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吸血忌譚  作者: 腹痛朗
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真は常に影の中に

 休みになったのはこの年頃の少年としては喜ぶべきところなのだろうが、平日の昼間というのは、学生としてあまり面白くないものだ。お昼のテレビ番組というのはドロドロした昼ドラか、バラエティー番組の再放送であり、どちらも僕の好みではない。本でも取りに行こうかと椅子から立ち上がると、いつのまに2階に上がっていたのか、望が何かの束を持って下りてきていた。


「あー、それって、バトル・マイスターズだっけ?」


「流石の記憶力、その通りだぜさっくん、久々にやらないか?」


それは僕達が小学生の時に流行ったトレーディングカードゲームだった。それ以前には漫画を原作にしたオフィシャルカードゲームもあったが、世代的に触れたことがない。兎も角、少年時代を彩った思い出の品だ。……買おうと思えば今でもシリーズが続いてはいるのだけど。


「懐かしいね、やる気になったかも」


「よしきた、じゃあバトルだぜ!」


互いのライフポイントは5つ、先にそれを削りきり、プレイヤーにダイレクトアタックした方が勝ちだ。僕達は子供らしくない本気のデッキ構築をしていて、周囲からは戦いたくないと言われていたっけ。

それから1時間程、買ったり負けたりしながらルールを厳守して楽しくバトルしていたのだが、通算の勝利数では望の勝ちとなった。彼女の引きの強さは真のバトルキングの称号を与えたくなるほどで、その姿は正に戦の神であった。


「はっはっはっ、少しでも運の絡むゲームでオレに勝とうとするなら、古代エジプトの歴史分の人生を重ねてくるんだな!」


そろそろネタが危なくなってきた気がする。

僕は肩をすくめて問う。


「それで、魔法の札での勝負で負けた僕は、どんな罰を受けるのかな」


「お前が受ける罰は、一生オレの側にいる刑だぜさっくん!」


……恐らく不老不死になったであろう僕と望でその刑罰は、間違いなく最大の戒めだろう。望はそんなこと考えていないだろうけど。えっと、太陽が超新星爆発を起こして地球がなくなるのが50億年後くらいだから、それまで?でも不死身だから宇宙空間を漂流し続けるかも……?


「さっくん?何考え込んでんだ?さっくん?さっくーん?」


「サックサクのお菓子みたいになってきてるよ望……」


「お、生きてた。それはそうと、母さん達遅いな、オレ達と一緒に帰ると思ってたのに」


そういえば、昼頃には1度帰って昼食を食べていくのに、今日はまだだ。時計は12時半あたりを示している。いつもは12時丁度かその前には玄関が開くのだが……と考えていると、噂をすればなんとやらだろうか、鍵が開く音と怜美さんのただいまコールが聞こえた。


「母さんおっかえりー、さっくんお手製の料理があるぜ、羨ましいなこんちくしょう」


「望、言葉遣いが汚すぎるよ……冷蔵庫に青椒肉絲入れておいたので、それをどうぞ」


朝の炒め物のついでで作ったものだ。中華料理は手早く作れて味がそれなりになるので、広史さん達の昼食は中華が多い。


「さっくんありがとう、いただくわねー」


「毎度のことながら気が利くなぁ」


僕への感謝を述べてくれた2人はあれだけついていた血糊を綺麗さっぱり落としていた。ああ、そうか、あれを洗い流していたから遅くなったわけだ、全く何をしているのやら。


「しかし、暇だなさっくん、何する?」


「望がカード持ってくる前は何か本でも読もうと思ってたんだけどね……」


「えぇー、やだやだ、オレがもっと暇になるだろー」


「それならいっそ寝てたら?」


「ぶー、さっくんが取り合ってくれない、もっと旦那を立てろよー、満足させろよー」


望が抱き付いてきて、僕を床に押し倒した。


「あいたっ!?」


派手に後頭部を強打して、頭がくらくらした。


「んふふ、この征服感、最高だぜ」


まずい、望の『色』が全面的にピンクである。これが肉欲に満ちたものであることは、容易に想像できてしまう。


「望ー、そういうことは私達がいない時にやってね?」


「あ、そういやいたな母さん達」


今の今まで忘れていたのかこの娘は!?

