封印再現
ハウルがシアンと戦闘に入ったころ、別の防壁ではバイトが猛威を振るっていた。
耐性に穴があればディザスター・ブレスの餌食となり、牙と尾はその巨体もあって凄まじい脅威だ。
シュルシュルと壁も上り、機敏に動きまわる。
しかし、プレイヤー達を驚愕させたのは、その回復力だった。
「くそ、何で死なない……」
「バリスタの傷が、もう消えたぞ……」
元々バイトはアクア・ヴェールによって強化され、高い防御力を誇る。
そこに、この回復力である。
プレイヤー達からすると、不死身の敵を相手にしているようだった。
「うわっ! また霧が!」
「風魔法早く!」
「呪い耐性のある奴集めろ!」
ミスト・ステルスやカウンター・カースも攻めにくくする要因だった。
プレイヤー達は持久戦に追い込まれ、ジリジリと消耗していく。
このままでは……。
そう思った時、ついに援軍が到着した。
「おらあああ!」
ザシュ!
援軍として到着したヒデは、自慢の大剣を振り抜いた。
バイトの体に大きな傷がつけられる。
強烈な手応え、これは……。
「へえ。お前、竜でもあったんだな」
第1サーバーのドラゴン・バスターは実はヒデだった。
偶然ではあるが邪竜に止めを刺したのだ。
愛用の大剣も邪竜素材製である。
銘は『竜大剣 ファーブニル』、竜槍杖には劣るが強力な魔剣であった。
しかし、渾身の一撃を受けたはずのバイトは平然と暴れ出す。
傷も見る見る消えていく。
ヒデも周囲のプレイヤーも果敢に攻めるが、押しきれない。
バイトもHPが減ると一度逃げ、ある程度回復すると襲ってくる。
手持ちのアイテムがどんどん減っていき、焦りが募ってくる。
そこに、声がかけられた。
「おい! こっちに誘導してくれ!」
声をかけたのはシアンだった。
援軍要請を受け、駆け付けたのだ。
ようやくハウルを撃退し、外に出たら今度はバイトである。
正直、勘弁して欲しかった。
ハウルだけでも相当の被害が出たというのに。
すでに仲間に事情は聞いてある。
普通の方法ではこいつは倒せないだろう。
シアンは決断する。
防壁を放棄する事を。
防壁にはいくつものギミックが仕込まれていて、どちらかというと武器に近い。
敵を誘い込んで倒すための処刑場のはずなのだ。
もったいないとか言ってはいられない。
今、確実に仕留めなければ。
シアンはオカルトに詳しい。
バイトの種族『アジ・ダハーカ』についても知識があった。
ゾロアスター教の大悪魔。
アジは蛇を意味するが、龍として描かれる事が多い。
無数の魔術を駆使し、殺す事ができない怪物だった。
しかし、英雄ファリードゥーンによって地の底に封印されたという。
ここのスタッフは神話に詳しい。
設定も神話にのっとっている事が多い。
ならば、似たような方法が有効なはずだ。
「こっちだ!」
逃げるヒデとシアンが指揮官だと判ったのだろう。
バイトが周りを無視して追いかけてきた。
2人は地下の倉庫へと走っていく。
バイトが地下に降りると、入り口は破壊され埋められた。
「おい、行き止まりだぞ!」
「大丈夫。資材を運び出すカタパルトがある」
ドガッ メキメキ
バイトが扉を壊して侵入してくる。
2人は急いで外に脱出した。
出口も急いで破壊する。
「これでどうするんだ? 時間稼ぎにしかならんぞ」
「こうするよ」
シアンは部下に指示を出し、防壁から仲間を撤収させる。
第3サーバーのプレイヤーは状況が判っていないようだが、むしろ好都合。
数カ所にある鍵となるブロックを取り外す。
ゴゴゴゴゴ……
ガラガラガラ
ギミックが作動し、その辺一帯の防壁が崩壊し始める。
これは簡易の自爆装置だったのだ。
地下の倉庫は瓦礫に押し潰され、バイトはペチャンコになっただろう。
そう思った時
ブシュウゥゥゥ
突然地下から黒いガスが噴き出した。
それはまぎれもなくディザスター・ブレスだった。
この状態でもバイトは生きており、戦意を失っていないのだ。
「おいおい、いい加減にしてくれよ……」
「魔法部隊! あの辺一帯に全力で火炎攻撃!」
100人近いプレイヤーによる一斉攻撃で、メテオライトやミスリルは溶解しはじめる。
溶けた瓦礫は、地下に流れ込み溶鉱炉のようになってバイトを焼き尽くす。
〈シャアァァァ〉
地下から響いてくる断末魔の叫び。
しばらくして、噴き出すブレスは止まった。
ホッと息を突く連合軍。
しかし、そこで気付く。
周囲はすでに第3サーバーのプレイヤーに囲まれ始めている。
防壁は失われ、アイテムは消費し、MPも使い果たした者が多い。
ヒデとシアン率いる連合軍は窮地へと追い込まれていた。
アニマルパニックみたいになってしまった。
アナコンダとか……。