03-a2
小春日和の中、川に沿って歩く
川沿いに植えられた桜の木の幾つかは、既に花がほころび始めていた
途中公園のそばを通りかかると、立入禁止の札が建っていた
この前の妖魔との戦いで、破壊された広場を修復しているようだ
広場に穴が開いた理由は特定されていないが、水道管の破裂ではないかと地域のケーブルテレビのニュースに出ていた
因みに、妖魔に取り込まれていた人は、命に別状はなく、すでに退院しているという話だった
「お花見でもしよっか?」
急に茜がそんなことを言い出す
「花見か・・・良いんじゃないか?」
「だったらお弁当も作らなきゃね」
茜はそう言うと少し寂しそうに笑った
その後しばらく沈黙が続く
川沿いの土手の上を、まだ少し冷たい風が吹きぬけてゆく
「「ねぇ(なぁ)」」
2人の声が重なる
「何?へべくん」
「いや、茜こそ何だよ」
「私は別に・・・」
「俺も別に・・・」
嘘だ、そうじゃない
俺も茜も、わざとその話題に触れないようにしているだけだ
公園で妖魔と戦ってから1週間近く経っているが、あれ以来、妖魔は現れていない
また、あの夜以降あかねは妖魔の話をすることはなかった
一方で、俺のほうも情報が欲しいのは山々だったが、突拍子もない事態にどのように対応していいかわからず、積極的に動けないでいた
"いや、違うな"
俺の中にいるもう1人の俺が、冷酷に告げる
俺は動くのが怖かったんだ
記憶の一部が欠落し、自分が誰かも思い出せない状況で、しかも体は唯の小動物になってしまっている
もし、茜に拾われていなければ、保健所行きになっていた可能性は充分にある
それどころか、もし茜に出会っていなければ、あの時俺は、野良犬にかみ殺されていたかもしれない
だが、今は食べ物も住む処も有る
結局俺は、それらを失うのが怖くて、現実を見ないようにしていただけだ・・・
「ねぇ・・・へべくん」
そんなことを考えていると、再び茜が話しかけてきた
「多分近いうちに、また妖魔が現れる」
━━━━━━━━
茜が言うには、妖魔は大体1週間に一度位のペースで現れるらしい
その理由は茜にも判らない
当然かもしれない、この前の話を聞く限り、茜もまた巻き込まれた1人なのだ
ただ、この前妖魔が現れてからもうそろそろ1週間が経過する
だからまた近いうちに、妖魔が現れる可能性が高いと言う事らしい
急にあかねが立ち止まった
そして何かを決意した表情で話し始めた
「それでね、それで・・・」
しかし直ぐに口籠る
そんな茜の言葉を、俺はただ黙って聞いていた
その後しばらく沈黙が続く
川沿いの土手の上を、まだ少し冷たい風が吹きぬけてゆく
ふと、茜は空を見上げた
そして
「へべくんは、ここから家まで帰れるよね?」
急にそういうと、俺をその場に降ろして自転車で走り出す
その後ろ姿を、俺は黙って見送った
そうだ・・・俺は卑怯で臆病だった
なぜなら、俺は茜が何を言いたいのか判っていたからだ
それを判っていながら俺は・・・
俺の中にいるもう1人の俺が声をあげて嗤う
「茜!」
そう叫ぶと俺は、茜の後を追って走り出した




