あれは・・・茜か?」
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「へべくんは、こんなところで一体何をしているのかな?」
開口一番、茜はそう言った
俺が、どう説明したものかと言い淀んでいると
茜は、俺の側にしゃがみ込んで俺を抱え上げ
「へべくんは、こんなところで一体何をしているのかな?」
と、同じ言葉を繰り返す
怖いですよ?茜さん、目がマジです
とりあえず、今の状況をかいつまんで説明すると
「猫とカラスかぁ・・・ 」
茜が困ったようにつぶやく
まあ、当然そうなるわなぁ
「ところで、茜は俺がここにいると良く判ったな」
「え?あ、うん、なんとなくだよ」
「なんとなく?」
「うん、へべくんの事を考えると、へべくんが何処にいるか、なんとなく判るんだ・・・へべくんはそんな事無い?」
「 俺か?俺は・・・」
その時、"ガタッ"という音がした
「何?」
茜が音がした方を見ると、そこには草に隠れるようにプラスチック製の衣装ケースが置いてあった
茜は、そっとその中を覗き込むと、動きを止めた
「・・・ねぇ、へべくん・・・まさか・・・」
「 誤解だ!」
俺は絶叫した
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「よう、遅かったな!うんこか?」
スパーン!といういい音と共に琴音が突っ伏す
「それで、何かあったのか?」
何事も無かった様に京子が聞いて来た
「うん、実は・・・」
それから4人はゴミ集積場周りの掃除を始めた
本質的な原因は、ゴミ集積場の周りに捨てられた生ごみにある
だったらそれを無くしてしまえば、カラスは寄ってこなくなるだろう、と言うのが4人の出した結論だった
掃除をしている途中で、自治会の人たちが話しかけてきた
掃除の理由を説明すると、自治会の人たちも手伝ってくれた
ここに捨てられているゴミはいわば不法投棄で、カラスの事も含めて前々から問題になっていたそうだ
それでも、花見の時期だけの一時的な事だからと放置されていたらしい
ただ、今後は看板を立てる等、ちゃんとした対策をしていくそうだ
「これで、あの子猫たちは大丈夫・・・かな?」
「少なくともカラスという最大の脅威を排除できたから、後は運次第だろう」
「子猫たちの事言わなくて、本当によかったのかなぁ?」
「あそこで言っていたら、多分保健所に送られていた、私たちは出来るだけの事はやった、そう思うしかないだろう」
「あの子猫、唐揚げ食うかな?唐揚げ」
「お前はいい加減そこから離れろ!」
そんな話をしながら、俺達は家路に着いた
あの子猫たちの事は、もう少し俺が見守っていくとしよう




