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★ 後編



「あなた達も1度お家にお帰りになられたら? あなた方の言動も、逐一両家に伝えられているでしょうし。今頃マイク様同様に、婚約の見直しとか、後継ぎの話し合いとかされているのでは?」

 嫡男でなければ、自分の娘婿になる男を査定されているだろう。家督を継がせて良い男なのか。非となれば婚約は白紙に戻り、娘にはここで査定した、他の良い男をあてがうに違いない。


「「……っ!」」

 エレトーンの言葉と周りの視線に、やっと現実を把握した残りの取り巻き達も、いてもたってもいられずバタバタと会場から出ていったのであった。



「あぁ。そうそうアラート殿下と……?」

 出て行ったのを確認すると、わさとらしくカリンをチラリと見た。名前を覚えてはいるが、自分から口にはしたくない。

「カリンよ」

 味方がいなくなり、唯一のアラート王子にしがみつく。

「私との婚約を無かった事にすれば、結婚出来ると思ってらしたけど……少しだけ勘違いなさってますわね」

 と扇の先を顎において、小首を傾げた。

 どうも話が噛み合わないからだ。まるで、自分と婚約の解消をすれば、2人は結婚しカリンは王妃にでもなれるかの様。

「勘違い? あなたと婚約を破棄すれば、私達は結婚出来るのよ? 私は未来の王妃なの。無礼も程ほどにした方がよろしくてよ?」

 カリンはわざとらしく、エレトーンの口調を真似てみせる。

 自分とアラート王子が婚約を解消すれば、自分達は結婚出来ると思っているらしかった。



「はぁ……あなた達、本当に何も分かっていないのね」

 エレトーンは呆れていた。知らないにも程がある。

「どういう事だ」

 この国を担う王子なのに、何も知らなくて呆れる。

「もし、アラート殿下に何かあったとして……弟殿下、アレックス様がいらっしゃいますよね?」

「俺に何かするつもりか!」

「……っ! 最低!」

 話にもならないみたいだ。何かをする訳がない。せめて最後まで話を聞いてくれませんかね?

「何もしませんよ。バカバカしい」

 どうしよう。説明が面倒くさい。お家に帰ってご両親こと、陛下達に訊いてもらおうかな?

「要は、替えがいるって話です。アラート殿下の替わりにアレックス殿下がいる様に、私の替わりにも他の候補者がいる……という事ですわ」

 先程から、興醒め顔で見てる令嬢2人がそうなのだけど。呆れて果てていて、助けにも来ない薄情者ですがね?

「……は?」

 ここまで言って分からないのか! エレトーンは白目になりかかっていた。こんなクソ……ごほん。おバカさんが自分の婚約者だったなんて。


「エレトーン様が婚約者でなくなれば、私が替わりになる……という事ですわ」

 公爵家マイライン様の声だった。やっとの助けに涙が出る。

 ちなみに彼女が何故2番なのか。それは公爵令嬢だからだ。王家にこれ以上の権威を付けるのは良くない、と周りの判断上2番という事になっている。

「はぁ? 何故だ! カリンがいるだろう!」

「精々……愛人・妾止まりですわ」

 マイラインもニコリと笑ってはいるが、眉間がピクリとしていた。

 頭がお花畑の2人に怒りと呆れ、2つの感情が戦っているのだろう。

「なんだと!?」

「なんですって!」

 お花畑コンビが声を荒げた。


「お妃教育のなされていない令嬢はなれませんのよ?」

 マイラインもバサリと扇を広げた。内心バカらしくて投げ出したいに違いない。

「これからすればいいのよ!」

 カリンが勝ち誇った様に言った。これからやれば、どうにかなると思っているらしい。

 そもそも、それで済むのなら恋愛結婚とて陛下達は許可している。そうもいかないから、令嬢を厳選して早々と教育させているのだ。

 その一言に、マイラインも思わず怒鳴りそうになっていた。自分達の学んだ時間が、安易だとバカにされた様だったからだ。


「1年間で、私達の学んだ6年間が補えるのかしらね? というか先程から言ってます様に、学園は遊び場ではありませんの。アラート殿下の国王になる資質。私は王妃になる資質を見極められていましたのよ? なのに……勉学や交流に励む処か、女性にうつつを抜かして、これを知った陛下はあなた様を次期国王にさせますでしょうか?」

 マイラインがわなわなとしていたので、エレトーンは仕方がなく自分が話すことにした。ここまで言ったらそろそろ分かるでしょう?

