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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第一章 少年の中で廻り出す運命の歯車
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少年 裏世界に入る

 こうしてその日は美人の転校生の話題で持ちきりになった他、何も変わったことはなかった。


 放課後、友人たちとたわいもない話をしたあと、一人見なれた風景をぼんやり眺めながら、帰路につく岳斗。 今日の予定を頭に思い浮かべている。


「今日は剣道の練習もないし……オンラインFPSゲームでもするかね。あの金ピカヘリをどう撃ちおとしたもんか……」


 ふと岳斗は100メートルほど先に山を神妙に見上げている加那江の姿を目に留めた。 なんとなく加那江の真剣な態度が気になり、ちょうど横にあった木の陰にかくれて観察を始めた。


「ここか……裏世界に通じる白いゲートは。 どうやらここをまっすぐね」


 そう言うと加那江は山に入っていった。


「あれ……? そこって普通に鹿とか猪が出てくるよな? 危険だ、止めてくるか」


 岳斗は加那江の行動に不思議がったが、彼女が山の危険を知らないという結論を出して、加那江を止めようと後を追った。 山に入ると、目の前に白いゲートが空中に浮かんでいた。 驚き、周りを見渡すが、加那江はいなかった。


「なんだ……? この白い輪っかみたいなのは……それに加那江がいねえな。 まさか、あの中に入ってしまったのか?」


 しばらく迷ったが、加那江が白いゲートに入ってしまったのだろうと結論づけた。


「……入ってみるか」






 加那江を連れ戻すことを決めた岳斗が謎の入り口に左手から触れた時、目の前が白くなるもつかの間、元の風景に戻った。 岳斗は周りを見渡し、首を傾げた。


「? 今のは何だったんだ。 夢とも思えんし、少し探索してみるか」


 そうして、見知った道を歩くと違和感に気づいた。


「変だな……誰にも会わねえ。 この辺りはいつも農家のばあちゃんがいっぱいいるのに」


 気のせいだと思って、なおも歩いて、商店街にさしかかる。 商店街には店のシャッターは空いていたが、店員や客が1人もいなく、まるでゴーストタウンのようで、不気味に感じられた。 生きていて今まで出会ったことのない怪奇現象に恐ろしがっている時、岳斗はふと得体知れない殺気を感じた。 同時に空気を切裂く音が聞こえて、岳斗は三歩前に走りながら振返った。 そこにはかまいたちを腕に取ってつけたような姿をしている緑色のゴブリンが立っていた。 彼は鋭い歯を光らせて、岳斗を殺そうと彼を見据えた。 岳斗はあまりの非現実的な生物に驚いた。


「!? 何だ? ゴブリンとかまいたちが合体したような……? RPGじゃあるまいし」


 腕を鎌にしているそのモンスターは耳をつんざく高音とともに、ジャンプして岳斗目がけてー直脈に鎌をふりかざしてきた。


「キィィ キウーッ!」


「やべ、逃げなきゃ!」


 岳斗はこの突然な攻撃を後ろにかわし、そのまま背を向けて走るが、奴も鎌を振り回しながら追いかけてくる。 逃げ回っている間、何か武器になるものを探していた。


「ヤベーな。 何かリーチがある武器、無えのか……?」


 無人のパイプ屋にちょうど竹刀と同じような長さのパイプを見つけた。


「パイプが積んであるな。 しかし、店のもんを勝手に使っていいのか……? ……悪いが、今はこれしかねぇ」


 パイプを持って、ゴブリンと向かい合った。


「さてと……剣道はそれなりにたしなみがあるが、人外に通用するか?」


 数年間地元の道場で習っている剣道の構えでパイプを持った岳斗は呼吸を整えながら、ゴブリンを観察している。 ゴブリンは岳斗の足を切ろうとかまいたちを振り翳して、低空躍走してきた。


「ウォエア――!」


「はっ!」


 岳斗はゴブリンの動きを読みきって、切りかかるタイミングでシャンプした。 その勢いで、奴の首を狙って回し斬りをヒットさせた。


「ウクエ! オァ……」


 突然の反撃に白目をむきながら倒れた。 ゴブリンに一瞥して、一息ついた。


「やれやれ、こんなもんか」


 岳斗は加那江を思い出し、探索を再開した。 加那江が危険な目に遭っていないかを心配した。


「あっ、思い出した。 加那江はいったいどうしてるんだ?」


 その時、地面をゆらがす轟音が聞こえた。 遅れて、加那江の苛立った声が聞こえた。


「ちっ……めんどい敵ね。 このままじゃキリがないわ」


「今のは……ええい四の五の考える前に助けるッ!」





 岳斗は声が聞こえた方向に走って行った。 加那江のところに着くと建物の影から化け物が見えた。 2つの穴から赤い目を大きく覗かせる白い鴉のお面と下から生えている10本の黒い触角。 2本を足にして、残りの腕で加那江を突き刺そうとしている。


