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キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第二章 バース・オブ・キャプテン・ノーフューチャー
33/51

ドノヴァン一味との闘い⑥

 最初に思ったことは、やられたということだ。

 次に殴られたのではなく、左腕に指より太い矢が生えているのが目に入って、撃たれたのだと気付いた。


『ガンちゃん!!』


 腹の方はメルが防いでくれたが、切羽詰まった声を聞くまでもなくマズいことになった。予想した通り内通者がいて、それに対応するデコイを設置するまでは良かった。

 一手先までは読めたが、敵は二手先の「待ち伏せ」でオレたちの奇襲に備えていた。それ自体は特別じゃない、待ち伏せなんてのは実に平凡な戦術だ。だが…オレはそこに考えが至らなかった。大盾も月面を水平方向に進むときの為に考えたものであって、真下から撃たれることを想定していなかった。


 つまり、相手をナメて準備を怠ったんだ。撃たれてバランスを崩した身体は、甘い考えの報いだとばかりに背中から甲板に叩きつけられる。肺の空気が血の混じったヘドと一緒に吹き出して、ヘルメットの内側にべったりと張り付いた。


《貴様らァァ!》


《ガンマ殿ッ!》


 ムーンドッグたちは自分にも矢が刺さっているだろうに、二十人は下らない敵の数にも折れず立ち向かうつもりだ。だが、それはダメだ。でも身体は叩きつけられた衝撃で痺れて、声を出そうにも息が吸えない。脳内スイッチを入れて、メルに逃げろと伝えてもらうしかない。


 メル、みんなに逃げろと言ってくれ。ここで戦うのは、それは無駄死になんだ。


『…それで、ガンちゃんはどうするの? みんな逃げて、ガンちゃん一人でここに残ってどうするの?』


 一人じゃないさ、メルと一緒だ。どうするかは…まだ思いつけてないけど、なんとかする。だから、そんな顔しないでくれよ。今は本当にヤバいんだ。あいつらだけでも逃がさねえと、みんな殺されちまう。

 だから、頼むよ。オレたちだけならこの前だって切り抜けたじゃねえか、大丈夫さ。


『ダメ。なんとかするって言われても、今のガンちゃん…信じられない。当てが外れてオロオロしてるじゃない! 時間稼ぎの方法だって出てこないんでしょ!? それでみんな逃がしたら、ガンちゃんが無駄死にだよ! 』


 そんなことも分からないのか、とメルはまくしたてる。

 そんなこと言わないでくれ。お前に信じてもらえなきゃ、お手上げだ。なんとかするさ。ここから逆転の手を考えるから、すげえの思いつくから、頼むよ!

 この脳内会話の中なら、何か閃くんだ…何か、何か…!

 

『ねえ、ガンちゃん…どうして? どうしてあたしに助けてって言わないの?』


 メルに? そんなの、いつだって言ってるじゃないか。お前に助けてもらえなきゃ、オレは…


『そうじゃない! ガンちゃんが何か考えて、そのお手伝いをするって意味じゃないの…あたし、相棒なんでしょ!?』


 そうさ、相棒だ。大事な相棒だ。


『だったら、もっと頼ってよ! もっと信じてよ! あたしに助けてって、言ってよ!!』


 メルの赤い目が激情に染まって、まっすぐにオレを見ている。それが急に悲しみに曇った。


『ずっとガンちゃんを見てたよ…教えてくれたことも、ぜんぶ覚えてる。だから、お願い…』


 オレは馬鹿だ。度し難い大馬鹿だ。

 どっかで思い違ってた。メルは小さくて、世間知らずで、食いしん坊だからオレが教えて守ってやらなきゃって思ってた。いつか星になるって聞いて、オレが死んじまった後でも元気で笑っていられるようにって考えてた。いつか別れる日が来ても、こいつが一人でも大丈夫だと思えるように…大事に育てなきゃって。

 そんなの、相棒じゃねえよな。口じゃメルを相棒とか言って、そのくせ…こいつを守ってやる気でいやがった。対等だと思ってなかった。相棒を侮辱していたのは、オレだったんだな。


『食いしん坊は余計だけど、あたしはガンちゃんのそういうところ…大好きだよ』


 ごめん。


 助けてくれ、メル。


 あいつらと、オレを頼んでもいいか?


