2,怪物師弟
と、その直後酒場の扉が開き、一人の青年が入ってきた。黒髪に青い瞳の青年、一見して只の青年に見えるがその実、この中で誰よりも怪物じみた実力を保有している。
それを、俺もランスも修行の中で嫌と言う程理解していた。
「此処に居たか、探したぞ」
「えっと、貴方はどなたですか?」
俺の顔を見て僅かな笑みと共に告げた師匠に対し、マリスは僅かな困惑と共に問い掛ける。
師匠は一瞬苦笑を浮かべた後、マリスとホリィに一礼して答えた。
「これは失礼、僕の名はシリウス。シリウス=エルピスだ、一応スレイとランスの師匠だよ」
「えっと、私はマリスです。よろしくお願いします?」
「私の名前はホリィです。貴方が二人の師匠なんですか?」
師匠の名乗りに、マリスとホリィは自身の名を名乗る。少しばかり緊張しているのが傍目に見て理解出来るけど、まあ仕方あるまい。
ある程度実力のある者は嫌でも理解出来るものだ。師匠は強いと。いや、かなり強いと言ってもまだ言葉が足りない程度には怪物だろう。
それ故に、マリスもホリィも気圧されて緊張しているんだ。
しかし、師匠はそんなものどこ吹く風。至って平然とした様子で笑みを浮かべる。
「ああ、よろしく二人とも」
なので、此処は俺が話題を振るのが妥当だろう。そう思い、師匠に話し掛ける。
「師匠、俺達を探していたのでは?」
「ああ、そうだ。今から王城に行くぞ。国王陛下に謁見しなければならない」
「「は⁉」」
ざわっ!一瞬で酒場の空気が変わる。
師匠の言葉に、マリスとホリィは目を見開いて驚愕の声を上げた。それもそうだ、今師匠は国王陛下に謁見しに王城へ向かうと言ったのだから。
その反応が普通だろう。しかし、俺とランスは至って平然としている。
この程度の無茶、師匠なら平然とやってのける事は嫌でも理解させられたからだ。
「えっと?国王陛下に謁見しなければならないような事態ですか?これは」
「ああ、流石にこればかりはな。無視を決め込む訳にもいくまい」
そう言って、師匠は俺達の代金を店員に渡すとそのまま俺達四人を連れて酒場を出た。
マリスとホリィは終始、呆然としていただけだった。




