04-b1
「お花見にいくよ」
よく晴れた日曜の朝
茜は笑いながらそう言った
「は?」
不意を突かれて俺は間抜けな声を出してしまった
「この前約束したでしょう? 今度お花見に行くって」
少し不機嫌そうに茜が答えた
そういえば、これを買いに行った時にそんな事を言っていたような気がする
俺は、首輪を引っ張りながらそんな事を考える
しかし、それを口に出す様な事はしない
わざわざ虎の尾を踏みに行く必要はないのだ
「それにしてもいきなりだな」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「花見に行く約束はしたかもしれないが、それが今日だという話は聞いていないぞ」
俺がちょっと不機嫌そうにいうと
「そっか、ごめんね」
と屈託なく答えた
そして、手にしたリュックを軽く叩くと
「今日は、早起きしてお母さんといっしょにお弁当作ったんだから、綺麗なお花を見ながら食べたらきっと美味しいよ」
と言って笑った
そういえば茜は、今朝はいつもよりも早く起きて何かをやっていた
あれは、花見の弁当を作っていたのか
今日も俺はあの空き地に子猫の様子を見に行くつもりだったが、今の茜の様子を見るに花見に行くのは決定事項のようだ
「仕方ないか・・・」
そう呟くと、俺はポーチを背負って手短に身支度を済ませる
「へべくん、早く早く」
そう言って茜が、後ろ髪をたくし上げパーカーのフードを開いて待っていた
"1日位なら大丈夫だよな?"そんなことを考えながら、俺はフードの中に潜り込んだ
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「この子が"へべくん"だよ」
俺を抱き抱えて茜がそう告げると
「うおーーー!!!!!」
「ほほう、これはこれは」
「か、かわいい・・・」
といった黄色い声が帰ってきた
"え?何?なんなのこの状況?"
混乱する俺を他所に状況は進行していく
「"へべ"ってのは、随分変わった名前だな」
と、背の低い少年の様に見える女の子が言った
一応スカート履いているから女の子なんだよな?
「本当はね、へべれけ?っていう名前らしいよ」
「らしい?らしいって?」
背の高い女の子がツッコミを入れてくる
「えーっと・・・」
「別の人が名前を付けたんじゃないのか?」
茜が返答に困っていると、少年みたいな女の子がフォローする
「え?あ、うん!へべくんは私の家に来る前からへべくんだったんだよ」
「そうか・・・なるほどな」
背の高い女の子は、その説明で納得したのか、うんうんと頷いている
そんなやり取りをしていると、内気そうで眼鏡をかけた女の子が近づいてきた
「あ、あの・・・ 私は翠っていうの、よろしくね、へべちゃん」
そう言って翠と名乗った女の子は、俺の手を取って握手のように降った
「あっ!翠ちゃんズルい!俺は琴音!よろしくな、へべっち!」
琴音と名乗った少女はそういうと、俺の頭を些か乱暴に撫でた
ってか、今お前"俺"って言ったよな?
「それじゃ最後は私だな、私は京子。京子様と呼んでくれ、判ったね?へべれけくん」
そう言って背の高い少女は、人差し指で俺の顎しゃくりあげる
琴音に京子に翠か・・・なるほどなるほど
なぁ茜、友達は選ぼうぜ?
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遊歩道の脇にビニールシートを引いて弁当を広げる
花より団子とはよく言ったもので、桜の花はもはや眼中に無いらしい
問題なのは、今の彼女達の話題の中心がこの俺というと事だ
「なぁ、卵焼き食うかな?卵焼き」
「やめておけ琴音、人間の食べ物のなかには、動物に食べさせてはいけない物もあるらしい。特に加工品はやめておいたほうがいいだろう」
「じゃあハンバーグは?ハンバーグなら食えるんじゃないかなぁ」
「お前は少し人の話を聞け!」
「あはは・・・」
「ねぇ、茜ちゃん」
「なぁに?翠ちゃん」
「へべちゃん、プチトマトだったら食べられるかな?」
「大丈夫なんじゃないかなぁ?今までも私の家では、普通に私たちと同じもの食べていたよ」
「だったら卵焼きもいけるだろ!」
二人の話を横で聞いていたのか、そう言うと琴音は、弁当箱の蓋に卵焼きを乗せた
「さあ食え、へべっち!俺の奢りだ!」
一同の視線が俺に集まる
そういえば、猫にするめとか、動物に食べさせてはいけないものが幾つかあるらしいな
実際、この体になってから色々な物を食べてきたが、基本的に味覚等は人間の頃と変わってはいない
今迄、茜と同じものを食べてきたが、特に体調に変化はなかったので、気にも留めていなかった
とりあえず匂いを嗅ぐと、卵焼きを一口齧る
"これは甘い系だな"
そんな事を考えながら、飲み込んだ後暫く様子を見る
特に体調に変化は無いようなので、俺は卵焼きを食べ進めた
「おお!これはいける!いけるぞ!」
「ならばこれはどうだろう?」
「これも食べてくれるかなぁ?」
「あははは・・・」
ハンバーグ、タコさんウインナー、ナポリタン、気がつくと蓋の上には、おかずが山盛りになっていた
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"ふー、食った食った"
俺は茜に抱き抱えられながら、少しうつらうつらしていた
腹がふくれると瞼がゆるくなる
あの後、琴音や京子や翠に体中を撫で回されたりもしたが、今回は許してやろう
春の日差しがポカポカと心地よい
茜達は一通り俺で遊んで満足したのか、別の話題でおしゃべりをしている
"よくそんなに話すことがあるよなぁ"
そんな事を考えながらうとうとしていると、視界の隅に何か動くものが映った
その何かに注意を向けてみると、それは1匹の猫だった
怪我をしているのか足取りがおぼつかない
よく見ればその模様には見覚えがあった
あの空き地にいた野良猫の1匹だ
そういえば、あの空き地はこの遊歩道からそんなに遠く無い
俺は身を捩って茜の腕から抜け出すと、その猫に近づいていった