『うん。見ててね、相棒(ガンちゃん)


 赤い目を燃やしたメルの意識は敵に向けられ、脳内スイッチが切れた。

 

《ギギギ…所詮は畜生、ソこなヒト種の浅知恵に乗せラれたと見えル。逃げられるのも面倒だ。こレぞ食虎Don’t Raw…きっチり殺すのだ。半生デはイカンぞ》


『みんな、こっちに集まって。そして、ドノヴァン一味の人たち…あたしまだ手加減できないから、逃げるなら早くしてね』


 耳障りな声の主をさらりとスルーして、右手から立ち上がったメルが傲然と言い捨てる。だが、その姿はあまりに無力だ。腹話術の人形より小さくて、肩に乗れる程度の大きさのメルが何かを言ったところで無法者が脅威を感じるものじゃない。何ができるものかと嘲る声までする。


『逃げないんだね? じゃあ、よーく見て』


 じわり、と包囲を縮める無法者たちに、銀のラインを垂直に伸ばして連中と同じ目線に上がったメルは両手を掲げる。何かありそうな仕草と目線で、連中の意識を寄せて…掲げた手のひらから何かの粉がパラパラとこぼれ落ちた。


『まぐねしうむの粉ってね、空気と一緒に燃やすと綺麗なんだって。よーく見てね? ほら!』


 メルの意図を知ったオレが目を閉じた次の瞬間、太陽より眩しい閃光が瞼を貫いて網膜に刺さった。まともに見ちまった奴は、当分ろくに物が見えないはずだ。

 目を灼かれて悲鳴を上げながら転がりまわる奴らを踏みつけて、無事だった無法者が武器を振り上げてオレたちに殺到する。だが、メルは一切の動揺を見せず、パイプ状に変形させた両手を前に突き出した。


『次は、月の砂と海のお水を混ぜた泥。いっぱいあるから、みーんな泥んこになろう?』


 かなりの圧力で噴射された泥が、無法者たちの宇宙服に勢いよく浴びせられる。だが、それだけでは連中の勢いを多少削ぐ程度でしかない。


『泥んこ楽しいね? うふふ…すぐに動けなくなるよ』


 真空中で水は急激に沸騰して温度を失い…摂氏ゼロ度まで冷えると突然凍る。頭から足元まで吹きかけた泥がセメントのように固まって、武器を振り上げた形のまま無法者がピタリと止まった。


『ほら、もう動けない。カチカチで、前も見えなくなっちゃった。逃げた方が良かったね?』


 マグネシウムも水の話も、ずっと前に茶飲み話や寝床で聞かせたことがあった。今の今まで、そんな話をしたことすら忘れていたが…メルは覚えていたのか。こんな大勢から殺意を向けられた状況で、それを思い出して実行したのか。


『どう、降参する? しないなら、もう…やさしくしてあげないよ』


 目を灼かれて何も見えず、凍り付いた泥に固められて身動きできず、殺意どころか戦意さえ失って怯える無法者たちの耳に、メルの囁くような声が沁み込んだ。数秒前まで侮っていた邪気のない幼い声が、抑揚を捨てて淡々と「ここからは容赦しない」と告げる…それは凍り付いた泥より冷たい恐怖だろう。


『どうするの? ガーニー警部補って人が、みんなのことクズって言ってたよ。それにムーンドッグさんたち、いっぱい殺したんでしょう? だったら、殺されてもいいよね?』


 こいつは効く。降伏しなければ喜んで殺す、自分がそういう怪物だと思い込ませる三文芝居。そうだ…このセコい芝居と、有り物で仕掛けを作る手口、オレの遣り口そのままだ!


《グルルルルル…そうとも、同胞の仇だ。一人残さず、頭から噛み砕いてくれる!》


 ワン公が唸り声をあげ、他の戦士たちも牙を剥いて威嚇する。

 オレだけ寝てるわけにゃ行かねえ。走れなくても、せめて立たなきゃメルに合わせる顔がねえ。まだ声を出すのもキツいけど、ハッタリ芝居くらいなんとかして見せる。


《ガンマ殿…》


 心配してくれるムーンドッグの戦士に黙って片目をつぶり、メルの隣に並んでヘルメットに貼ったダクトテープを剥いで顔を見せる。


「いやはや、可愛い顔してやる事エグい相棒ですまねえな。もちろん、オレは皆殺しなんてマネしたくねえんだけどさ…相棒はオレと違って気が短くってなあ。生きたままドッグフードにする気らしい」


