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東京ファンタジー  作者: 亜空
岩獄戦線編
19/19

東京防衛陸軍第二師団

 業務用天幕の中で北川は唇を強く噛み報告に耳を傾ける。


『こちら第四中隊副隊長。もう遅い。すでに包囲された』


 外地に送った兵士総勢3140名の命が今消えかかっている。

 手が震える。

 桧垣さん。この重圧は俺には耐えられないかもしれない。


「こちら連隊HQ。中即団の佐々木三佐。壁外の部下を空から援護してくれるか?」

『もちろんそのつもりだが、正直どこまで耐えられるか……』


 それはそうだろう。敵軍は初日と二日目で減らしたとは言え、もとが数万の軍勢だ。今壁外に迫っているのは三万五千体の魔族、背後にはクラトシアもいるだろう。


「東雲!警備小隊を連れて壁外に行き魔王討伐を命じる。柊士長を死なせるな」

「はっ!」


 東雲が部下数名を連れて壁外に向かう。


「連隊HQより戦車中隊へ。もう一方の破砕口はさいこうより外地に進出。友軍を援護せよ!」

『こちら戦車中隊。了解した』


 インカムの背後から竜の咆哮のようなエンジン音を鳴らしコンクリートをすり潰しながら進む。


「戦力が足りない。今出来ることはしたが、どう考えても足りない」


 十倍もの戦力差は、依然として埋まっていない。

 思考を巡らせる。まずは外地の兵士をどうにか壁内に収容しなければ。

 あれこれ作戦を考えては破棄していると、灯火管制下にある天幕内で衛星通信機の着信が鳴る。

 静かに通信機器を持ち、耳にあてる。


「……はい。第41普通科連隊、北川二佐です」

『統合幕僚本部所属、渡辺陸将だ』

「渡辺陸将殿……!」

『伝達事項がある――』


 続く言葉に北川は言葉を失う。


 ――蒼夜は土嚢陣地の中でひたすら銃を撃つ。


「どんだけいるんだ魔族は!」

「やばいやばいやばい!」


 陸が叫び志信が慌てたように連呼する。


「リロード!」


 美月が横で弾倉を交換する。


「弾尽きた!」

「僕の使ってくれ」


 ほのかがチェストリグを探るが弾倉がなく來から受け取る。


「ありがとう來!」

「俺は5.56mmゴーゴーロク撃たないから……ね!」


 來は手に持つ狙撃銃に7.62mmナナロクニの弾丸を詰め撃つ。

 三千挺の銃口から吐き出される、毎秒一万発近い鉄の嵐が魔族軍の前衛にぶつかる。

 背後にはもう撤退出来ない。


「どうするこの状況。万歳突撃でもするか?」


 陸の軽口が激しい銃声の中聞こえる。


「そんな命令は出ていません。やるなら魔王が出て来てからでしょうね」

「はは!総勢三千人で突撃したらもしかしたら討伐できるかもな!」


 徐々に発射される弾丸の数が減る。弾薬を切らした隊員達はハンドガンに持ち替え撃つが小銃ほどの威力は無い。

 確実にドロヴァの前線が近づきつつある。

 重い獣の足音が耳に届くほどだ。

 蒼夜はチャンバーチェックをし弾薬が尽きたことを確認する。予備弾倉はもうない。


「弾尽きました」

「俺もだ」


 蒼夜の報告に倣うように、陸も小銃を地面に置き、吐き捨てる。

 ちょうどその瞬間、砲撃による揺れとは違う地鳴りを感じ発生原を探す。


「あれ見て!機甲科だよ!」


 ほのかが指差す方に目を向けると魔族の隊列の奥に鉄の塊が見える。

 もう一方の穴から這い出る戦車が隊列を作り魔族の背後に並ぶ。

 だが、敵前線から突撃の咆哮が響き渡る。

 ついに来たか。


「中隊副隊長各位!第17特殊近接小隊の東堂だ!戦車中隊の方角へ一斉突撃しないか⁉突破できればもう一方の穴への最短距離で戦車中隊の援護も受けられる!」


 東堂の発案に各中隊の副隊長達がすぐさま答える。


『乗った!それで行くぞ!』

『俺達もだ!』

『いい案だ!やってやるぞ東堂!』


 正面から突撃するドロヴァに対し蒼夜達地上部隊は右に方向転換。

 そして――。


「突撃ぃ!」


 東堂の号令に数千の兵士が突撃を開始する。

 蒼夜も半長靴を鳴らし一気に最前線を駆ける。獰猛な紅い目を睨み返す。

 これ以上誰も死なせるものか。

 魔力を手に持つ柄を通じて鞘の中の刃に流す。


 ――紫石術式「漆閃抜刀」――。


 抜刀と同時に鞘から闇夜の魔力が漏れる。

 闇の中に一閃。

 鋼の軌道が複数のドロヴァの頸を切り裂く。

 

