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へべれけ!  作者: へべれけ
第4話
20/72

04-b1

「お花見にいくよ」

よく晴れた日曜の朝

茜は笑いながらそう言った


「は?」

不意を突かれて俺は間抜けな声を出してしまった


「この前約束したでしょう? 今度お花見に行くって」

少し不機嫌そうに茜が答えた


そういえば、これを買いに行った時にそんな事を言っていたような気がする

俺は、首輪を引っ張りながらそんな事を考える

しかし、それを口に出す様な事はしない

わざわざ虎の尾を踏みに行く必要はないのだ


「それにしてもいきなりだな」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「花見に行く約束はしたかもしれないが、それが今日だという話は聞いていないぞ」

俺がちょっと不機嫌そうにいうと


「そっか、ごめんね」

と屈託なく答えた

そして、手にしたリュックを軽く叩くと


「今日は、早起きしてお母さんといっしょにお弁当作ったんだから、綺麗なお花を見ながら食べたらきっと美味しいよ」

と言って笑った


そういえば茜は、今朝はいつもよりも早く起きて何かをやっていた

あれは、花見の弁当を作っていたのか


今日も俺はあの空き地に子猫の様子を見に行くつもりだったが、今の茜の様子を見るに花見に行くのは決定事項のようだ


「仕方ないか・・・」

そう呟くと、俺はポーチを背負って手短に身支度を済ませる


「へべくん、早く早く」

そう言って茜が、後ろ髪をたくし上げパーカーのフードを開いて待っていた


"1日位なら大丈夫だよな?"そんなことを考えながら、俺はフードの中に潜り込んだ


━━━━━━━


「この子が"へべくん"だよ」

俺を抱き抱えて茜がそう告げると


「うおーーー!!!!!」

「ほほう、これはこれは」

「か、かわいい・・・」

といった黄色い声が帰ってきた


"え?何?なんなのこの状況?"

混乱する俺を他所に状況は進行していく


「"へべ"ってのは、随分変わった名前だな」

と、背の低い少年の様に見える女の子が言った

一応スカート履いているから女の子なんだよな?


「本当はね、へべれけ?っていう名前らしいよ」

「らしい?らしいって?」

背の高い女の子がツッコミを入れてくる


「えーっと・・・」

「別の人が名前を付けたんじゃないのか?」

茜が返答に困っていると、少年みたいな女の子がフォローする


「え?あ、うん!へべくんは私の家に来る前からへべくんだったんだよ」

「そうか・・・なるほどな」

背の高い女の子は、その説明で納得したのか、うんうんと頷いている

そんなやり取りをしていると、内気そうで眼鏡をかけた女の子が近づいてきた


「あ、あの・・・ 私は翠っていうの、よろしくね、へべちゃん」

そう言って翠と名乗った女の子は、俺の手を取って握手のように降った


「あっ!翠ちゃんズルい!俺は琴音!よろしくな、へべっち!」

琴音と名乗った少女はそういうと、俺の頭を些か乱暴に撫でた

ってか、今お前"俺"って言ったよな?


「それじゃ最後は私だな、私は京子。京子様と呼んでくれ、判ったね?へべれけくん」

そう言って背の高い少女は、人差し指で俺の顎しゃくりあげる


琴音に京子に翠か・・・なるほどなるほど

なぁ茜、友達は選ぼうぜ?


━━━━━━━━



遊歩道の脇にビニールシートを引いて弁当を広げる

花より団子とはよく言ったもので、桜の花はもはや眼中に無いらしい

問題なのは、今の彼女達の話題の中心がこの俺というと事だ


「なぁ、卵焼き食うかな?卵焼き」

「やめておけ琴音、人間の食べ物のなかには、動物に食べさせてはいけない物もあるらしい。特に加工品はやめておいたほうがいいだろう」

「じゃあハンバーグは?ハンバーグなら食えるんじゃないかなぁ」

「お前は少し人の話を聞け!」


「あはは・・・」

「ねぇ、茜ちゃん」

「なぁに?翠ちゃん」

「へべちゃん、プチトマトだったら食べられるかな?」

「大丈夫なんじゃないかなぁ?今までも私の家では、普通に私たちと同じもの食べていたよ」


「だったら卵焼きもいけるだろ!」

二人の話を横で聞いていたのか、そう言うと琴音は、弁当箱の蓋に卵焼きを乗せた


「さあ食え、へべっち!俺の奢りだ!」

一同の視線が俺に集まる


そういえば、猫にするめとか、動物に食べさせてはいけないものが幾つかあるらしいな

実際、この体になってから色々な物を食べてきたが、基本的に味覚等は人間の頃と変わってはいない


今迄、茜と同じものを食べてきたが、特に体調に変化はなかったので、気にも留めていなかった

とりあえず匂いを嗅ぐと、卵焼きを一口齧る


"これは甘い系だな"

そんな事を考えながら、飲み込んだ後暫く様子を見る

特に体調に変化は無いようなので、俺は卵焼きを食べ進めた


「おお!これはいける!いけるぞ!」

「ならばこれはどうだろう?」

「これも食べてくれるかなぁ?」

「あははは・・・」


ハンバーグ、タコさんウインナー、ナポリタン、気がつくと蓋の上には、おかずが山盛りになっていた


━━━━━━━━


"ふー、食った食った"

俺は茜に抱き抱えられながら、少しうつらうつらしていた


腹がふくれると瞼がゆるくなる

あの後、琴音や京子や翠に体中を撫で回されたりもしたが、今回は許してやろう


春の日差しがポカポカと心地よい

茜達は一通り俺で遊んで満足したのか、別の話題でおしゃべりをしている


"よくそんなに話すことがあるよなぁ"

そんな事を考えながらうとうとしていると、視界の隅に何か動くものが映った

その何かに注意を向けてみると、それは1匹の猫だった


怪我をしているのか足取りがおぼつかない

よく見ればその模様には見覚えがあった

あの空き地にいた野良猫の1匹だ

そういえば、あの空き地はこの遊歩道からそんなに遠く無い


俺は身を捩って茜の腕から抜け出すと、その猫に近づいていった

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