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転生した脇役令嬢は、国一番の冷酷公爵をヤンデレにしてしまいました  作者: 桔梗


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10/10

噂の令嬢

――社交界デビューから三日後。


私は、自室の机に突っ伏していた。


「……どうしてこうなったの!」


目の前には、手紙の山。

一通や二通ではない。

二十を悠に超えている。


舞踏会で挨拶を交わした令嬢からのお茶会への招待状。

一度も話した覚えのない侯爵夫人からの昼餐会への誘い。

遠縁を名乗る貴族からの手紙。

そして何より多いのが、――ハインリヒ公爵とのご関係について、ぜひ一度お話を。


「……社交界って怖い」


イヴァン・ハインリヒに求婚されただけで、私は今や「今季もっとも注目されている令嬢」の一人になってしまったらしい。


もちろんーー求婚は、ハッキリ、キッパリと断った。

それなのに、そんな部分は都合よく無視され、《冷酷公爵が一目惚れした男爵令嬢》《公爵夫人候補現る》などという話だけが、一人歩きしているのだ。


「……公爵夫人になる予定なんて一切ないんですけど」


呟きながら、一番上にあった手紙を裏返す。


また招待状。

その下に、さらに招待状。

さらにその下――そこで、手が止まった。

見覚えのある紋章だ。


「……」


見なかったことにしたいけれど、見なかったことにしても消えてはくれない。

私はしばらく封筒と睨み合ったあと、観念して封を切った。

中に入っていたのは、意外なほど簡素な便箋だった。


ただ一行。


《明日の午後、会いに行ってもいいか?ーーイヴァン》


「……」


私はペンを取った。


《お断りします》


そこまで書いて止まる。

少し考えてから、下へ文を付け加えた。


《明日は予定がありますので、またの機会に》


嘘ではない。

明日はアメリアと街へ出る約束をしている。

舞踏会でまともに話せなかったから、昼食でも食べようと言われていたのだ。

これなら角も立たないだろう。

封をして、侍女へ渡す。


「こちらをハインリヒ公爵邸へお願い」


「かしこまりました」


(これでよし!)


私は再び手紙の山へ向き直った。

イヴァンのことは、とりあえず置いておく。

それよりも、考えなければならないことがあった。

ーー原作のことだ。


あの夜から、ずっと考えている。

原作では、イヴァンが執着する相手はセシリアだった。

それが変わっている。

けれど、その他の出来事は大きく変わっていないようだった。

王太子アレクシスとセシリアの関係、エレノアの嫉妬、そしてーーこの先に起こる事件。


これからも原作通りなのだろうか。

それともーーイヴァン一人の感情が変わったことで、少しずつ、他のところまで崩れていくのだろうか。


考えても答えは出ないので、私は一つだけ決めた。

しばらく、原作の主要人物とは距離を取る。

特にーーイヴァンとは。


***


そう決めた――翌日。


「リゼ、こっちよ!」


ーー王都の中央通り。

待ち合わせ場所の時計塔の下で、アメリアが大きく手を振っていた。


「ごめんなさい。待った?」


「全然。それより聞きたいことが山ほどあるんだけど!」


開口一番それだった。


「話しません」


「まだ何も言ってないでしょう!」


「どうせ、イヴァン様のことでしょう?」


「当たり前じゃない!」


アメリアが私の腕へ絡みつく。


「あなた、あのハインリヒ公爵に求婚されたのよ!?三日経っても信じられないわ!」


「私は三日間忘れようとしていましたけど?」


「無理よ。だって、王都中が知ってるんだもの」


「最悪だわ……」


私たちは二人で歩き出す。

久しぶりに普通の時間だった。


貴族の令嬢同士とはいえ、今日は夜会ではない。

ドレスも簡素なもので、護衛と侍女は少し離れてついてきている。

街には焼き菓子の匂いが漂い、通りには買い物客の声が溢れている。


ーーこういうのでいい。

私は、こういう平和な生活が欲しかったのだ。


「それで?」


アメリアが横から顔を覗き込む。


「何が?」


「公爵とは、その後どうなったの?」


「何も!」


「手紙くらい来たでしょう?」


「来たけど断ったわ」


「ええ!?」


大声を出され、通行人が振り返る。


「声が大きい!」


「だって!ハインリヒ公爵からの誘いを断る令嬢なんて、この国にあなたくらいよ!」


(だから目を付けられたのかもしれないわね……)


私は嫌な事実に気づいてしまった。


「でも、本当にいいの?」


アメリアが急に真面目な顔になる。


「何が?」


「公爵のこと」


「……」


「怖い噂もある方だけど、あなたと話している時は……なんというか、全然違ったから」


私は何も答えなかった。


「……今は、何とも言えないわ」


正直に答えた。


「ふうん」


アメリアがにやりとする。


「嫌い、とは言わないのね」


「……帰るわよ?」


「ごめんなさい!」


そんな話をしながら歩いていた時だった。

前方が妙に騒がしい。


「何かしら?」


アメリアも気づいたらしい。


見ると人だかりができていて、その中心から、男の怒鳴り声が聞こえた。


「だから違うと言っているだろう!」


続いて、何かが割れる音がする。


私とアメリアは足を止めた。

護衛たちがすぐ前へ出る。


「お嬢様方、少々お下がりください」


人垣の隙間から、一瞬だけ中が見えた。

地面に倒れた男。

割れた木箱。

そしてーーその中から転がり出たもの。


それは、白い布で包まれた小さな銀色の箱。


「……嘘でしょ」


咄嗟に声が漏れた。

それは、原作のもっと先で登場するはずのものだった。

聖女セシリアの力を増幅する古代聖具ーー《月の聖櫃》。


ーーそして。

これが王都へ現れるのは、まだ半年以上先のはずだった。


「リゼ?」


アメリアが私を見る。


その時、人垣の向こうから鋭い声が飛んだ。


「聖騎士団だ!道を開けろ!」


人々が左右へ割れ、その向こうから、黒い騎士服の男が歩いてくる。

そしてーーこちらを見つけた瞬間、赤い瞳がはっきりと見開かれた。


「……リゼ?」


私は心の底から思った。


(どうして断った翌日に会うのよ!!)

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― 新着の感想 ―
《月の聖櫃》……(・◇・;) ? (気になりますね~♪) ってかw(*´艸`*)会っちゃいました♡ (ドラマチック♪)
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