第10話
それから彼はよく教室に現れるようになった。
主に昼休みと放課後。
たまに一緒に帰ったけれど、ほとんどは教室で雑談をするだけだった。
一緒に帰る日は奈穂と帰るときだけで、彼も彼なりに気を使ってくれてるのかもしれない。
二人きりになることは、あのとき以来一度もなかった。
「春馬くんって由奈にだけは甘々だよね」
三人になる場面が多いからか、奈穂もすぐ彼と打ち解けた。
今では私よりも奈穂と会話していることが多い。
それはそれで楽だったけれど、なんだか不思議な気分にもなった。
「そうかも。由奈、可愛いから」
二人の会話がいつも私のことだから、そんな気分になるのかもしれない。
「好きな人には尽くしちゃう感じ?」
「まぁね」
「意外ー。いいなぁ、私も尽くされたい!」
「奈穂ちゃんならすぐいい人に出会えるよ」
「だといいけど」
今日も半分呆れた状態で二人のことを見ている。
放課後になってしばらくした教室には私たち以外誰も残っていない。
以前は何人かが残って自習したりおしゃべりしたりしていたが、私たちが残るようになってからはそそくさと帰ってしまうようになった。
内容も内容だし周囲お構いなしに話すから、もっと静かで落ち着いたところに移動するようになったのかもしれない。
ちょっとだけ申し訳ない気分。
「……でいい?」
「え?」
「だから、今日二人で帰っていい? って」
突然話を振られて、内容を理解するまでに数秒を要した。
二人でって……彼と奈穂が?
「まさか。由奈と俺に決まってるでしょ」
「えぇっ」
「じゃ、そうゆうことで」
「うん、また明日ねー!」
まだちゃんと返事もしていないのに、奈穂はさっさと帰ってしまった。
残されたのは私と……彼。
このままバラバラに帰るのもおかしくて、結局彼の要求通り二人で帰ることになった。
学校を出て、暫く無言のまま二人は歩いた。
いつも彼と別れる交差点もそのまま過ぎてしまう。
「あっちじゃなかった?」
「今日は家まで送ってくから」
断ってもついてきそうだったので、そのまま歩く。
さっきまであんなに話していたのに、今はその面影もないほど口を閉ざしたまま。
「なんで……」
「ん?」
「なんでホワイトダンデライオンなの?」
沈黙に耐え切れなくなった私はずっと抱えていた疑問を彼に打ち明けた。