海からの襲撃
太陽が日没して、闇が広がった頃 宿の中
夕飯を済ませた岳斗たちは受付に部屋を一泊予約してもらい、部屋割りを決めるところだ。
「部屋が2つね。 それぞれベットが3つ。 男子と女子に分かれるパターンかしら?」
「よし、シャルル。 俺が子守唄と華麗な手捌きで夢の世界に案内してやるぜ。(ぐへへへ……。 こりゃ、お触りパラダイスだ)」
「おい、ゲロ以下の匂いがブンブンしてくるぜ、変態野郎。 ジェシカと寝ることにするわ」
「ガビーん。 OH,NO! ガッデム!!」
「じゃあ、岳斗、レオ、ダニエルがあっちで、後はそっちってことね」
「ええ。 では、最初の見張り2人はどうしますか?」
話し合いの結果、アレキサンダー→ジェシカ→レオナルド→ダニエル→加那江→シャルル→岳斗で2人交代制に決まった。
深夜、宿 多種にわたる色の星が夜空に輝いている。 部屋には岳斗の寝息が漆黒の中を彷徨う宝石を慰めるように奏でている。 襲撃に備えて、レオナルドとダニエルが寝ずの番をしていた。 1時間後にレオナルドは加那江と交代する予定だ。
2人は丸い星々を見ながら、退屈を紛らわすために色々話していた。
「星が綺麗じゃな。 これで酒が飲めれば、いうことはないんじゃがなあ……」
「ふっ。 そうだな」
「しかし、襲撃かあ。 虎とどう繋がっていくんだろうな」
「それはまだわからんが、おそらくあの教祖が鍵を握るのだろう。 おばあさんの話によると津波を止めたのも太陽が隠れるようになったのも教祖が現れたタイミングだ」
「そうじゃな。 しかし、教祖が怪しいとも限らん」
「教祖といえば、7日間行方知れずだったな。 預言をもらうために特定の場所に行ったか、あるいは……」
「それ以上は憶測の域を出ないが、気にはなるな。 しかし、津波と太陽喰い、か。 老婆の話によると太陽が隠れた時にひどく驚いたそうじゃ。 津波とは関係ないのか……?」
「うーん。 仮に喋れたら、魔物たちに話を聞いてみたいところだな。 少なくとも津波のことは詳しく分かりそうな気がする」
「うん……。 ところでレオナルドとジェシカはどういう馴れ初めなんだ?」
「えっ……?」
「わしもマリアとの馴れ初めとかを話したじゃろ? お主のも気になってな」
「ああ……俺が26の時に、庭に呼び出されてプロポースされた。 ジェシカがいうには自分が8歳の頃に自分が奴隷商人に誘拐されそうになったのを俺に助けてもらった時に一目惚れしたそうだ。 馬に乗って、自分をひょいと引っ張ったのがまるでお話に出てくる王子様みたいで俺の前に乗っている間、ドキドキが止まらなかったみたいだ」
「ほお……それでどうしてお主はOKしたんじゃ?」
「これは話すと長い。
ジェシカが8歳の時、俺は15だったから王国を守る兵士として遠征やら訓練やらで大忙しだった。 ある日、1ヶ月ぶりの休息日だったから、街で遊ぶことにした。 そんで、友達を誘って、カジノに行った。
まあ、2人とも若きの至りでオールインして見事に玉砕してしまってな……。 まだ日も暮れずにトボトボ帰っている時に偶然城下町の人と楽しく話している女の子を見かけた。 それをみているうちになんとなく心があったかくなってきた……。 今思えば、これが恋というものだったのだろう。
その数日後、遠征に行くことになって、軍列で馬に乗っていた時に悲鳴が聞こえたので、見たらあの女の子だった。 俺たちはすぐさまに司令官の指揮で商人をボコボコにして、その子を誘拐から救った。 あとでその女の子が皇女だと分かって、目ん玉が飛び出るほど驚いた記憶がはっきりあるぜ」
「互いに一目惚れだったのか……。 そいつあとんでもなくロマンチックじゃ!! 運命ってどうなるか分かったもんじゃないのう。 ふふふ、面白い」
「同感だ。 それにクリスとも出会えたのだから、感謝せねばな」
そこまで話して、レオナルドは時計を見た。
「おっ、そろそろ加那江を起こしてくるか」
「いや、わしが行くぞ。 お前は寝てくれ」
「そうか、悪いな。 じゃあお先に」
レオナルドはそう言うとベットに行き、布をかぶって寝始めた。
