フェイズ1「出会いは突然に」
PC1のオープニングフェイズになります。
キャラの背景設定は著者の解釈を多分に含んでいます。
「どうしよう・・・」
自分の興味を引こうと目の前で舌戦を繰り広げる男達の前で彼女が思考できる事はそれだけだった。
彼女「久野カレン」は医学校に通う現役のアイドルである。紫がかった髪色は特徴的で整った容姿は遠くからでも人を惹き付ける、故にファミリーレストランで友人と別れ一人になった所を狙って声をかけてくる輩が現れる事も至極当然である。
だが彼女自身はこの状況を面倒にしか思っていなかった。
アイドルと医学生の両立というのは想像を絶する重労働である。故に僅かな時間も無駄に出来ず黙々と勉学に勤しんでいた彼女にとって群がる男達を相手にする時間などある筈がない。
そもそもアイドルという職業も彼女にとっては何の感慨もなかった。
ある事情で彼女は両親との折り合いが悪く半ば家出の様に飛び出し一人暮らしを始めた。医学校への進学は辛うじて認めてもらえたが学費は自分で賄うと言う厳しい条件つきである。
当然未成年の少女が医学校に通う学費を捻出するのは現実的に不可能である、そこで彼女は日銭を稼ぐ手段としてたまたまスカウトされた事務所でアイドルになったのである。
彼女自身、自分に素質があると思ってないが歌う事自体は嫌いではない。だがアイドルそのものには何の魅力も感じていないので自分の所属する事務所やアイドルグループの名前すら思い出せない。
「ねーねー君ぃ、黙ってないで何か言ってくれよぉ?」
「折角の暇なんだろ、俺達が楽しい所連れてってあげるからさ?」
そんな半ば現実逃避を行っていた彼女は思考を気色悪い猫撫で声を上げる男達に戻す。
事務所から教えて貰った対応では世間話をしつつ距離を保ちながら別れる事、だが彼女はそれをしてよいものか逡巡した。彼女は口下手なのだ。
どうやら思っている事と発した言葉が噛み合わないらしく事態が想定外に転ぶ事が非常に多い。アイドル活動の時は「意外性のある可愛いアイドル」と自分の人気向上に一枚噛んでいたようだがプライベートでは厄介極まりない。
相手は自分に好意を持っているとはいえ初対面の男性、しかも複数人だ。自分の失言がどんな事態の悪化を招くか自分自身でもわからない。
「・・・・・・結構です」
「ヒュー♪クールな回答かわいいねぇ」
「おいおい、俺が最初に目を付けてたんだぜ」
「馬鹿野郎、こんないい子お前にやれるかってんだ」
誤解のないよう簡潔に拒絶を口にするも動じない男達、むしろ彼等のテンションを上げてしまったようだ。もう少し強めに言った方がよいだろうか?そう考え彼女は再び声を上げるも状況は変わらない。
席を立って立ち去ろうにも、その逃げ道は男達によりふさがれている。どうにかしなければいけない、だが何かしようとすると更に状況が悪化しかねない。そんな堂々巡りの思考を繰り返し続けついには力技で切り抜けようかと思い立った時、意外な所から救いの手は差し伸べられたのだった。
「よぉ、待たせたな。早く行こうぜ」
◇◆◇◆◇
俺は今日、生まれて初めて運命の女神というものに感謝をした。
この俺、上代当夜は実に平凡な男子学生である。成績は中の下、とりたてて優秀な特技もないし運動能力も平均値。容姿は周囲の女子曰く『普通』。泣きたい位の凡人である。
自分が平凡であっても周囲や環境に変化があれば心踊るだろうが、友人も両親も気の休まる好人物ではあるが悪く言えばただの一般人だ。
14歳位の頃に男子学生がかかる病気を患わせる気力すら湧いて来なかった程である。だからこんな事は起こりえる筈がないと半ば諦めていたのだ。
だが現実は非情・・・いやいや、想像以上の希望に溢れていた
「ねーねー君ぃ、黙ってないで何か言ってくれよぉ?」
ファミレスで男が少女をナンパしている。珍しい光景ではあるがそれ程特別な事ではない。
特別なのはその男が誘っている少女、その容姿に俺は目を奪われた。
黒以外存在しないと思っていた自分の常識をぶち壊す宝石のような若紫色の髪、スラリとしたスタイルはそれほど主張はしないが脚線美という単語を髣髴とさせる。そして整った顔の造形からは耳に何の抵抗もなく響く透き通る様な声を放っていた。
「忙しいのでどいてください」
「そう言うなって、ちょびっとだけ付き合ってくれればいいからさ」
「面白い事教えてやるって、だからいいだろ?」
少女の拒絶の言葉に我に返る、そうだ彼女は困っている。
だが『THE☆一般人』の称号を持っていると自負している俺に何が出来るというのだろう。
いや、それは間違いだ。
何も相手はオークやオーガなどでもなくましてや魔王でも何でもない、ならば一般人が適わないなんて道理は何もない。
それに敵を倒すには力を奮うだけじゃない、知略智謀による作戦だって立派な戦闘だ。
あの女の子を救い出す策を見つけ出すんだ!
――今、俺は14歳前後の男子学生が引き起こす病気を発症したらしい。
◇◆◇◆◇
ファミレスから少し離れた路地裏、そこに上代当夜と久野カレンはいた。
一念発起した上代ではあったが所詮は非力な高校生、知り合いを装い彼女を連れ出す事が精一杯だった。
だが打開策を求めていたカレンにとっては僥倖であったようで、持ち前の演技力を駆使し無事に場を離れる事が出来たのだった。
なおその男達は恨めしそうな嫉妬の視線を投げつけていた、暫くこの近辺には近づけそうにないなと上代は嘆息する。
「こ、ここまで来れば・・・・・平気かな」
「ありがとう、助かったわ」
「い、いやいやこれ位!助かったのならよかったよ!!」
カレンの言葉により、自分の勘違いによる空回りではなかったと今更ながら安堵した上代は精一杯の強がりを言い放つ。
壁に背中を預けため息を付くとようやく鼓動が落ち着いてきた。フルマラソンでもここまで酷使しないだろうと思っていた心臓を右手で抑え、上代は自分が助けた美少女の姿を思い描く。
これまで自分の鼓動が邪魔してまともに見る事が出来なかったのだ、先程の手助けで自分の印象は悪くはない筈。せめて連絡先だけでも聞こうとカレンの方を見る。
だがそこには在る筈のカレンの顔はなかった
「――――は?」
いや、正確には彼女の頭は自分の足元にあった。だが倒れた訳ではない
『彼女の全身が地面の中に吸い込まれていたのだ』
「――――っ?!」
カレンも自分のその状況に驚愕する、反射的に上代はカレンの手を掴もうとしていた。
だがその瞬間、自分自身も急速に降下する感覚に襲われる。
カレンよりも早く上代はその全身を地面に呑み込まれ、そして意識を閉じた――――――。




