流れる日常は緩やかに
「こんな子供まで戦わせるなんて、組織の人員不足も困ったものね」
帰路につくため廊下を歩いていると、アリスがそんなことを漏らした。
「子供って、君だって子供でしょ、自分を棚に上げすぎじゃないかな」
「むぐっ……私は良いのよ、昔から訓練してきたんだから。昨日今日怪異になった貴方達に頼らざるをえないのが気に入らないって言うの」
「けど、オレ達は不死身、不老不死、最強の怪物ヴァンパイアだぜ、そんなに心配すんなって」
望の中の吸血鬼像は派手だなぁ……吸血鬼は日光だったり十字架だったりニンニクだったり果ては流水も苦手だなんて話も聞くから弱点ばっかりだと思うのだけど。
「吸血鬼のくせに、日光を浴びてもピンピンしてるのは、どういうわけだろうな」
源十郎さんが、館内禁煙だと言っていたのに、煙草を吸いながら言った。
「真祖の吸血鬼とその眷族は特別なのよ、本来吸血鬼は多くの眷族を作るけど、真祖は原則1人しか作らないし作れない。それに大概の弱点は関係ないし、力の何割かを使えば吸血衝動も抑えることが出来る。人間の上位存在と言えるくらいの怪物よ」
「や、まぁ知ってたんだけど。解説ご苦労お嬢」
「源十郎、ちょっとそこに直りなさい、軽く死にかけさせてあげるから」
ナイフを構えたアリスが、赤と黒の『色』を纏って源十郎さんを睨む。あの『色』は本気だ、止めなければいけない。
「待てよアリス、オレ達にとっちゃありがたい解説だ。ナイフ仕舞え、殺気収めろ、女の子がそんなもん振り回しちゃいけないだろ」
アリスの手からナイフを抜き取って、くるくる回しつつ、アリスの首筋にあてがう。
「望、君の方がやってることのがよっぽど危ないよ、それに君も女の子でしょう」
「何言ってんだオレはさっくんの旦那だぜ?性別なんぞとうの昔に越えてら」
ナイフをアリスのポケットに戻しつつ、望はこんなことをのたまい、不敵な笑みを浮かべおった。
「望、屁理屈言わない。それこそお嫁の貰い手がなくなっちゃうよ」
「は?オレがさっくんを貰うに決まってんだろ?」
は?って……これが冗談じゃないんだからどうしようもないんだよね、この娘は。
「そろそろ良いかしら、一刻も早く貴方達に帰って欲しいのだけど」
首に手を当てて冷や汗を流すアリスはとても青い顔をしていた。ついでに『色』も青い。
「ごめん、うちの旦那がご迷惑をおかけして」
「おっ、さっくんもついにオレのことを旦那と!」
「黙ってて望、話が拗れる」
むぬぅ、と妙な声を出しつつ望が黙ってくれた。
「はぁ、ホントに早く帰りなさいよ、昨夜や今日みたいなことになったら大変でしょ」
「そうさせてもらうよ、今日はありがとう、ほら、望も頭下げる!」
むんず、と望の後頭部を押さえて、強制的に礼をさせた。
「ぐっ、このまま尻に敷かれる気はないからな!」
普通に考えれば亭主関白だと思うのだが、やはり望に常識は通じない。変人グループの僕が言えたことではないけれど。
そんなこんなで、その後もハチャメチャな会話をしつつ、僕と望は家路についたのだった。
帰れば時刻は昼前で、休日ならば昼食を作り始める時間帯だ。
「ナチュラルに帰宅しちゃったけど、これって無断欠席?」
「今更だろ、また学校に行く気にもなんねぇよ、それより飯だ飯、腹減ったぞー」
「準備してないから、余り物かインスタントだよ」
「ならカレーで良いよ、冷凍食品やらの愛の無い味は嫌だかんな」
愛を込めているつもりは無いのだが、冷凍食品より僕の料理が良いと言ってくれるのは、素直に嬉しい。
「これからもオレのために毎日飯を作ってくれよな」
「はいはい、場合によっては一生作るよ」
「言ったな?マジでそうさせるつもりなんだから覚悟しとけよさっくん!」
温めなおしたカレーの味は微妙なのだが、望は文句など言わず、綺麗に完食してくれた。
「しっかし降って湧いた休みだなぁ。そういやさっくん、もう頭痛は大丈夫なのかよ」
「うん、もう平気だよ、ありがと、望」
だが、頭痛が収まったのは、人混みから離れたからだ。現に、帰り道ではまた頭痛がしたわけであるし。
「さっくんは毎日無理してるからなぁ、キツい時はキツいって言えよ?」
「無理してるつもりなんか無いんだけどなぁ」
「朝早く起きて朝飯と昼飯の作り置きして、学校行って、帰って夕飯作って、洗い物だの掃除だのやって、1人がやる労働じゃねぇぞ」
「そんなこと言うなら何か家事覚えてよ、楽がしたいなー、なんて思ったり」
「不死身なんだし大丈夫だろ!」
「今まで言ったことを思い出してよ!?」
望の相手をしていると、休みが休みではなくなるのだった。




