調子に乗ってました。
そうすると、今まで陰の存在であった私も少しずつ表に出なくてはいけなくなりました。
元締めの仕事は人に会って挨拶をしたり、何かあれば仲立ちをしなくてはならないのです。
あれから数年経ち、社交界では私のことを覚えて居る人もいないでしょう。それもここは歓楽街という平民の住居エリアです。だから貴族は関係ないはず。
ですが、いわれのない罪であっても私は罪人です。
仕方なく面会時は私は顔を仮面で隠し、エルに同席をお願いしました。
もう、私はお嬢と呼ばれることはありません。
侮られるといけませんから、男女どちらとも取れるようにディーと名乗り、仲間からも呼ばれるようになりました。
これからはディーとエル、アルファベット二人組でこの街をもり立てていくことになります。
その体制で行くと決めたら突然元締めは引退すると言い出しました。
10年私の働きを見ていて任せたいと思ってくれたそうです。
そして、ゆくゆくはエルと一緒にこの街を守って欲しいと言われ、私は困りました。
エルと私はそんな仲では無かったからです。
そもそもエルは守ってあげたいような自分より小さい子が好きでした。
今でも私の方がエルより少し大きいですし、こんなずっと戦い続けてきた女はエルの好みとは違い過ぎます。
そう言うと元締めは、いえ元元締めは「わかってるよ。仕事上のパートナーとして一緒にやってってくれ。」と、ありがたいお言葉をくれました。
そうして街のトップになってみると今まで見えていた景色と全然違うことに気づきました。
この歓楽街という箱庭の中だけ気にしていられたのですが、そういう訳にはいかなくなりました。
いかにここが、国一番の栄えている街とは言え、メニスカス国の中の街の一つでしかないのです。
街の代表として国のお役人と会わなくてはならないことも出てきました。
また、他国からも我が街の繁栄を参考にしたいと訪れるようになりその対応もしなくてはなりません。
最初は私だとばれてしまうかもしれないと怯えてはいましたが特に何も触れられませんでした。海千山千の元締めに比べて20代の小僧・小娘が代表者になることで侮られたり、無理難題を言われたりしないか危惧しながらいざ面会すると、「堂々としてますね。」とか、「話しが早い。」とか「こちらの立場を判ってくださる。」とかべた褒めされて面食らう結果になりました。
「堂々としている」そう見えるのは、曲がりなりにも公爵令嬢を16歳までやっていたからでしょう。どんなにビビっていても知らんぷりする面の皮の厚さは自信があります。
「話しが早い。」のは、この10年の実務経験で鍛えられたからでしょう。
「こちらの立場を・・・。」は、10年前に父について色々地方を回った経験が役立ったのかもしれません。付いて回った時、事務官か?と思うくらい資料作りにこき使われましたから。
あの頃は本当に辛かったのですが、その経験が私の血となり肉となり私を支えてくれています。10歳からの6年間で人生の不幸を纏めて体験したと思える程、今の私は幸せで充実していました。
ずっと、このままで良い。
いや、このままが良い。
そんな風に思った私はすっかり忘れてしまっていたのです。
油断するとしっぺ返しがくる。
そうあの6年間で学んだのに、うっかり油断して満足してしまった私をあざ笑うかのように次の問題が起きました。
 