「ガキが突破口を開いてる!続くぞ!」


 背後から友軍の掛け声。

 蒼夜は進み回転しながら斬り、返り血を浴びる前にさらに前進する。

 止まるな。背後の味方に道を作れ。

 魔法障壁の壁を一太刀で砕く。

 横から雷の閃光が走る。


 ――紫石術式「紫電一突しでんいっとつ」――。


「陸さん!」

「お前だけ良い恰好させるかよ!」


 白い歯を見せながら横を通り過ぎ、一突きで魔法障壁ごとドロヴァを絶命させる。


「熱の導子よ、赤銅の弦を震わせよ。 螺旋の旋律、猛炎の拍子。 鳴り響け、焦熱の終曲――。緋焔ノひえんのかなで!」


 背後からほのかの祝詞が耳を掠める。


 ――紫石法術「緋焔ノ奏」――。

 

 そして魔力の奔流が魔族の間を吹き抜ける。

 太陽のような輝きが夜空に広がり熱風が肌を撫でる。

 熱いな。

 視界の端で、ドロヴァの群れが炭化して崩れていく。

 だが、その隙を埋めるようにドロヴァの群れが押し寄せる。


「キリがない!全くもう!」


 ほのかのイラ立ちの声が聞こえる。


「走れ!突っ切るぞ!」


 東堂は叫びながら風を纏い竜巻のように突撃する。


 ――紫石術式「風鬼」――。


 風の群れが複数の敵の魔力障壁を砕き、肉を切り裂く。

 蒼夜も再度魔力を軍刀に流しその漆黒の目で獲物を無機質に見つめる。

 楔形陣形の最先鋒。

 目の前に控える無数の敵へ足を止めずにひたすら突き進む。

 斬って斬って避けては斬って。

 横にいる陸と東堂の援護の元、ついに戦車中隊の前に出る。


「こっちだ!急げ!俺達の後ろに回れ!」


 戦車のハッチから上半身を出し手を振って急がせる。

 