まぁ、見事な鶴の一声で助かった。


「で、さっくん、正直なところ、望とはどこまでいってるの?」


いや、爆弾発言だった。


「さっくんとは深く求めあう関係だぜ!」


「あらあらまあまあ……!」


「望は黙ってて!怜美さんも真に受けないでください!」


「だって親もいない中、長い時間男女が2人、やることといったらヤるだけでしょ?」


「怜美さんそろそろ色んなものにひっかかりますからねその発言!あと、僕達中学生ですよ!?」


これが思春期の子供の母親の言うことか、そんなことはまずないが、その気になったらどうするつもりなんだろう。


「さっくん、本当に何もないんだね?」


「無いですって!やめてくださいよ2人して!さっきまでのシリアスモードはどこに行ったんですか!?」


「えー、シリアスのあとにはギャグがないとバランス取れないじゃない、メリハリ大事よ、お肌はハリだけでいいけど」


「あーもう、あんまりからかわないでください、僕は望を大事にしてるんですから、安易に手を出したりしませんよ」


「うーん、模範解答ね、つまんないわ」


面白いつまらないでこんな状況にしないでほしい。うん、この親にしてこの子あり、常識が絶対的に足りていないよね、この家は。


「じゃあさっくん、僕達はもう行くよ、さっくんは戦うと言ってくれたけど、できるだけ今まで通りに暮らせるよう計らうから、あまり気張らないように」


「あ、はい、今後ともよろしくお願いします」


僕の体力を削りつつ、広史さん達は仕事場へと戻っていくのだった。


「で、さっくん、さっきの続き、するか?」


「断固やらないよ、もうっ」



***



それからの数時間は、望と駄弁りつつ、ゲームもしつつ、テレビも見つつと、適当にだらけつつ過ごしていた。リビングで椅子に座って舟を漕いでいると、電話が鳴る音で目を覚まされた。


「おう、オレが取ってくるぜ」


「ありがと、お願いするね」


リビングの一角にある子機を取ると、ある程度応対したあとで、僕に渡してくれた。


「もしもし?」


「朔か?体調の方は平気なのか?」


「そういう君は弓弦だね、うん、体調は大丈夫、どうしたの?」


時刻は5時、彼なら部活があるはずだが、どうしたことだろう。


「保健室の先生が変死体で見つかったのは知っているか?」


知っている。なんといっても第一発見者なのだから。


「それが、どうかしたの?」


「ああ、それで全校生徒は部活を中止して下校したんだが、お前達は保健室に行ったのだろう?どうにも不可解なのだよ、この事件は」


「というと?」


「状況はぼかされつつも伝えられたわけなんだがな、先生は皮だけだった上に、近くには銃創があったという。わけがわからないだろう、この日本で、警察以外の誰が銃を撃つというんだ、違法所持していたらしき犯人も見つかっていないらしいし、そもそもそんな死に方をしているのなら、銃を使う必要があったのかも不可思議だ、お前なら何か知っているんじゃないのか」


話を聞くに、ジャバウォックの構成員の存在はどういう権力かわからないが隠蔽されたのだと思われる。

何か知っている、どころか、全て知っているわけであるが、話すわけにはいかない、上手くごまかさなければ。


「あぁ、先生いなかったから、近くにいた他の先生に事情を説明して、すぐ早退したんだよ、悪いけど、僕と望は事情を知らないんだ、あんまり考えすぎない方がいいよ、警察に任せときなよ、自分の生活スペースで事件があって、足元が定まらない気持ちはわかるけどさ」


「そう、だな。俺も冷静さを失っていた。明日は来れるんだろ?また学校でな」


「うん、また明日」


電話を切って望に渡す。知らず溜め息が漏れていた。

僕と望はこれから、親友に嘘を吐き続けなければならないのだ。そう考えると、とてつもない罪悪感が、僕を襲うのだった。

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