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キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第二章 バース・オブ・キャプテン・ノーフューチャー
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正しい資質(ザ・ライトスタッフ)⑥

「ふむ、ガンマが宇宙船を持つんですか。理由を聞いても?」


「もちろんだ。今思いついたんじゃなくて、考えてた事でもあるからな。ちょっと長くなるけど、聞いてくれ」


 今のところ、メルの存在を知るものは非常に少ない。それはオレたちがド田舎にいることと、精霊という存在そのものの知名度が低いことに起因しているんじゃねえかと思う。だから今はその程度で済んでいるだけで、この先も同じとは限らねえ。


 小細工を駆使したら二対一でララに勝てるようになったとはいえ、相手が複数で来る場合を考えると勝ち目が見つからない事も容易に想像できる。後ろ盾を持たねえオレたちが、自衛できるまで守ってくれるアテはない。それを待ってくれるような敵も、当然いない。


 ならば、どうするか? すぐに強くなるのが無理なら、武装あるのみだ。

 簡単に捕まえられねえくらい速くて、気軽に手を出そうと思えねえ攻撃力を持つ…スズメバチのような宇宙船。それを手に入れることができれば、メルとオレが直面している問題の大部分を解決できるんじゃねえかと思う。


「ふむふむ。いくつか気になる部分はありますが、理解できました。ケイ=ララさんはいかがですか?」


「まあ…後ろ盾は私たちがいるのに、そこを考慮していただけないのが残念ですわね」


「すまねえ。だけど、現状ララたちも狙われる身だろ。だから金星に戻って安全を確保したいんだと考えたんだけどな」


「ほう。ではガンマ、宇宙船を手に入れたら最初の目的地は金星に行くと?」


「ああ、知らねえ仲じゃねえし、多少の恩もある。それに、下心もある」


「筆おろしでしたら、喜んで……冗談ですわよ。ほんのお茶目なのに、もう。分かってますわよ、建造費用をいくらか肩代わりしろと仰りたいんでしょう?」


「話が早いなララ。どうせローラと将軍の話はまとまりっこねえ。でも、お前らは金星に戻らなきゃならねえ。もっとマシな選択肢があるとも思えねえ」


「そうですね。金星の方が、我々に話を持ってくる時点で…かなり切羽詰まった状況でしょう」


「でもよ、ローラってあんなに了見が狭かったか? なんかムキになってるっつーか…」


「え? ガンマ、あなた我々がどういう存在なのか、知らないんですか?」


 ハカセは意外そうな顔で首をかしげる。どういうも何もねえだろ。ご存知ヒゲハゲ軍団だろ? うちの親方もあんたらのお仲間で、オレだってちょいちょい顔出してるじゃねえか。今さら何言ってんだ。


「ああ…そうか、君はそうでしたね。姐さんも人が悪い…いや、いいんでしょうか? まあ、それなら仕方ありません。我々火星の民(ドワーフ)は金星の方々と…ええ、簡単に言うと非常に仲が悪いんですよ。水と油とでも言いましょうかねえ」


 え? 火星の民(ドワーフ)って何それ。ハカセあんた火星人とか言う気なのか?

 火星人って、その…タコみたいなやつだろう。なんでガチムチの筋肉ダルマで全員ヒゲハゲなの? そういうイメージって大事だと思うんだけど。


「どんなイメージですかそれ…我々は君の言う『火星人』ですよ。体格と頭については、我々が軍に属しているからですね。もっとも、島流しの憂き目にあう身の上ですが」


「軍だぁ? ハカセ、あんた兵隊なのかよ…そしたら、もしかして将軍ってのも…」


「あだ名ではなく、本当に将軍ですよ。国名は出せませんが、とある国の軍で兵器全般の研究開発と試作・運用データの収集を行ってました。ちなみに僕は軍属の研究者ですから階級はありません。少佐相当、という事になってます」


