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へべれけ!  作者: へべれけ
第3話
13/72

03-a2

小春日和の中、川に沿って歩く

川沿いに植えられた桜の木の幾つかは、既に花がほころび始めていた


途中公園のそばを通りかかると、立入禁止の札が建っていた

この前の妖魔との戦いで、破壊された広場を修復しているようだ

広場に穴が開いた理由は特定されていないが、水道管の破裂ではないかと地域のケーブルテレビのニュースに出ていた


因みに、妖魔に取り込まれていた人は、命に別状はなく、すでに退院しているという話だった


「お花見でもしよっか?」

急に茜がそんなことを言い出す


「花見か・・・良いんじゃないか?」

「だったらお弁当も作らなきゃね」

茜はそう言うと少し寂しそうに笑った


その後しばらく沈黙が続く

川沿いの土手の上を、まだ少し冷たい風が吹きぬけてゆく


「「ねぇ(なぁ)」」

2人の声が重なる


「何?へべくん」

「いや、茜こそ何だよ」


「私は別に・・・」

「俺も別に・・・」


嘘だ、そうじゃない

俺も茜も、わざとその話題に触れないようにしているだけだ


公園で妖魔と戦ってから1週間近く経っているが、あれ以来、妖魔は現れていない

また、あの夜以降あかねは妖魔の話をすることはなかった


一方で、俺のほうも情報が欲しいのは山々だったが、突拍子もない事態にどのように対応していいかわからず、積極的に動けないでいた


"いや、違うな"

俺の中にいるもう1人の俺が、冷酷に告げる


俺は動くのが怖かったんだ

記憶の一部が欠落し、自分が誰かも思い出せない状況で、しかも体は唯の小動物になってしまっている


もし、茜に拾われていなければ、保健所行きになっていた可能性は充分にある

それどころか、もし茜に出会っていなければ、あの時俺は、野良犬にかみ殺されていたかもしれない


だが、今は食べ物も住む処も有る

結局俺は、それらを失うのが怖くて、現実を見ないようにしていただけだ・・・


「ねぇ・・・へべくん」

そんなことを考えていると、再び茜が話しかけてきた


「多分近いうちに、また妖魔が現れる」


━━━━━━━━



茜が言うには、妖魔は大体1週間に一度位のペースで現れるらしい

その理由は茜にも判らない

当然かもしれない、この前の話を聞く限り、茜もまた巻き込まれた1人なのだ


ただ、この前妖魔が現れてからもうそろそろ1週間が経過する

だからまた近いうちに、妖魔が現れる可能性が高いと言う事らしい


急にあかねが立ち止まった

そして何かを決意した表情で話し始めた


「それでね、それで・・・」

しかし直ぐに口籠る

そんな茜の言葉を、俺はただ黙って聞いていた


その後しばらく沈黙が続く

川沿いの土手の上を、まだ少し冷たい風が吹きぬけてゆく


ふと、茜は空を見上げた

そして


「へべくんは、ここから家まで帰れるよね?」

急にそういうと、俺をその場に降ろして自転車で走り出す

その後ろ姿を、俺は黙って見送った




そうだ・・・俺は卑怯で臆病だった

なぜなら、俺は茜が何を言いたいのか判っていたからだ

それを判っていながら俺は・・・


俺の中にいるもう1人の俺が声をあげて嗤う


「茜!」

そう叫ぶと俺は、茜の後を追って走り出した

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