初日の休息
防衛部隊がいなくなった防壁の南側は、徹底的に破壊して廃棄した。
俺個人の損失はともかく、脱落者は少なかったので全体的に見れば結果は上々だろう。
次からは直接拠点を狙える。
偵察のはずが防壁を落としてしまった訳だし。
でもまあ、アイテムの消耗はもちろんあるし、装備の整備も必要だ。
そこで、俺達は一端拠点に引き上げる事にした。
再利用されても厄介なので、防壁の残骸もできるだけ回収しておいた。
もちろん防壁の他の部分から資材を回して修復、という事も可能だろう。
しかし、それをやるには時間がかかり過ぎる。
もしやったとしても、代わりに薄くなった方角から攻めれば良いだけだ。
ヤドカリの殻にヒビは入ったのだ。
帰還した俺達は防衛部隊と情報交換をした。
ゼクが土下座した時は周囲にドン引きされたな。
俺だって引いたよ、別に怒ってないのに……。
そんなに俺って怖いかな……。
ネクロスもヴァルカンと同じく暴走っぽい死に方をしたようだ。
これって、もしかしてオリジナルの俺の所為?
無茶ばかりしている自覚は有るしなぁ。
第4サーバーの拠点の罠の事も説明する。
正直ちょっと侮ってたからな。
反省しないと。
他のメンバーも似た様に感じているようだ。
そして、全体としては上々の結果であると落ち着いた。
脱落者は100人程度で、拠点の損傷もキノコウォールが虫食い状になったくらいだ。
対して連合チームは、おそらく3000人近く脱落者が出ている。
別に全滅させる必要は無い。
フラッグを防衛できない程度まで弱らせればいいのだ。
おそらく実際の戦力は10000を切っているだろうし。
第2サーバーは2日も物資が持たないだろう。
反省会は終わり、食事の時間になった。
料理人プレイヤーこそいないが、料理の上手い奴は結構いる。
俺は、まあ、聞かないでくれ。
現実ではできるんだぞ! 一応。
夜間の警備は、昼間の待機組が行う事になっている。
リッチのアンデッドや夜行性のモンスターが巡回に出ているし。
俺からはバイトとハウル、フェイを出撃させた。
少数の見張りなど仕留めてしまうだろうし、大部隊だった場合すぐ知らせるように言っておいた。
そして、くれぐれも深追いし過ぎないようにとも。
フェイなら上手く2匹を抑えてくれると思うんだが。
なんだかんだで最古参だ。
種族がら知能も高いし。
夕食が進む。
酒も出ているので酔っ払う奴も出てくる。
こいつ(職人ギルドマスター 注:絡み酒)のように。
「おおう、飲まねえのか?」
「俺は下戸だ」
「大砲は良いよな」
「どっからその話になる……」
「俺は大砲が好きだ。ライクではなくラブだ」
くそ、うぜぇ。
っていうか、目の焦点合って無いじゃん。
逃げてもばれな……「おい、どこに行く!」、 ばれました。
「はいはい、何の話だっけ?」
「俺は前線に出ようと思う」
「話、飛びすぎじゃね!?」
いきなり何を言い出すんだこいつは?
どっから何でそうなったんだ?
「俺は大砲を愛している」
「それは聞いた」
「愛とは受け止める物だ」
「まさか、大砲の弾を受け止める気か?」
正気じゃないな。
ああ、酔ってるんだった。
いや、素面でも思ってるんじゃないか?
口にしないだけで。
「これを持って敵陣に乗り込む。敵は道連れにしてやる」
「これは、発信機か」
そういう風に使う物じゃねえだろ。
大体、どうやって敵陣に乗り込むんだ?
お前、戦闘能力は低いんだろ。
っていうか、いつの間にか空いたイスに話しかけてるし。
「シミラを借りる」
「シミラは死んだよ」
発信機のおかげでな。
生きてても、そんな風に使ったら死ぬし。
有効だろうが、やらせるのは外道の所業だ。
俺は敵には非情だが、味方には寛容でありたいんだよ。
「シミラ! 何で死んだんだー!」
「おいおい……」
ついに突っ伏して喚きだした。
付き合っていられん。
良い子の皆は、こういう酔っ払いになっちゃいけないぞ。
俺はアホを放置して寝る事にした。
こうして第3試合初日の夜は更けていった。
そして、外ではバイトやハウルが存分に狩りを楽しんでいた。
獲物が何かは言うまでもない。
ライクではなくラブでした。
方角がややこしいかな?