 なんだそりゃ。新兵器と言えば、軍事機密のカタマリだろうに。なんでそんなのが『島流し』に遭ってんだ。

 それに全般ってのも…胡散臭い。仮に新型戦闘機を作るとして、飛行機本体はともかく搭載火器や電装品まで、全部一か所の企業なり設計局が手がけることは考えにくい。


「いやあ、痛いとこ突いてきますねえ。ぶっちゃけますと、我々って研究も開発も方向がないんですよ。新しい理論に飛びつくと言いますか…実証試験を得手としていると言いますか…まあ、そういう事でして。はっはっは」


「つまり?」


「身も蓋もなく言えば、趣味の世界です」


 身も蓋もなさすぎる。個人も会社も軍も、国だって『予算』という財布でやりくりするもんなのに、それを趣味でやられちゃ困るだろうに…待てよ。ヒゲハゲ軍団が『島流し』に遭ってる理由…何か作っちゃ吹っ飛ばすか暴発か爆破してるのも、オレのクルマに使ったシートの出所がわからねえのも…


 なぜだろう、すごく嫌ぁな予感がする。ハカセから、変態情報屋と同じ匂いを感じるのはオレの気のせいだろうか。


「ガンマ、さっき言ってましたよね。既存のどの高速艇よりも速く、戦艦も一撃で撃沈せしめるほど強力な宇宙船が欲しいって。いいですねえ、滾りますよねえ…そういうのって、我々の業界ではロマンと言うんですよ。はっはっは」


 そんなこと言ったかなあ。もっとマイルドな表現だった気がするんだけどなあ。入れちゃダメなスイッチ入れちまったかオレ?


「野心なき研究に発展なく、ロマンなき技術は進歩せず、その両輪を欠いた文明は退嬰と衰退に沈む。わかりますかガンマ? 少年の心と書いて憧れと読むのです。君の憧れに、我々大人は応えねばならない。その義務を負い、権利を有するのです…」


 ハカセは額のグラサンをすちゃっと掛け、ニタァと亀裂のような笑みを作ると白衣を翻し大股で部屋に戻る。そして怒鳴り合いを続けるヒゲハゲ将軍とローラが叩きまくるちゃぶ台を蹴り上げ、やたら斜めに傾いたポーズで静止する。


 これ知ってる。なんとか立ちってやつ。オレには絶対できないことを平然とやってのけるゥ! やらないし、シビれないけど。メル、あれは真似しちゃダメだからな。ちょっとカッコいいとか思ったろ。


「ボス、仕事です。これは我々が担い、我々以外に担えず、他の誰にも譲りません。依頼者はそこのロバ耳ではなく、我らが盟友のガンマ。その内容は、史上最速かつ最強の快速艇。久しぶりの大仕事…御裁可を」


 ちゃぶ台が蹴り飛ばされた直後はハカセを睨み殺す勢いで凝視する将軍。だが、オレの名前が出て、大幅な拡大解釈と誇張と曲解で飾られた要求を聞いて…地獄の鬼でも失禁するような顔で歯を剥いた。


「許可する。全面的に許可する。ゴロツキどもを招集しろ、ガタガタ抜かす奴は海に叩きこめ。最速・最強はワシらの専売、この看板は誰にも譲らん。そうだな?」


「当然です。我々を超えられるのは、我々のみ。しばらく基礎研究ばかりで退屈していましたからね。試験済みの秘匿技術はいかがしますか?」


「全面的に許可すると言った。だが、予算は?」


「御心配には及びません。そこのロバが払います。尻の毛まで毟っても足りなければ本国経由で請求しますよ」


 座っても立っても大して身長に変わりがない将軍が、のそりと立ち上がる。


「ならば良し。おい、小僧」


 腹まで届く真っ白な三つ編みヒゲの将軍は、赤鬼みてえな凶相に地鳴りのような声音でオレを呼ぶ。


「貴様の依頼、このリヒトホーフェンが請け負った。夕方までに荷物をまとめて港に来い」


 そう言い捨てて、ヒゲハゲ将軍はティアドロップ型のグラサンをギラリと光らせ、のしのしと去っていく。ハカセも白衣をマントみてえにバサリとはためかせ、颯爽と後に続く。

 こいつら、言いたいこと言ってドヤ顔で帰る気か!? おい、この空気どうすんだよ。無視か? ガン無視か? ララもバカみてえにポカーンとしてねえで、ちょっとお前も言ってくれよ!


