04-a1
穏やかな小春日和、俺は塀の上を歩いていた
別に散歩している訳じゃ無い
周辺地域の地形を頭に入れているのだ
河原での妖魔との戦闘の後、俺は茜に頼んで周辺の地図を用意してもらい
そして過去に妖魔が現れた場所に印をつけてもらった
その結果・・・
妖魔の出現場所にコレといった規則性はなく
結局たいしたことは判らなかった
その為、暫定的な処置として、周辺の地形を覚えるために、こうやって町内をうろうろ徘徊している
茜は、幼い頃からこの地域に住んでいるために土地勘がある
しかし俺には土地勘が全くないのだ
しかも、平日茜には学校があり、俺は小学校についていくことはできない
この為、もし昼間に妖魔が現れたら俺たちは分断される事になる
であるならば、妖魔が出現した時に、お互いが単独で可及的速やかに合流するためには、俺自身がこの街の地形を把握しておく必要があるわけだ
まぁ、茜が言うには、今まで妖魔が日中に出現したことはないらしいんだけどね
だから、これはけして暇つぶしの散歩などではない!
本当だからな?
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塀から降りて道なりに住む
路地を抜けて藪の中に入る
まるで猫が通るような道順を開拓することで
俺の行動半径は劇的に増加していた
もともと小動物の小さな体だ
最大に移動したとしても、その行動には自ずと限界がある
更に、自転車などの道具を使うことができない上に、当然空を飛ぶ事も出来ない
また、時間的な制約もある
泊まりがけなど論外
基本、茜が学校から帰宅するまでにの間に帰っていなければならない
つまりは、その限られた時間内で往復しなければならないのだ
これらの事実は、俺が1人で移動できる距離を制限した
しかしその一方で、町の地形に慣れてくると、まざまなショートカットを見つけることができた
小動物ゆえの小さな体は、普通の人間では入り込むことができないような、小さな隙間に入ることを可能にし
軽い体重ゆえの身軽さは、塀や屋根を伝って移動することを可能にした
この結果、初めは家の周りを短時間散策するだけだったが
日が経つにつれ、俺の行動半径はどんどん広がっていった
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「いい天気だなぁ」
俺は木の枝の上で空を見上げる
木の下では、この木が生えている家の飼い犬であるベスが吠えている
俺は、背負ったポーチからビスケットを1つ取り出すと、下に向かって放り投げた
するとベスは、尻尾を振りながらビスケット追いかけて行く
俺はその光景をしばらく眺めたあと、ポーチからビスケットをもう1枚取り出すと齧り付く
「うーん、なんか・・・ピクニックって感じだよなぁ・・・」
うららかな日差しの中、心地よい風が吹き抜けてゆく
"ワン!"と吠える声がして下を見下ろすと、ベスがしっぽ振りながらお座りしていた
俺はポーチからビスケットをもう一つ取り出すと、ベスに向かって投げ落とす
そして、ベスがビスケットに気を取られている隙に次の目的地へと向かう
因みにこのポーチは、茜が自分のウエストポーチを改造して作ってくれたものだ
形はちょっと不細工だが、小物なら結構な量が入り、なかなか使い勝手は良い
「いやほんと、茜には感謝だな」
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そういえば、町内の探索中に不思議に思った事がある
動物の言葉が分からないのだ
まぁ、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、今の俺は小動物になっているのだ
人間の言葉がわからなくても動物の言葉を理解できてもいいようなものだろう
しかし、実際にはその逆で、俺は人間の言葉は理解できるが動物の言葉が判らない
探索の途中でたまに人に話しかけてみるが、他人には俺の言葉は小動物が鳴いているようにしか聞こえないらしい
「そういえば、茜も俺がしゃべることが解った時はかなり驚いていたよなぁ」
そもそも何で、俺は茜とだけ会話できるんだろう?
やはり魔法の力なのだろうか?
でも茜は「 私、魔法なんて使ったことないよ」 と言っていたし・・・
だったら妖魔と戦っている茜は、魔法少女じゃないってことなのだろうか?
うーむわからん
さっぱりわからん!
あまりにも情報が少なすぎる
そもそも妖魔ってなんだ?
って話からして謎なわけだし・・・
そんなことを考えながら歩いていると、目的地が見えてきた
川沿いの住宅地にある小さな空き地
この周辺に住む野良猫たちのたまり場である