ダニエルは立ち上がって、女子の部屋に行った。 そして、入室して、加那江を揺さぶった。
「加那江、交代の時間じゃ。 起きてくれ」
「んー。 分かったわ。 ふああ……」
加那江が万歳するように腕を上に伸ばして、あくびしたその時、突然浜辺から何かが叩き壊される声がうっすら聞こえた。
「!? 今のは……」
「もしかして! あの魔物たちかも」
「なんと! おい、みんな起きろ! 大変だ!!」
ダニエルの声掛けで女子たちとシャルルは全員起きて、緊急事態を理解した。
同時に髪が乱れている岳斗と、レオナルドが部屋に入ってきた。
「みんな起きているか?」シャルルが点呼を取った。
「はい。 すぐに出発しましょう!」
「確か浜辺から聞こえたわ。 急がないと大変なことになる!」
深夜 浜辺入り口
一行が音が聞こえたところに駆けつけるとそこには津波防止バリゲートを壊している鮫、イルカ、クジラなど、色々な体型の魚獣人たちがいた。 すぐさま、岳斗が複雑そうな顔を浮かべながら声を上げた。
「おい! てめえら……。 退くなら今のうちだぞ。 でねえと仲間達がボコボコにしてしまうぜ」
しかしながら、岳斗のかすかな希望は理不尽にも吹き飛ばされた。
「あんだと!! よそ者がしゃりしゃりでてくんじゃねえよ! この野郎、ぶちのめされたいか?」魚獣人が険しい顔をして言い放った。
「あらあ……。 だめだこりゃ」
岳斗がちょっと残念そうな顔をしている横で薙刀を構えているジェシカが腹から声を出して言った。
「貴様ら! この村の人たちに危害を加えているそうだな。 まとめて来い、成敗してくれるぞ!」
奴らどもは鋭い目と牙を覗かせて、一斉に岳斗たちに飛びかかってきた。
レオナルドが間も置かずに火矢を空中に射る。
「ラージス・フディラ!」
レオナルドが作った花火が燃え盛る流星群となって奴らに落ちてきた。 悲鳴が上がったり吹き飛ばされたが次々と新たな仲間達が砂浜を埋め尽くすように上陸してくる。
「うお! こりゃとんでもない数じゃ! テラキュダス・ラサシェ!」
ダニエルが地面をハンマーで叩いた。 砂が棘になり、奴らを突き刺さんとした。 しかし、棘が体を擦りながらも彼らは怯むことはなかった。
「くそ、痛え! おい、てめえら、とっととやっちまえ!」
「おっと、そうはいかんわい。 シノビファントム!! 出番じゃよ」
ダニエルがニヤッとしながら腰のバックからクナイ型の爆弾を取り出して、奴らの足元に投げ刺した。 すぐさまクナイが爆発して、灰色の霧が奴らを覆った。
「なんだ!? 何も見えん!」
混乱する彼らに忍びが灰色の霧を纏って攻撃してきたので、奴らは反撃したが、奇妙なことにその攻撃は忍びに当たらないどころか、すり抜けてしまった。
「な!? こいつら、幻影だ!」
「おい、ひとまず脱出するんだ!! 俺の嗅覚だと海はこっちだ」
「てめえら、区切り直しだ。 海に行って、霧が晴れたあと、反撃するんだ!!」
奴らは連携の取れた動きで素早い撤退を披露したが、そこまでは甘くない。
「どこに行くんだい、逃がさないよっ! バブルグラビティ!」
アレキサンダーが泡を逃げる奴らに発射して、奴らを残らず閉じ込めた。 暴れ回るが、泡はちっとも破れない。
「くそ! こうなったら煮るなり焼くなり好きにしやがれってんだ!」
「本当に好きにしていいのか……?」
岳斗が顔を少し赤くしながら言ったのをシャルルが呆れてツッコミした。
「ぜってーそう言う意味で言ったんじゃないだろうよ」
奴らが暴れ回っていると突然ビリッとした声が響き渡った。
「おい、てめえら! 海の民たるもの、死す時は無様にもがくな。 星に祈って、待つのだ」
その瞬間、奴らは一斉に黙って、おとなしくなった。 どうやらさっきの声の主はこの集団をまとめるボスであるサメ獣人のようだ。 マッチョで左肩に大きく目立つ噛み傷があった。
ジェシカが閉じ込められているボスの1人の前に立って、質問した。 そのサメは泡の中で胡座をかいて、ジェシカを見上げていた。
