第二話・男の子から告白されるのってどんな気持ちなのかな?
その日──愛流ちゃんは、ウキウキした気持ちで登校しました。
なぜなら、昨日の夜に調整をしていた〝操り装置〟が完成したからでした。
愛流ちゃんは、ポケットサイズに分離させた、携帯用の子機を自分の机の上に出してニヤニヤしながら眺めます。
一見すると小型のラジオにも見える、装置からは、伸び縮みするアンテナが二本出ています。
あらかじめ、家にある本体にはスマホを使って送信した、操り電波を照射して人間を動かす指示が入っています。
愛流ちゃんの視線の先には、男友だちと談笑をしている、大好きな生贄くんの姿があります。
(生贄くんの、周囲にいるクラスメイト邪魔……この機械、ターゲットだけを狙った操り電波を出すコト出来ないから)
愛流ちゃんは、生贄くんが一人でいる時間帯を狙います。
(やっぱり、生贄くんが一人になる時間ってトイレかなぁ……放課後になる前に、電波を生贄くんに浴びせないと)
その機会は、意外な時間帯にやってきました。
体育の時間に生贄くんが「トイレに行ってきます」と先生に断りを入れて体育館から出ていくのを、愛流ちゃんは見逃しませんでした。
(ラッキー♪ このチャンスは、外せない!)
体育見学グループだった愛流ちゃんは、こっそりと体育館を抜け出すと、生贄くんが入った男子トイレにそうっと、忍び込みました。
愛流ちゃんは、まるで変態行為をしている気分でした。
「あれ? いない?」
てっきり、立ち便器の前で生贄くんが、立って放尿をしていると想定していた愛流ちゃんは、少し動揺します。
(個室の洋式便座かぁぁ!)
そう推理した愛流ちゃんは、並んでいる洋式便座に向けて操り電波を照射すると、急いで男子トイレから出ました。
男子トイレから出た愛流ちゃんは、念の為に男子トイレに向けて、もう一回だけ、パワーを最大にした電波を照射しました。
男子トイレの隣には、女子トイレがありました。
操り装置が熱くなって、愛流ちゃんはもう使えなくなったのを知りました。
「子機一号は、これで寿命……セミよりも短い一生だった、中のパーツを交換すれば、子機2号になって復活するけれど……もう部品が」
体育館に足早にもどる愛流ちゃんは、廊下でニヤけます。
(放課後が楽しみ)
◆◆◆◆◆◆
プログラムした時刻に、愛流ちゃんは指定した校舎裏の場所で、壁に背もたれて……告白されるのを待っていました。
操り電波は人間の脳に働きかける、一種の催眠波のようなモノで。
愛流ちゃんが本機に吹き込んだ暗示指示に従って、脳に操り波を浴びせられた人間は行動を起こします。
愛流ちゃんは、普段は人の目が無い場所を選んで操り波を、生贄くんがいるはずのトイレ個室に向かって照射したはずでしたが、この日に限って。
学校のイベント準備で、体育用具室を生徒たちが行ったり来たりしていました。
(しまったあぁ……誰の目も無い場所で、生贄くんから告白される予定だったけれど……まさか、こんなに人目があるなんて……まっ、いっか)
愛流ちゃんが、生贄くんが来るのを待っていると……生贄くん……と、もう一人。
隣のクラスの女子が一名、なぜか生贄くんと一緒に来ました。
生贄くんと、隣のクラスの女子は、並んで愛流ちゃんの前に立ちます。
(なんで? 知らない隣のクラスの女子まで一緒に? あっ! もしかして)
聡明な愛流ちゃんは気づきました、パワーを最大にした電波を照射した時に。
男子トイレの横にある、女子トイレに隣のクラスの女子が入っていたコトに気づきました。
(その知らない女の子の脳にまで、操り波の影響が……まっ、いいか)
◇◇◇◇◇◇
イベント準備の生徒たちが、見ている中で……脳を操られた生贄くんと、知らない隣のクラスの女子が真剣な顔で同時に言いました。
「「愛流、好きだ」」
愛流ちゃんは、昔の古いマンガを参考にして、名前を呼び捨てにさせました。
呼び捨て効果で愛流ちゃんの心臓に、ゾクッときました。
(うおっ、男の子から名前呼び捨てにされると……なんか、距離が縮まって恋人っぽい……うおっ)
生贄くんと、知らない隣のクラスの女子が、言葉繰り返します。
「「愛流、好きだろ……愛している、ずっとおまえだけを見ていた」」
操り波で無理やり、男の子から告らせた愛流ちゃんは、最高の気分でした。
(うわっ、これが告白か……よし、次のプログラムした行動を、早く早く)
生贄くんと、知らない女の子は愛流ちゃんに、古典的な壁ドンを争ってしました。
壁ドンも、愛流ちゃんが銭湯に置いてあった、古い少女マンガコミックに描いてあって、興味を覚えた愛流ちゃんが一度も男の子からされてみたかったコトでした。
(これが、壁ドンかぁ……次の行為は)
生贄くんと、知らない女の子は争うように壁ドンから発展した。相手の股に片足を入れて逃げられなくする。
股ドンをしました。
二人が強引に股ドンをしてくるので変なポーズと、変な気分に愛流ちゃんはなりました。
(女の子から、斜め股ドンされるなんて変な気分……さあ、生贄くんもう一度告ってから……あたしにキスをしなさい)
生贄くんと知らない女の子が愛流ちゃんを見つめながら言いました。
「「愛流……好きだ、愛している」」
生贄くんと知らない女の子の顔が、頬を密着させて愛流ちゃんの唇を奪おうと接近します。
あと少しで唇と唇がドッキングする……その時、操り波の効果が切れた生贄くんが、悲鳴を発して逃げ出しました。
「⁉……ひぇぇぇぇぇぇ⁉」
知らない女の子の方は、放心状態でその場に座り込みました。
「残念、もう少しで告白から発展した、男の子の能動的なキスをされたのに……操り機械は、もう少し手を加える必要がある……次は生贄くんにどんなコトをしようか?」
この先、続くかどうかはわかりません