 軽口でメルを援護射撃だ。あとはニヤついた顔を維持して、膝が震えないようにするだけで精一杯。


『ダメなのぉ? みんな降参しなかったら全部殺そう、ね? どうせ誰が降参したのか分かんないもん。面倒なのきらーい』


 可愛らしく菓子でもねだるみたいに、オレに調子を合わせたメルが膨れた顔をして見せる。巧いぞメル、じゃあ…良い警官と悪い警官の手口でもう一押ししようか。


「それもそうだなあ…泥まみれじゃあ、誰が誰だかわからねえ。元々そんな義理もねえし…」


《た、助けてくれ! あんた星間警察(スペースパトロール)だろう!?》


『あはははは! ヘボ警察(チープスター)? あたしたちが?』


「やれやれ…ご立派な正義の味方なんかと思われるのは心外だな。誤解を解くために、お前から殺して見せようか?」


《降参だ! 俺は降参するぞ!》


 泥の彫像になった無法者のひとりが慌てて口火を切ると、オレたちを囲んでいた連中は一斉に降伏を叫び出す。敵の数はこちらの三倍以上。戦えば負けないとしても、すでに軽くない傷を負っているオレたちは…間違いなく誰か死ぬ。だから、メルが選んだ敵の行動力を奪って戦意だけ殺す方法が最上だ。


《お、おノれ奇ッ怪な技を…! ダが、拙者のギャラクシー鬼門遁甲に死角なシ! 親分、出番でスよ! 重役出来!》


 耳障りなギシギシ声が、無法者の壁の向こうから胡散臭さ全開のセリフをがなる。何がギャラクシーだコラ。


《ぐわはははは! 珍しく慌てているなァ、スリリング!?》


《モう二年も一緒にやっテんだから、名前間違わナいで親分! 馬耳(マジ)突風!》


《お前の名前が長いのが悪い! わはははははは! そうら、邪魔だァ!》


 頭の悪そうな哄笑がした次の瞬間、凍り付いた無法者で作られた壁の一部が爆発でもしたように吹き飛んだ。目を見開いたまま固まるメルを掻っ攫って、慌てて甲板に倒れ込んだオレは…トゲつき鉄球のクレーンがひしゃげて、くの字にひん曲がっている光景に目を疑った。

 近くで見れば直径四メートルを超える〈モンケン〉号の鉄球を振り回すクレーンなら、見た目以上の強度があるだろう。それをへし曲げたのが、クレーンに突き刺さってる陸上競技のハンマー投げみたいな鉄球だってのか!?


《んんー? なんでェ、ハズレちまったのか…ああっ! クレーンぶっ壊したのは誰だァ!?》


 声のイメージ通り頭が悪い! それも、思ったよりずっと悪い!

 砕かれた壁を蹴倒して、異様に膨れ上がった上半身のシルエットが両腕を振り上げて吠えた。片手には、さっき投げたのと同じハンマーを山ほどぶら下げてやがる。

 こいつを表現するなら、ゴリラの上半身にチンパンジーの下半身、とでも言おうか。ついでに、おつむの方は微生物と来てやがる。こいつを作った神はおかしなクスリでもキメたか、ひどい二日酔いに違いない。


《あイつですヨ! あの赤毛のガキ! おかシな技を使いやすよ! 危機怪々!》


 お前の言葉遣いほど変じゃねえよ。

 だが、まあ…時間も稼いでもらって呼吸も整った。


「メル、助かった。こっからオレにもやらせてくれよ…なあ、あんたがドノヴァン親分だろ。で、そっちのトカゲが…スリリング? ドキドキしそうな名前だな。三流手品師にゃピッタリだ」


 右手に向かってウィンクを投げると、ドヤ顔のメルもウィンクを返して槍を放る。

 それを掴んで、見せつけるように身体の左右で回して石突を甲板に叩きつけた。


 さあ! ここからオレのターンだ!


ガンマさんイキってますけど大丈夫なんでしょうかね。

おモチとかカレー食ったり展開の予定変えたりして、今回すこし投稿が遅くなっちゃいました。

今のところ、できるだけ一日一回更新のペース守る気ですので今年も楽しんでいただければ幸いです。


***ここから引用のご紹介***

クァール…A・E・ヴァン・ヴォークト氏「宇宙船ビーグル号の冒険」より

重力等化装置…エドモンド・ハミルトン氏「キャプテン・フューチャー」より

ムーンドッグ…同上

ガーニー警部補…同上、エズラ・ガーニーより

シートン監査官…E・E・スミス氏「宇宙のスカイラーク」リチャード・シートンより


素晴らしい作品に敬意をこめて。

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