 加那江はかろうじて避けながら、反撃の機会を伺っている。 岳斗は一瞬、目を見開いて、息を飲み込んだが、加那江を助けることに集中した。


「おい! こっちも相手だぜ!」


 そして、奴の足に気合いを入れた回し斬りを発揮した。 衝撃音と共にパイプが折れ曲がってしまったが、加那江から気を逸らすことには成功した。


 加那江は岳斗の思いがけない登場に驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「! って、驚いてる場合じゃないわ」


 奴は岳斗の奇襲にバランスを崩した。 加那江がその隙をついて、奴の片目を双銃で撃ち落とした。


「岳斗! これを使って」


 加那江は腰につけていた短剣を抜いて、岳斗に綺麗な放射線を描きながら投げた。 岳斗は見事に刀を受け取って、怪物に向かって構えた。


「おうよ! しっかり受け取ったぜ」


「岳斗 奴の弱点は赤い目よ。 私は目に狙いをつけるから、あなたは足をひきつけといて!」


「なにっ? まあ やるだけやってみるか」


「銃では撃ち落とせないけど、その剣で足を斬れるわ。 じゃあ任せた」


 生まれてこの方一度も遭遇していない状況に少し戸惑いながらも、目の前に集中した。 加那江は弾幕を張って、奴の足の3本を目の保護に専念させた。


 岳斗は残り7本の触角と向き合う。 二本の足がそれぞれ岳斗の左腹、頭に襲いかかる。 右に避けながら、頭を狙った方を切り落とした。


「うぉ、あぶねえ。 あと6本……」


 岳斗の思いかけない反撃で生まれた隙を逃さなかった。 一歩踏み込み、さらに2本切りおとし、後ろに下がった。


「よし、あと4本」


 その時、2本の足が岳斗の急所を刺すべく、今まさに地面スレスレから急上昇しようとしていた。


「はっ! 危ねえっ」


 岳斗はこの奇襲に驚きながらも足を大きく蹴って、バク宙した。 同時に体をひねって、2本を回し斬りしてから右足を折りたたむようにして着地した。


「へへ、あと2本だぜ。 覚悟しやがれってんだ!」


 しかし、目を隠している一本が攻撃の姿勢をあらわにした。


「げっ……! やべえ!!」


「化け物め、油断したわね。 今、その馬鹿でかい目を打ち落としてやる! カドリングスコール!」


 加那江の銃から高速順回転した無数の弾が目に襲いかかる。 奴の大きな目は3本以上の足がないと隠すことは不可能だ。


「ぎぃやあああ!!」


 魔物は目をつぶされて、苦痛そうな断末魔をあげた。 燃え尽きた灰のようになり、風に吹かれ、消え去ってしまった。 戦いを終えて、一息ついた加那江は岳斗を睨みつけて、口を開いた。


「ふう……。 とりあえず助かったけど、あなたはどうしてここにきたの!? ここは危険な世界なのよ!」


「え……? 俺はただ加那江が山に入るのを止めようと後を追って、この世界に入っただけだ。 なあ、この世界ってなんなんだ……? 加那江はどうしてこの世界で戦っているんだ? 教えてくれないか?」


 加那江はしばらく岳斗を睨み続けたが、岳斗を諭すには本当のことを説明する必要があるという事を悟り、話し始めた。


「……わかった、話すわ。 でも、今から話す話はだれにも言わないでほしいの。できれば二度と関わらないほうがいい。 今、世界は滅亡の危険に瀕してるの。 とある邪悪な組織の手によってね。 今戦ったモンスターは彼らが人体実験の末に生み出したもの。この世界はそんな危険なモンスターだらけの世界なの。 奴らは私たちの世界に侵入してきて、人々を滅ぼそうとしている。 そして、私たちは世界を守る使命を課されているわ。 でも、あなたは関係ない。 今すぐ元の世界に送り届けてあげるわ。 そして、全て忘れなさい」


「事情は分かった。 しかし、俺が他の人に全て任せて、のうのうと生きてられる神経を持ったやつに見えるか?」


「この戦いでは人は簡単に死ぬわよ。 逃げて、祈るのも勇気じゃなくって?」


「……悪いが、そんなのガラじゃない」


 岳斗はそう言って、じっと加那江の目を見つめる。 沈黙に耐えきれなくなった加那江が目を逸らして、ぶっきらぼうに言い捨てる。


「……分かったわよ。 ただし、少しでも足手纏いになったら、そこであなたの冒険は終わり。 分かった?」


「ああ」


 加那江は携帯を取り出して、向こうの人と話し始めた。


「もしもし、昨日から追っていたターゲットは倒したわ。 ところで、結社のアジトは分かった?」


「今まで倒したモンスターの遺伝子を調べたら、レゴリスの成分を含んでいた。 おそらく月のどこかで生み出したのだろう」


「そう どこにあるかは見当がついたりしない?」


「月自体には移動魔法で行けるが、どこにアジトがあるかはわからん」


「わかった。 遠くはないと思うから改めて探してみるわ」


「ああ 分かった。 じゃあ入り口で待ってる。 ん? なんだ。 あの馬鹿でかいのが入り口を塞いでいる?」


「どうしたの?」


 その時、電話の向こうで爆音が轟いた。


「なっ!? まずいことが起きてる?」

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