03-b2
俺は、茜の後を追って全力で走り続けた
何かとても嫌な感じがする
あの日、公園で茜と共に妖魔と戦ってから、理由は判らないが、俺にもなんとなくだが妖魔の気配の様なものを感じ取れる様になっていた
河原の土手の上を走り続けていると、何かに触れたような感覚があった
同時に、今まで聞こえていた日常的な音が消え去り、それと入れ違いに何かが爆ぜるような音が聞こえた
「くそ!間に合わなかった!」
俺は一人毒ずくと 音のする方へさらに加速した
土手を超えるとカニのような妖魔が見えた
妖魔の巨大な腕が茜に向かって振り下ろされる
しかし、茜はその攻撃を器用に避けると、まるで階段を駆け上がるように何もない空中を駆け上がり、妖魔の背後に回り込んで攻撃を加える
その光景は、茜が戦いを有利に進めているように見えたが、妖魔が鈍く光ると茜は一瞬動きを止める
それを見計らったように妖魔がその巨大な腕を振り回す
その腕に茜が捕らえられたと思った次の瞬間、茜の体が宙を舞った
「茜!」
叫びながら駆け寄るが茜は動かない
「茜!!」
妖魔が茜の方にゆっくりと近づいてゆく
「茜!!!」
俺は茜の横を駆け抜け、そのままの勢いで妖魔に飛びかかった
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妖魔の意識がこちらに向いたのが判る
まるで虫を追い払うように、その巨大な腕を横に薙ぎ払う
もし俺が人間のままだったらきっと避けられなかっただろう
だが、今の俺には尻尾があった
俺は尻尾を勢い良く振り回すとその反動で体勢を変え、紙一重でその攻撃を躱す
しかし、そのせいで俺は体勢を崩し、着地に失敗して不様に転がり、そのまま妖魔の腹の下に転がり込む
「拙い!」
今、妖魔が体を沈めれば、押しつぶされる!
慌てて妖魔の下から抜け出そうとするが、河原の砂利に手足をとられて身動きが取れない
そうしている間にも妖魔が動き出す
しかし、妖魔は俺を押しつぶすことはなかった
それどころか、ゆっくりと後退し俺たちから距離をとっていく
"!?、何故後退する?"
そんな疑問が頭をよぎる
だが、今はそんな事よりも優先することがある
「茜!」
そう叫ぶと俺は茜に駆け寄った
「へべ・・・くん?」
「怪我は!?痛い所は無いか?」
「なんで?どうしてここに?」
「お前の後を追ってきた。そんな事よりも今は・・・」
振り返ると妖魔がゆっくりと近づいてきていた
「立てるか?」
そう言って茜の体に触れた瞬間、体中に鈍い痛みが走った
「ぐっ!」
思わず呻く
「あれ?」
「どうした?」
痛みを悟られないように、平静を装って聞く
「体が・・・痛く無い?これなら!」
茜は俺を抱えて立ち上がる
そして、近くに落ちていたロッドを拾い上げると妖魔に向き直った
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茜が宙を駆け抜ける
その度に妖魔の腕が空を切る
茜は妖魔の攻撃を避けると、そのまま背後に回り込んでロッドで打ち据てゆく
その度に、妖魔の外角にヒビが入る
そのヒビは打撃が増える事に大きくなっていくが、妖魔が鈍く光り輝くと、みる間に修復されていく
先ほどから、そんなことをずっと繰り返していた
「キリがねぇ!」
ドレスの首もとに追加されたフードの中で、俺は呻いた
「ハァハァ・・・せめて、回復さえしなかったら・・・」
妖魔との戦いが長引いているせいで、茜の息も上がってきている
一方で妖魔はまるで疲れを知らないかの様に、ゆっくりと近づいてくる
何度目かの攻撃の際、疲れの為か茜が攻撃を外す
その一撃は、妖魔の近くの地面を穿ち、あたりに砂利や礫を撒き散らした
すると、妖魔は急に後退して距離を取り始め