「えっ…でも、そう言われましても…ちょっと…ねえ?」


 開けっ放しの玄関から、降りしきる雨の向こうに装甲車みてえな馬車がガラガラと引かれていくのが見える。御者台のハカセと、金網の窓には将軍の姿があって…どっちもニヤケまくってやがる。ヒャッハーとかイーハァーとか聞こえる奇声…賭けてもいい、絶対に馬じゃなくてあいつらだ。


「なあ、メル」


「なあにガンちゃん?」


「時々思うんだ。この世でまともなのはオレだけじゃねえのか、って…」


 本当に、本当に本ッ当ォーにッ! この世界に人格者はいねえのか? どいつもこいつも思慮とか自重とか常識とか、そういう人として大事なサムシングを場外ホームラン級にカッ飛ばしやがる。清々しいほどに好き放題だ。


「あのねガンちゃん。あたし、ガンちゃんも十分に好き放題してると思うの」


「心から同意しますわ。思慮と自重と常識をガンマ様が持っているとは…」


 おい。お前が言うのかクール系痴女。


「清々しいかどうかは知らんが、好き放題だにゃあ」


 おい。どっから沸いたババア。


「人格者って…地球ではペテン師のことなんでしょうかね…」


 おう誰がペテン師なのか言ってみろ。

 それにメル。お前だって十二分に好き放題してるじゃねえか。この前買ったサクランボ、ひとりで全部食ったろ。知ってるんだぞ。その前に買った饅頭も梨も、オレが後で食おうと思ってたら全部お前食ったろ。


「し、しらないよっ? ただ早く食べないとダメになっちゃうなーって思っただけだもん。ガンちゃん寝てたから、あたし悪くないもん」


 鳴らない口笛をぷすーひーと吹いて目をそらすメル。


「まあ、そこはどうでもいいにゃ。将軍と話がついたにゃ? 小娘、お前はその他人種を見下す癖を今すぐ矯正しろ。古王朝の悪習が神殿に根強く残っているのは知っているが、ここは地球で、今のお前は暗殺の危機に瀕しているにゃ」


 ふん、と鼻を鳴らしてババアはローラを叱る。そうだ、そこはオレも気に入らなかった。ララは神殿脳と言ったけど、他人にものを頼む態度じゃない。高慢の見本って感じで、正直見損なっちまった。


「……反省してます。でも、あの野蛮人ときたら」


「野蛮人じゃねえだろ。話も聞かずに殴りかかってくるのが野蛮人で、ヒゲハゲ将軍は怒鳴ってちゃぶ台殴りはしたけどローラに手を上げたか?」


「ガンマさんは火星人(ドワーフ)の味方するんですか!?」


「どっちの敵でも味方でもねえよ」


 そう、これは道理の問題だ。

 ローラたちは金星に戻りたい。それには宇宙船が必要で、暗殺者が乗り込む余地がないものが欲しい。そこでババアに相談し、将軍を紹介してもらった。

 雨ん中呼びつけて、紹介された相手に会ってみると気に入らない相手だった。だから居丈高に自分の要求を伝えて従わせようとした。


「これで誰が協力してくれるんだ? ローラ、神官ってのはそういう連中なのか? だとしたら、オレぁお前らのこと嫌いじゃねえけど、友達にゃなれねえな」


 自分の価値観が全てだと思い上がるつもりはない。だけど、少なくとも人間同士で守るべき礼儀ってのはあるはずだ。


「……ごめんなさい」


「女官長、それは先方に仰ってくださいましね。少し時間を置いて、お詫びに参りましょう? きっと許してくれますわ」


 メルと一緒にちゃぶ台を戻してたララは、姉のようにローラの肩を抱いて優しく諭す。たぶん、この二人はこうやって金星から旅してきたんだろうな。マオーイで会ったとき、ララはローラのことを『最年少の女官長』って言ってた。そして『純粋培養の神殿脳』とも。