「援護する!機銃掃射!」


 途端、弾丸の嵐が左右に展開していたドロヴァの魔法障壁と体を砕き薙ぎ払う。

 蒼夜はそのまま戦車の横を走り振り返る。


「蒼夜!よくやったな!」


 陸と東堂。その後続に小隊の面々が走り向かって来る。


「包囲は抜けましたが、これからどうします。弾薬ももう尽きましたが」


 東堂は蒼夜の問いにしばし考え込み、耳に装着したインカムへ手を伸ばす。


「北川二佐!応答できますか?」


 インカムにノイズが走る。だが、応答はない。


「繋がらないな」

「司令部に何かあったのかな?どう思います?兄貴」


 陸は思案顔の東堂に言う。


「とにかく破砕口を抜けて壁内に戻るぞ」


 続々と戦車の壁の内側に入った兵士達の顔が戦場に立ち上る火の輝きで照らされる。

 皆疲れているが、まだ戦う気概はありそうだ。

 蒼夜は愛刀を鞘に納め破砕口へ足を向ける。


「蒼夜!伏せろ!」


 突然陸が叫ぶ。

 流れ星。いや、魔法砲撃か。

 燃える軌道を描き壁にぶつかる魔法砲撃がアークウォールを揺らしコンクリートの破片をまき散らす。

 闇夜に舞う粉塵を手で払いながら咳き込む。


「敵は俺達を逃がす気はないようですね」


 蒼夜の言葉に絶望の響きはない。だが、その言葉が示す状況は絶望を兵士に植え付けるのに十分だった。


「穴が……」


 美月が唇を噛みしめて塞がれた破砕口を睨む。

 魔法砲撃で砕けたコンクリートが破砕口を塞ぎ撤退路を途絶させている。

 戦車の向こうでは機銃掃射と壁上からの砲撃に晒されながら着実に距離を詰めて来るドロヴァの姿が蒼夜の目に映る。それに魔力探知で分かる。

 奥に魔王が控えている。


『後退!敵前衛と距離を開けるぞ!』


 戦車中隊の中隊長の指示だろう。この指示に他の中隊も従い戦車の後ろで隊列を組みながら後退する。


「時間稼ぎだが、仕方ない」「だが、この後どうする」「わからねーよ!北川二佐はどうした⁉」


 悲観的な声がそこかしこから上がる。蒼夜自身どうしたら良いか分からない。横で思案顔を浮かべる東堂の顔を見る。


「いっその事干渉地帯を抜けて瓦礫の山でゲリラ戦を展開するか?いや、弾薬が尽きた今それは難しいな」


 顎に手をあて考えを口に出している。ゲリラ戦は良い案だと思ったが確かに白兵戦になるなら離脱も難しい。

 

 その時。壁上が揺れるのを感じた。


 闇を切り裂く光の柱が三本、壁に平行に突き刺す。


「なんだあれ⁉」


 陸が驚きの声を上げる。隣の蒼夜も啞然とソレを見上げるしかない。

 装甲列車だ。

 内地にいた頃電車を見たことはあるが、それよりも遥かに大きく、存在感がある。五両に一両は巨大な大砲が乗っている。

 地上戦力が突如現れた装甲列車を呆けながら見上げていると、インカムに興奮を隠したような北川の声が流れて来る。


『通信が取れず申し訳ない。統合幕僚本部から通達が来た。第二師団の各連隊から精鋭一万三千名が援軍として来ている。今諸君の目に映っているのは希望だ。ただ全員を展開するのに十分かかる。死ぬ気で生き抜け』


 死ぬ気で生き抜けか。桧垣一佐も言いそうだな。銃声と魔族の叫びが届く中、壁上の上を見上げる。

 

 ――装甲列車の中から地上を見下ろす隊員達の顔は一様に緊張と少しの恐怖が浮かぶ。

 初めての降下命令。今まで高さ二百メートルからの降下など訓練したことすらない。だが、友軍が死地にいるのいだ。行かない訳にはいかない。


『訓練ではしたことないこの降下。だが、第二師団の精鋭と呼ばれるお前らなら必ず成功すると確信している』


 東京防衛軍第二師団所属。第十五特殊連隊。

 その隊長、西木野一佐の声が隊員達を鼓舞する。


「それにしても高度二百メートルからの降下なんて初めてだな」

「まったくだ。理論上可能って言ったって怖ぇよ」

「だが、下の部隊にはあの桧垣一佐が一目置かれていた少年兵がいるらしい。どうにか助けてやりたいな」

「おう!」


 第一中隊の中隊長、坂田一尉が部下に声を掛け、野太い返答が返る。


『第一から第六中隊、降下用意!』


 装甲列車のドアから身を乗り出し壁下を見下ろす。


『降下五秒前!』


 風が吹く。パラシュートが開いた時流されなければ良いが。


『降下三秒前、二、一、降下!降下!』


 戦場の業火の中に飛び込む。パサッと音を立ててパラシュートが開く。

 三千の空の戦士が地表に向けて降下する。地表からは魔法砲撃が吹き上げられるが、なんとか掠めている。

 地上部隊が俺達の降下援護のために場所を確保してくれている。それこそ死に物狂いで。


 ――空からの援軍を見届けて蒼夜は再びドロヴァ達に目を向ける。


「援軍は空挺降下と定速降下ユニット及び壁外エレベーターでの同時展開だ。可能な限り降下地点を確保するぞ!」


 中隊副隊長の一人が叫び、それに呼応して戦車中隊が前進する。半円を描き歩兵とドロヴァの間に立ち獰猛なエンジン音を鳴らして進む戦車とそれに続く歩兵。

 弾薬は尽き、疲労も重なる第十四陸戦連隊の面々はそれでも軍刀を握りしめ前に進む。


「蒼夜!行くぞ!」

「はい!」


 陸の声に即座に反応し、柄を握り敵陣に向けて疾走する。


「行かせるものかニンゲンの剣士よ」


 だが、聞き覚えのある不快な声が耳をひっかく。

 ああ、こいつとの再戦はきついな。


「また会ったな近衛騎士団とやらの団長、フィゴ」


 フィゴが蒼夜の前に立ちはだかる。周囲が彼を中心に戦場の喧騒が離れて行く感覚を覚える。

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