「貴様らはどうしてこんなことをするというのだ? どんな事情があるのか?」
「……奴らが裏切ったからだ」
「裏切った?」加那江が疑わしく呟いた。
「ああ、俺たちは俺たちをタマゴから産んでくれた母でもあり、ボスであるこの星と共に海の中で生きていたんだ」
「星が産むのか? 生きている……?」シャルルが心底驚いた顔を浮かべた。
「そうだ。 俺らは海底の砂の中で卵として生まれ、数週間後に卵の殻を破って、この広い海を泳ぐのを一生にしている。 そして、俺たちの母であるこの星にお祈りしている」
「じゃあ、津波ってもしかして?」今度は岳斗が質問した。
「それは母の心臓である星の核の鼓動だ。 しかし、それは250年前から段々と弱まってきている」
サメはそう言って、村の方を指差した。
「あいつらも元々は海の中で生きる民だった。 しかし、太陽が隠れる奇妙な現象が起きてからは陸に上がるようになってしまった」
サメの告白を聞いて、一行は驚いて、村の方を振り向いた。 アレキサンダーが振り返って、質問した。
「陸に上がることが裏切りなのかい?」
「いや、それ自体は裏切りではない。 母でもあるこの星を死の危険に晒していることが裏切りなのだ」
「死だと?」
「ああ、この星は誕生したその時から全て海に覆われていた。 いわば、彼女は海によって、守られたとも言える。そう言う意味じゃ、海は俺たちの父だ。
しかし、あいつらは母と父を引き離して、死星と死海にしようとしている……。
実際、陸が地上に上がり始めたのは250年前からだ」
「なるほど。 とすると、この星が海ではなく空気に触れてしまうと乾燥して、命が弱まるということで合っているか?」
レオナルドの推理にボスが感心した。
「おお、お前はなかなか頭が回るな。 正解だ。 俺たちは星と家族を守るために地面を崩して、海が入ってくる様にしたり、津波を防ぐバリゲートを壊したり、陸に上がった奴らを海に引き摺り込んだりして、この星の死に対抗しているのだ」
「なるほど、大体事情はわかった。 でもあの人たちを無理やり海に引き摺り込んで、窒息死させるのはいい考えではないよ」
「ぬ……? 窒息などしていないのだが」
「なんだって?」
「ああ、引き摺り込まれるうちに呼吸ができることを不思議がって、自分が海の民であることを体が思い出す様だ。 そこから、今の説明をして、他の村に行ってもらって、同じように引き摺り込ませていると言うわけだ。 信用できんなら俺たちの住処である海中遺跡に行ってもらおうか。 そこに陸で生きた奴らがいる」
「なんですって!?」
加那江は驚きの一言を言い放った後、みんなを集めて、囁き声で言った。
「みんな……これは明らかに罠よ。 いくらなんでも信用できないわ。 海は奴らのホームみたいなものよ。 海か海中遺跡で私たちを皆殺しにするでしょうね」
「うーん。 そう言われるとおかしくはないな」
「わしは大丈夫だと思うがな。 120年間の経験から考えると、奴らは嘘をついていないだろう。 それにいざという時はアレキサンダーが泡で閉じ込めればいい」
「あたいの泡は深海では無理だよ。 あたいが泡を作るときに海の圧力に対抗して泡の形にしなきゃならないからね。 あまり深いとものすごい力になってしまう」
「そうなのか。 ムウ……」
「シャルルがワープすればいいんじゃないか? ワープ魔法持ってたろ? 俺と加那江とお前3人を月から地球まで送ったよな」
「おお! そう言われてみれば。 それに酸素補給魔法もあるぜ!」
「つうわけで加那江、心配しなくていいぜ。 行こう!」
加那江は尚も疑っているような顔をして反論を考えたが、諦めたように吐き捨てた。
「……まあ、確かにいつでも逃げられるなら」
「な! それに獣愛好家の俺としても奴らは根っこはいい奴らと言うセンサーが出てるぜ!! ふふふ、体がモチモチともふもふの獣に悪いやつはいないとはよく言ったものだな」
「誰が言ったんだ?」レオナルドが心底知りたそうに質問した。
「そりゃ、俺だな」
「……………………」
岳斗の迷セリフにシャルルが冷たい眼差しを向けている。