「あれ?どうしたのかな」
茜が素直に疑問を口にする
俺は考えた
そういえばあの妖魔は、あの時も後退していた
もしかすると・・・
「茜!遠距離攻撃はできるか?」
「遠距離攻撃?」
「あー、お前のその杖の先から、ビームみたいなものが出せないか?」
「ビーム?うーん・・・ちょっと無理かなぁ」
「ビームでなくてもいいんだ、何か、こう、遠くから攻撃する手段はないか?」
「うーん、ごめんね、へべくん。たぶん私は、そういうことはできないと思う」
「それに・・・」
そう言うと茜は、近くにある大きめの石を拾うと妖魔に投げつけた
その石は、 弾丸のような速度で妖魔に当たり 粉々に砕けちる
しかし、妖魔の改革には傷ひとつないように見えた
「妖魔はこの杖じゃないと倒せない」
茜は俺の方を向いてそう告げた
「多分、あの妖魔の弱点は腹だ」
茜の耳元でそう告げる
あの妖魔が後退したのは、俺が奴の下に潜り込んだ時だ
そして、さっき茜が攻撃を外した時も、爆ぜた砂利が妖魔の下側から当たっていた
と、茜が攻撃を外し、ロッドの一撃が地面を抉る
瓦礫が飛散し、それを避けるように妖魔が後退する
「本当だ!妖魔が退がっていく」
「わざとやったのか?」
「うん、これで少しだけど休めるね」
そう答えるあかねの額には、玉のような汗が浮かんでいた
そういえば、何時からこんな事を繰り返しているだろう?
茜の体力も限界が近いのかもしれない
「茜、この前やった様に、あの妖魔をひっくり返せないか?」
「うーん、無理かなぁ、あの時は妖魔が動かなかったし・・・
それに、あの腕を避けながらひっくり返すのは無理だと思う」
だったらどうする?
このまま続けてもジリ貧だ
何か他に方法はないか?
何か見落としている事は無いか?
俺に妖魔と戦う力はない、今、俺に出来るのは対策を考えることだけだ
だから・・・考えろ!考えろ!考えろ!
どんな小さなことも見逃すな!
その時ふと、ある疑問が頭に浮かんだ
「そういえば、お前どうやって空飛んでるんだ?」
「空を飛ぶ?私、空なんて飛べないよ」
「え?だって今までお前・・・」
「もしかして、これの事?」
そうい言うと茜は、つま先で軽く地面を叩いた
すると、地面の上に光る板のようなものが現れる
「これは?」
「足場・・・みたいなものかな?私はこの上を動いているだけだよ」
「足場・・・か。こいつは自由に出したり消したりできるのか?」
「どういう事?」
「例えば、出したままに出来るか?」
「いつもはすぐに消えちゃうけど・・・少しの間なら出したままにできると思う」
「そうか、だったら・・・」
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後退していた妖魔が、ゆっくりとこちらに向けて動き出した
茜は攻撃を受け流しながら、ゆっくりと後退して、土手の方へと妖魔を誘導して行く
やがて、茜と妖魔は土手を登り始め、そして・・・
「今だ!」
へべれけの掛け声と共に、妖魔の前から茜の姿が消える
正確に言うなら、茜は下に落ちていた
光る足場を土手の斜面に沿って組み上げ、その上に妖魔を誘導したのだ
そして、妖魔が土手の上に乗り上げたところで、自らの足元の足場のみを消して 下に降りる
その結果、今茜の目の前には、妖魔の腹が無防備なままさらけ出されていた
「ヤァーーーー!」
掛け声とともにロッドの一撃が、妖魔の腹部に打ち込まれる
妖魔はあわてて後退しようとするが、それよりも早くロッドの二撃目がアッパーカットの様に下から妖魔を突き上げる
その反動で妖魔は、土手の上に仰向けに倒れ込んだ
無防備になった妖魔の腹に、トドメの一撃がうち降ろされる
そして妖魔は光の粒子となり、茜の指輪に吸収されていった




