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暗剣爆弾

 竜の谷の最奥、大ボスのフィールドの前。

念のため、俺はフェイのスキルが使用できる時間帯近くまで待っていた。

もうすぐ日が沈むし、そろそろ行くか。


 他に討伐に来ているプレイヤーも多いが、チーム自体は少ない感じだ。

やっぱり、他のボスに比べると強いからな。

中級プレイヤーでは50人でも厳しいだろう。


 今は出場者は素材を融通してもらえるけど、やっぱり自分で集めたいという者は多い。

タダでくれる人に申し訳ないというか、1人のプレイヤーとしてのプライドだろう。

自分で集めた装備だからこその愛着もあるだろうし。


「コール フェイ プルート バイト」


 さて、やるか。

新アイテムのお披露目だ。


――――――――――――――――――――



 ファイヤー・ドレイクは竜の谷の支配者である。

設定上存在する古竜種を除けばドラゴンとしては最強だろう。

STは高く、AIも優秀だ。

50人のレイドパーティでも半端な実力では返り討ちだ。


 その強者は、現れた侵入者を見て侮辱されたと感じた。

自分の役目は現れた敵を全力で排除することだ。

だが、敵は事もあろうに1人で現れたのだ。


 3体(4体か?)の下僕を連れてはいるが、あくまで1人。

それで自分に挑もうというのだ。

侮るにも程がある。


 怒りのままに荒れ狂おうと、翼を広げて飛翔する。

すると意外な事に4体の敵の内、3体が飛行可能だったのだ。

唯一飛行できない3つ首の蛇も姿が見えない。

というのも、いつの間にか眼下は濃い霧で覆われていたのだ。


 嗅覚と聴覚でおおよその位置は掴めるが、やはり精度は落ちる。

蛇自身も静かに、しかも高速で移動しているようだ。

霧の中から水のブレスが放たれ、面倒この上ない。

しかも、空中の3体も相手にしなければならないのだ。

煩わしい。


 妖精とフードはけん制役で、攻撃役は翼を持ったプレイヤーのようだ。 

確かに強い。

STや武装を考慮しても異常にダメージを受ける。

何かの加護を受けているのだろう。


 と、突然プレイヤーが距離を取り右手の槍を投げつけてきた。

青白く輝く槍は、おそらく氷と水の属性を帯びている。

確かに当たればダメージは大きいだろう。

しかし、この距離で真っ直ぐ投げた所で回避は容易だ。


トス トス トス


 その時、翼に違和感が。

いつの間にか、翼に数本の刃物が突き刺さっていた。

直後、刃物が輝き破裂した。


ピキピキピキ


 刃物は砕け散り、その周囲を凍らせてしまった。

何だ? この攻撃は?


ドスッ


 しまった!

翼が凍ったせいで回避が遅れた。

突き刺さった槍は巨大化しており予想外のダメージを与えてくる。

圧し折ろうとするとプレイヤーの手に転移してしまった。


 ぬう、おのれ……。

プレイヤーは魔法とは別に手品のように刃を投じ、その隙に槍を打ち込んでくる。

さらにプレイヤーに気を取られると、けん制役の3体の攻撃を受けてしまう。

一撃はそれほどでもないがジリ貧になってきた。


 飛来する刃をブレスで撃ち落とす。

しかし、刃はブレスを突きぬけた。


 本来ならブレスは刃を撃ち落としただろう。

しかし、刃の纏う付加魔法が刀身を守ったのだ。

それは、無意味だったわけではない。

付加無しのダマスカスの刀身では、ファイヤー・ドレイクの鱗を貫く事は出来ないのだから。


 しかし、彼にとっての不運はこの武器は刺さらずとも起動できるということだ。

カキン、と弾かれた刃はそのまま爆発し、彼の体を凍て付かせる。


 ファイヤー・ドレイクも、自分が追い詰められている事を自覚していた。

おのれ、ならば奥の手だ。


ボウッ!


 自身を火の玉に変える炎の鎧。

攻防一体のこの能力は破れまい。

黄昏の空に、自分が太陽になったような錯覚すら覚える。

さあ、逆襲の時だ。


 そう思った瞬間、全身から力が抜けた。

炎の鎧は消え去り、脱力感に混乱する。

何だ、これは?


 ふと見ると、妖精の藍色の翅が輝いている。

さらに、空から同じ色の光が降ってきている。

これはあの妖精の仕業か!


 思うように動かない体を鞭打って、妖精に飛びかかろうとする。

しかし、突然体が後ろに引っ張られる。

尻尾の痛みに後ろを見ると、そこには3頭の蛇が噛みついていた。


 しまった、高度を下げ過ぎたか。

しかも蛇は、槍のように尖った尾を地面に刺してアンカー代わりにしている。

不味い、力負けする!

さらに、止めの様にフードが鎌で翼を1枚切り落とした。


グンッ


ズドオオオオオン


 地面に引きずり降ろされてしまった。

衝撃に一瞬動きが止まる。

その隙を突いて蛇が巻きついて来た。


 パワーダウンした状態では、蛇の締め付けを振りほどけない。

それどころか、ほぼ完全に耐性を持っているはずの毒に、体が侵され始めている。

状態異常耐性まで弱体化されているのか。


 何とか身を起こした瞬間、目の前に迫るのは槍の切っ先。

万色が揺らめくオーロラを纏った槍は眉間に突き刺さり、頭部をぶち抜いた。

それが、ファイヤー・ドレイクが認識した最後の光景だった。


――――――――――――――――――――



 ふう、なんとかなったな。

ファイヤー・ドレイクのソロ討伐に成功したフィオ達。

一応使えそうなナイフは回収している。


「ソロ報酬は『モンスター・マスターの称号』だと?」


 その効果は、使役するモンスターのパワーアップだ。

従魔、使い魔、召喚獣、アンデッド支配、関係無しのようだ。

悪魔やリッチにとっては、とんでもない効果になるな。


 リッチレンジャー達に手に入れてもらえれば、50体を強化できて凄いんだがな。

あいにく称号は譲渡不可だ。

かと言って、ソロ討伐は難しいか……。



 まあ、いい。

明日から拠点に侵入可能になるんだ。

拠点の改造はすぐに始まるはず。

だが、拠点っていうか要塞ができそうな気がしてならない。

しかも攻撃重視のタイプ。

味方をちゃんと守れるものにしないとだと思うんだがな。


たまにはモンスター視点でいきました。

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