「真実の愛を見つけたのだ。父上もわかってくれよう」

 とカリンを引き寄せた。カリンも満更でもなさそうに、顔をポッと赤くさせ見つめていた。

 何も分かっていない……エレトーンは諦めた。



「「「「「…………」」」」」

 お前は何を言っているんだ?

 会場全体が、完全に白けていた。

 現実を理解し分かっていないのは、この2人だけだった。

 未来の国王がコレ。未来の王妃がコレ。

 未来の重鎮達がそれを許す訳もない。そして、至極まっとうな考えを持つ国王陛下が、アラート王子を跡継ぎにする訳もない。



「さようでございますか」

 もう、関わらない様にしよう。

 話せば話すだけ頭が悪くなる気がする。

 運よく、取り巻き達は理解が出来る人達だった。そして会場にいる人達も、誰が悪いか分かる人達だった。それだけでも、よしとしよう。するしかない。



「皆々様。お飲み物をお手にお取り下さいませ!!」

 エレトーンは、もうすべてを陛下に父親や託し、考えるのも言い返すのも放棄した。時間のムダだし、無駄骨だからだ。

「「「「「……え?」」」」」

 突然の事過ぎて目が点になってある。

 エレトーンが何をしたいのかが、分からないのだ。

 だが、エレトーンは会場にいる侍女達に目配せし、飲み物を皆に配る様に促した。

 空気の読める侍女達は、素早く動き皆に飲み物を手渡していた。

 マイラインは、疑問を感じながらも言われる様に飲み物を手にとった。親友のエレトーンのする事に、身を委ねようと決めた。



「では、アラート殿下とカリン様のご結婚を祝ってカンパーイ」

 エレトーンは自分のグラスを、天高く掲げた。

 もうバカバカしくて笑える。勝手にしてくれ。

 心の中では、この婚約解消にカンパイをしていた。



「「「……ぇ?」」」

 皆は唐突とかいう以前に、エレトーンの言動に一瞬目を丸くさせ、皆は顔を見合わせた。

 そして――――

「「「「「カンパ―――――イ!!」」」」」

 と空気を読めるご子息ご令嬢は、一瞬で理解しエレトーンと同じ様に、天高くグラスを掲げた。

 どこか他所で幸せに~と。

 アラート王子を見限った瞬間でもあった。


「「……っ!」」

 アラート王子、カリンはあまりの事に、嬉しくて感激し泣いていた。皆が自分達の結婚を祝ってくれるとは、思わなかったのだ。

 歓喜ともいえる声を2人は上げていた。


 ただ、皆がアラート王子を諦め、見限ったなど知るよしもないのであった。



 卒業パーティーは、アラート王子達の結婚祝いに代わり、空騒ぎした令息令嬢達で盛大に行われたのであった。

 そして、アラート王子達のどうでもいい結婚と、最後の学園生活に幕を閉じたのである。



 *。*。*。*。*。*



 ―――その後。



 常識人の国王陛下が、アラート王子の廃嫡を告げたのは云うまでもない。

 何を言っても全く納得が出来ないアラート王子を、理解させるまで時間を割くまでもなく。辺境の地に送られた。



 カリンも父親により、家を追い出された。侯爵令嬢に向けた言動については、男爵の誠意ある謝罪によりエレトーンは不問にした。

 エレトーンの温情というか……呆れはて過ぎて父親の男爵が可哀想になったからだ。カリンの修道院行きで、許される事になり家は守られたのである。



 その後しばらくして、修道院から逃げ出したカリンと、アラート王子が一緒に暮らすのを見た者がいたらしい。

 真実の愛は、偽りではなかったのかもしれない。



 エレトーンは、王子はコリゴリと王妃の座をマイラインに譲ろうとした。だが何故か、アラート王子の替わりに継ぐ事になった、アレックス王子の婚約者におさまっていた。

 アラート王子よりは断然良いので、ヨシとはしたものの何故にこうなるのだ……と眉間にシワが寄るのであった。


 アレックス王子が、密かにエレトーンに想いを寄せていたと聞くのは、それから大分経った後であった。




 。.:*:・'°☆Fin。.:*:・'°☆










◇お知らせ◇


嬉しいことに、この作品が長編となって、書籍化しました。

ベリーズファンタジーより、タイトルも変わり ↓


婚約者様、ごきげんよう。

浮気相手との結婚を心より祝福します。

〜婚約破棄するか、決めるのは貴方ではなくて私です!〜



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