突撃 カミカゼ ギア
「そう言えば兄貴、自慢の槍は?」
うぐ、不味いな。
この雰囲気だと……。
「ふふふ、良いタイミングで見つけたみたいね」
ブンッ
「危ない!」
シュッ
キキン!
不意を突いてリエに放った暗剣は、アキの投擲したリングに弾かれてしまった。
チッ、剣で受ければ爆発させたのに。
良い判断だ。
あのリングはチャクラムって奴か。
ブーメランみたいに手に戻っている。
「……やってくれるじゃない。今度はこっちの番よ」
怒ったリエが手を挙げると、周囲のプレイヤーが短槍を構えた。
え? あれ? これってもしかして……。
「「「「「【ブリューナク】!」」」」」
やっぱりー!
試合見て、選手のスキル鍛えたのはどこも同じか。
うおおおおお、200発のブリューナクはキツイって。
例えじゃなくて、槍の雨じゃん。
うわぁ、俺ってこんな厄介なスキル使ってたんだな。
まるで誘導ミサイルだ。
大雑把にだが追尾してくる。
しかも短槍は結構な数を用意してあるようだ。
魔法を打ち込んでみるが数十人がかりで防御された。
無詠唱なんだけどな。
あらかじめローテーションでシールド張っていたようだ。
どうりで魔法撃ってこないはずだ。
くそ、一旦地上に降りてギアを呼ぼう。
ブラフマーなら迎撃できるはず。
ちょうど下には森がある。
あそこに逃げ込もう。
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「あ、逃げた!」
「森に隠れる気ね」
確かに遮蔽物が多いと狙いにくい。
しかし、ある程度近寄れば問題ないはずだ。
「半数は地上から回り込んで!」
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ギアを呼んだのは良いが、思わぬミスをやらかしていた。
ヴァーユの補給を忘れていたのだ。
そんなわけで、タンクを開けてオーブをセットしていく。
敵が近づいている。
急がないと……よし、完了。
そしてタンクを閉めようとした時
カツン
「へ?」
それは全くの偶然だった。
上空の部隊が牽制に投げた短槍。
それが障害物にも当たらず、ヴァーユのタンクに飛び込んだのだ。
そして、ギミックを損傷させた。
ウィイイイイイン
「え? え?」
ボッ
そして訳が解らず困惑するフィオを乗せたまま、ヴァーユは暴発した。
ボッ ボッ ボッ
「オゴゴゴ……」
暴発を繰り返し、ロケットのように加速するギア。
背中のフィオにはジェットコースターを遥かに超えるGがかかる。
偶然にも、その方角は第4サーバーの拠点の方角だった。
取り残されてあっけにとられるベルク。
訳が解らず困惑する第1サーバー部隊。
正気に戻ったのはベルクの方が早かった。
主人が脱出できたのなら問題は無い。
自分がここで足止めすれば敵も追い付けないだろう。
自分がやられても直にプルートが合流するはず。
ベルクは風を纏うと、呆然としている敵に襲いかかった。
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ヒデとシアンはどうにか包囲網を抜け出し、拠点に撤退中だった。
防壁はすでに全面が破られ、防衛部隊は拠点に撤退していく。
2人も相当の仲間を撤退する時に失っていた。
防壁の自爆装置を作動させたので、第3のプレイヤーの被害も大きいはず。
最も死んでいなければ回復されてしまうが、その時間が貴重だ。
相手が体勢を立て直している間に、撤退を完了させなければ。
拠点は上位鉱石製の防壁で覆われ、ギミックも多数仕込んである。
ここへ逃げ込めば……
スドオオオン!
「???」
突然の轟音に皆が振り返る。
すると、防壁の残骸から砂煙が上がっている。
そして、そこから一体のゴーレムが飛び出してきた。
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「あたたた……」
ギアが防壁の残骸に突っ込んだショックで、フィオは投げ出されていた。
周りには、第3サーバーの仲間が唖然とした顔で立っている。
説明するより早く周囲を見渡す。
ギアがいない。
どうやら俺を振り落とした後、そのまま突っ込んで行ったようだ。
第4サーバーの拠点に目をやると、防衛兵器の集中攻撃を受けるギアの姿が見えた。
不味いぞ。
ギアのHPは全快じゃない。
俺は即座に飛び出した。
ギアのHPがどんどん減っていく。
間に合わないか……。
そこでふと思い出す。
以前渡されたスイッチを。
何か、逆転の手が隠されているかもしれない。
嫌な予感もビンビンだが。
騙されたと思って押してみよう。
ポチ
〈完全特攻形態『カミカゼ』起動〉
〈『アグニ』『インドラ』『ブラフマー』オーバーロード開始〉
〈臨界点到達を確認。突破まで10、9……〉
騙されました。
お約束の自爆スイッチだったようです……。
「……あの、クソ野郎ー!! やりやがったな!」
ああ、認めるよ。
薄々、そうじゃないかなーって思ってたよ。
でも、もしかしたらーって思いたかったんだよ。
〈8、7、6〉
不気味なカウントダウンを響かせながら、ギアが第4サーバーの拠点に突き進む。
両手と胸の宝石はひび割れて、そこからまばゆい閃光が放出されている。
〈5、4、3〉
拠点からの攻撃がドカドカ当たる。
しかし、ギアは止まらない。
すでにHPは0なのに。
〈2、1〉
勘付いたプレイヤー達が逃げ始める。
様子のおかしいギアとカウントダウン。
これだけ揃えば想像はつくだろう。
〈0、自爆装置『ニルヴァーナ』発動〉
次の瞬間ギアは小型の太陽になった。
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「……」
「何あれ?」
その閃光はリエ達にも見えた。
森の中で奇襲を仕掛けてくるベルクをなんとか倒したと思ったら、今度はプルートが現れたのだ。
瀕死とは思えないほどベルクは粘り、予想外の被害を受けた。
プルートも足止めに徹するつもりらしい。
兄を足止めするはずが、自分達が足止めされるなんて。
そう思っていた矢先の閃光である。
タイミング的に、まず間違いなく兄の仕業だ。
これだから行かせたくなかったのだ。
しかし、フィオが聞いたら首を振って否定しただろう。
犯人は俺じゃない。
俺は利用されただけで無実だ、と。
スイッチのお約束です。
極楽浄土へご招待。