 使命感に駆られる世間知らずの箱入り娘か…ララの苦労に頭が下がる。だからといってセクハラを甘受するつもりはないが。あとアレだ。月の姉ちゃんが話してくれた内容は、ヤブヘビになるから言わねえ方が良さそうだ。


「ありがとな、ローラ。キツいこと言って悪かった。将軍にはオレからも言っとくからよ、な?」


「そうしてくれガンマ。どういうわけか、お前は連中に気に入られてるからにゃあ。バカ同士で気が合うのかにゃ?」


「知らねえよ。ただ、あいつらが作るもんが面白れえって思って、それを言っただけだ」


 人間と他の動物との決定的な違いとは、何かを作ることだ。

 作る事こそ、人間の本質。

 自分に何かが足りないとして、それを作って補う者を、努力を放棄した怠け者と嘲う奴がいるだろうか? もしいるなら努力だけで空を飛べるものか、ぜひ試してほしい。


「バカが作るものを面白がるのは同類だけにゃ。まあ、バカ同士せいぜい楽しくやってこい…もっとも、お前は楽しくにゃいかも知れんがにゃあ」


「どういう事だ? 夕方までに港に来いって将軍に言われたけど」


「バカもの。お前、自分の宇宙船をあいつらに作らせて、誰に操縦させる気にゃ?」


「あ」


 頭から抜けてた。クルマとバイクは転がせるけど、それ以外の乗り物なんか動かせねえぞ。アポロ司令船の操作マニュアルはPDFがネットに転がってたからチラ見したことあるけど、あれみてえにスイッチだらけの操作パネルなんか無理だ。


「どの程度の船を作るのか知らんが、将軍のはしゃぎっぷりを見るに戦闘艇にゃ。相応の特訓が待ってると思えよ?」


 マジか。いや確かに宇宙船は必要で、それを欲しがったのはオレだ。だから操縦訓練を受けるのは間違ってねえ。でも戦闘艇って着陸船みたいなのと比べて、何がどう違うんだ。ほら、果物ナイフと両手剣だって、同じ刃物だけど違うだろう?


「知るかそんにゃもの。向こうに行けば嫌でも叩きこまれるにゃ」


「そうですわね…宇宙船を動かすなら、操舵・航法・通信が主な訓練でしょうけど…戦闘艇となると武装だとか魔法障壁の事も関わると思いますわ」


「あの、航法(ナビ)なら少しは分かりますから…聞いてくださいね?」


「すまん、頼ると思う…」


 着陸船じゃ人間ガソリンスタンドだったし、月でも乗せてもらっただけで…大丈夫なのかオレ。早まったかもしれん。

 

 いやはや。戦闘機(ファイター)のパイロットに憧れたことは何度もあるが、宇宙戦闘艇(スターファイター)の方になるとは想像もしなかった。F-104はとっくに退役してるからな!


 まあいい。オレの宇宙船ってことは、オレが船長だ。

 キャプテン…いいじゃねえか。


作中でガンマが見たPDFファイルはこちらです。正しくは着陸船の操作パネルですけど。

https://history.nasa.gov/afj/ap12fj/pdf/a12_sa507-flightmanual.pdf

※NASAの公式サイトです。

個人的にアポロ計画で最高のチームは12号のコンラッド・ゴードン・ビーンですね。

244ページもあるので、興味がある方はご覧くださいー。


***ここから引用のご紹介***

クァール…A・E・ヴァン・ヴォークト氏「宇宙船ビーグル号の冒険」より

重力等化装置…エドモンド・ハミルトン氏「キャプテン・フューチャー」より

ムーンドッグ…同上

ガーニー警部補…同上、エズラ・ガーニーより

シートン監査官…E・E・スミス氏「宇宙のスカイラーク」リチャード・シートンより


素晴らしい作品に敬意をこめて。

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