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第一話「純白のドレス」

 パールで飾られた豪奢な白いドレスを見て、エミルは目を瞬かせた。

 この数年間、女王陛下からのご依頼は来ていなかったのに。

 ドレスをトルソに纏わせて布地を確認する。パールを繋いでいた糸が切れて、本真珠は床に転がった。つないでいた糸がだらりと下がる。

 よく見れば、薔薇のコサージュで隠されている胸元にも、小さく茶けたシミがあった。

 大分あちこち傷んでいるみたいだ。

 エミルは、いつも以上に慎重に、そのドレスを扱った。


 生地と装飾は繕い終わった。問題は、この後だ。

 何が起こったのか知りたいがために、女王陛下は繕い屋の下に、ドレスをお任せに成ったのだろうから。

 トルソから外したドレスを、作業台の上に乗せ、服の肩を叩いた。


 服が、誰か着ている様に膨らんで、動作を始めた。

 エスコートされて、静々と歩いている。

 ある位置でピタリと止まり、誰かと向かい合う。

 神父の、誓いを問う声が聞こえた。

 結婚式のようだ。

「はい。誓います」と、ドレスの持主は答えた。

 それから、隣にいるお相手と、口づけを交わした。


 至って平和な式のようだった。


 神父の前を離れる時、ドレスは何かに躓いたように、大きくうねって、その身は床に伏した。

 受け身を取り損ね、胸から床面に着地する。

 ドレスが身を起こすと、胸のコサージュからピンが外れていた。

 そこまでを再現すると、衣服はくしゃりと脱力した。


 エミルは僅かに眉を寄せ、「術」の解けた衣服を持ち上げてみた。

 薔薇のコサージュの、ピンの先端が無くなっている。

 探してみると、ピンの先端は服の中から見つかった。

 細く丈夫だったコサージュのピンは、新婦の胸の中に残って全身を巡り、各所で臓器に傷をつけたのだろう。

 エミルは、数ヶ月前の伝聞紙を広げた。

「新王妃、挙式間もなく非業の死を遂げる」

 女王陛下の知りたがっていた謎は、これだろう。


 エミルは手紙を書く。

「新王妃となるはずだった、女性の不運について。

 彼女が胸に付けていた、薔薇のコサージュのピンの先端は、『少しのショックで折れるよう』に、細工が成されていた。

 そして教会の中の、新婦が歩く側の数ヶ所に、『躓くような凹凸』が用意されていた。

 咎は、この二つの要点を用意できる者へ」


 数日後、新婦に薔薇のコサージュを贈った女性と、会場の設営を行なったプランナーの一人が、訴えられた。


 後日、王室に送り返されて来たドレスを受け取った女王は、「やっと貴女も、役目を終えたのね」と、白い花嫁衣装に声をかけた。

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